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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第三章

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85話 面倒な仕事はエールを飲んでいてもやってくる

 

 早朝のギルドは騒がしい。大半の依頼はオープンと同時に掲示板に張り出されることから、大勢の冒険者が押し寄せるためだ。

 依頼争奪戦。人数制限のある依頼は大抵揉める。どっちが先に依頼書に触れていたとかで、いい大人が取っ組み合いを始め、それでも収まらない場合は、賭けで決めるのである。じゃんけんてのも稀にあるな。


 しばらくすると冒険者達は依頼に出てしまうので、それまでが嘘のように静かとなる。騒がしさを嫌いあえて時間をずらしてやってくるパーティーもいるくらいだ。そういったやつらは、やることを決めているか、仕事に不自由していない奴らである。

 銀の護剣(シルバーブレイド)ほどにもなるとホームにいても依頼からやってくるので、ギルドに顔すら出さなくても良くなるとかなんとか。実に腹立たしく羨ましい。


 俺はギルドに併設されている酒場でエールを呷る。


「今日もS級の依頼はないんだってよ。笑っちまうよな。いよいよ何のためにS級になったのか本気で考えたくなってきたよ」

「そう気を落とすなって。本部での評価は上がっているんだろ? だったら待っていればじきに指名依頼がばんばん入ってくるって」


 同業者である【マダニ】がにかっと笑う。

 比較的年も近くそこそこ腕も立つ熟練組の一人だ。最近は娘ができて真面目に生きているとかなんとか。ランクはBである。


「そういやこの前の金貨はなんだったんだよ」

「そこのお姉さん、エールもう一杯」

「おい」

「小さいことは気にすんじゃねぇよ。詫びだよ、詫び」


 だから何の詫びかを訊いているのだが。しかし、S級である俺はともかくB級であるこいつが朝っぱらからエールを呷っていていいのだろうか。依頼はどうした依頼は。


「お前は依頼を受けないのか? B級ならいくらでもあるだろ?」

「それがなぁ、パーティーのメンバーが全員風邪引いちまってよ。この前のアイスウルフの討伐で下半身が氷付けになったのがいけなかったみたいだ。とにかく暇なんだよ」

「あー、凍える吐息にやられたか。あれは一歩間違うと全滅する。対策はしてなかったのか?」

「してたさ。耐性アップの魔道具を身につけて、仲間の魔術師にはバフもかけさせた。途中までは順調に追い詰めていたんだ。でもそれが罠だった。俺達は引き込まれていたんだよ。別のアイスウルフが三体現れて挟み撃ちだ。四体の凍える吐息は、耐性を多少上げた程度では防ぎきれなくて全員が凍り付いた」


 絶体絶命のマダニのパーティーは死を覚悟したそうだ。

 そこに突然乱入したのが、フレイムウルフの群れであった。アイスウルフとフレイムウルフはこの辺りでは、度々縄張り争いをする魔物だ。その縄張り争いに巻き込まれたといったところだ。これ幸いとマダニ達は、凍り付いたズボンを脱ぎ捨て、下半身丸出しで逃げ出してきたというオチのある話であった。


「あれはマジで玉が冷えたね」

「どっちの意味でだよ」


 呆れつつ酒の肴としては、まずまずの内容ではあった。


「そういやそろそろアレの時期だろ。お前はどうするんだ」

「もちろん受けるさ。A級は夢だからな」


 アレというのは昇格試験のことだ。

 通常のランクはギルドが認定を一任されていて、E級~B級まではどこであろうと実力さえあればなることができる。


 しかし、A級とS級だけは異なり、厳しい試験が用意されている。


 というのもA級とS級はその地方や国を代表する冒険者であり、強さだけでなく他の要素も求められる上澄みなのである。象徴となる者達には相応の能力が要求されるということだ。

 とまぁ地味にハードルを上げているが、実際はそこまで難しい試験ではない。最重点されているのはもちろん実力だ。その次に知識と経験。人格面も審査に入っているが、最低限礼儀があればたいていは受かる。


 口下手かつ挙動不審なザインが受かっているくらいなのだから、ギルド本部がどこを重視しているのかくらいは容易に察することができる。


 ちなみにだが、パーティーのランクは数で決まる。そのランクを有する者が半数以上いることが条件であり、A級冒険者が半数所属していなければA級パーティーと呼ぶことはできないといった感じだ。ウチは全員がS級なので混じりっけなしの100%S級である。


「でも前回は素行不良で落とされたんだろ? 大丈夫か?」

「試験官に賄賂を渡そうとしたのがいけなかったみたいだ。アバンテールでは普通だから本部でもいけると思ったんだけどな。つーわけで近うちに王都に行くぜ。なんかこう勘が囁いているんだ。今度こそ受かるって」


 早くも赤い顔をしたマダニはにんまりしている。

 さすが四回試験に落ち続けている男だ。諦めが悪い。でもまぁ、こいつはそれなりに実力はあるし、知識も経験も豊富だから受かっても不思議ではないのだけれど、なんかこうさ、いつもおかしな知恵を働かせて別のところで失敗するんだよな。不運というか。


「おい、ラックスはいるか」

「ん?」


 声がして振り返ると、ギルマスが俺を呼んでいるようであった。

 あの様子だと仕事ですかね。近く名称未定(アンノウン)に指名依頼があるかもしれないと匂わせていたからそれが決まったのかな。割の良い仕事であることを願いますよっと。


 俺はジョッキの中のエールを飲み干し、マダニに「またな」と別れを告げる。



 ◇



 俺はデスクに置かれた一枚の書類を手に取った。


「ギルド本部からの依頼? しかもA級昇格試験の特別試験官って」

「今年開催される昇格試験の手伝いをしてほしいそうだ。お前も知っていると思うが、最終試験である実技では毎年現役のS級に担当して貰っている」

「なぁ、この報酬低くないですか?」

「先に言っておくがこの依頼は断れないぞ。表向きは依頼の形だが、実質本部からの命令。S級の責務でもある後進育成の一環と思ってほしい」


 いやだなぁ。断りたいなぁ。面倒くさいなぁ。しかも講習も含むと一週間以上王都に拘束されることになる。すこぶる割りが悪い。かといって断ると今後本部に睨まれることになる。長いものに巻かれるには喜んで引き受けるのが正解なんだろうな。


 あ、でも待てよ。よくよく考えてみると、むしろこれは都合が良いのでは?


 王都にはあの王立図書館がある。新しい付与を見つけるには最高の場所だ。

 その上、シルクもタイミング良くホームに戻っている。ちょうどこの時期は王国全土から人が集まる『豊穣祭』も重なっている。イベントが多い王都滞在は、シルクとの距離を縮めるには絶好の機会。悪くないな。だんだん割の良い仕事に思えてきた。 


「今年は祭りがすぐあとにひかえていることもあって、試験の方も例年にない数になると予想されている。特別試験官も数を増やし対応するそうだ」

名称未定(アンノウン)だけじゃないと?」

「そう覚えていて貰って構わない」


 ウチ以外のS級も試験官にねぇ。揉めないなら別に良いけど。

 S級になるような奴らはなにかと常識知らずで癖が強め。合わない奴らはとことん合わない。相性が悪い相手と組まされると本当にしんどいから。


 ちなみに講習期間も試験期間も、寝食は本部が面倒見てくれるそうだ。王都には良い宿も多い。タダ宿タダ飯は密かな楽しみだ。


「真面目話をすると、試験官としての経験は後々の進路にも大きく影響してくる。生涯現役も大いに結構だが、引退後にギルドで働くというのも選択の一つだ。人生というのはどう転ぶかわからん。可能性を見つける意味でもやって損はない仕事だ」

「分かったよ。引き受けりゃあいいんでしょ」

「ありがとうっ! お前ならそう言ってくれると思っていた!」


 心の底から安堵した様子のギルマスに、中間管理職は大変なんだなと内心で同情する。


「とりあえず持ち帰って誰が行けるか聞いてみるよ。最悪、俺だけでも試験には行くから安心してくれ」


 立ち上がった俺は、軽く手を上げてギルドを出た。



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