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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第三章

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83話 あなたは誰ですか?

 

 薄暗い夜の大通りを、二人の男達が肩を組みながら進む。


 彼らの足はどこかふらふらと頼りなくおぼつかない。

 二人の男は赤みを帯びた顔で、近所迷惑もなんのその、下手な歌を合唱する。


「うるせぇぞ、夜中に下手くそな歌を歌うんじゃねぇよ」

「子供が起きちゃったじゃない。どうしてくれるの」


 通りの建物では、下手な歌にヤジが飛び始める。

 二人の男はその様子を気にもとめず歌い続けていた。


「悪いねぇ、毎回奢って貰って」

「いいさ。僕らの方が稼いでいるからね」

「へ、へぇ、俺達よりね……」


 ルークと肩を組むラックスは、一瞬酔いが覚めた。

 嫌な現実を思い出した彼は、片手に持った酒瓶を呷り、この世知辛い現実をしばし忘れるに努める。


 この二人が共に飲むのはこれが初めてではない。魔王神教によるダンジョンでの襲撃以来彼らは度々ふらりと飲みに出ていた。ラックスは情報収集とタダ酒を求めて。ルークも情報収集を兼ねつつラックスから”世界の広さ”を教わっていた。


 二人は十字路にさしかかり足を止める。


「あ~、ここでお別れだな。ウチのホームあっちだから」

「ふふ、ふふふ」

「なんだよ笑って。気味が悪いな」

「いや、ラックスの顔って歪んでて面白いんだな」

「お前の顔も歪んでるよ。ふへ、ふへへ」


 ラックスとルークは互いに相手の顔を指さし笑う。


 満足するまで笑った彼らは、それぞれが帰路へとついた。ホームに向かって歩くラックスの足はふらつきその視線も定まらない。それでもなんとか帰宅すべく、ボトルを片手に暗い道をよたよたとスローペースでホームを目指す。


「うっぷ、気持ち悪い」


 突然の吐き気にラックスは、路地に入りびしゃびしゃと嘔吐した。吐き終えた彼が横を見るともう一人同じように吐いているものが。ギルドマスターである。


「……」

「……」


 二人は言葉を発さずその場から離れる。気まずさと気持ち悪さに話をする気になれなかったからだ。酔いが進むラックスは、遂に力尽き他人の家の壁に寄りかかり、うとうとし始めた。


「あ?」


 ふわふわした意識の中で目を覚ましたラックスは、自身が誰かの肩を借りて歩いていることに気が付いた。彼はぼんやりと仲間が迎えに来てくれたのかと考えた。


「悪いねぇ。迎えに来て貰って」

「貴方には拾っていただいた恩義がありますし、このくらいならたいした労力ではないので。しかし、ラックス様は本日もずいぶんと飲まれたようで」

「酒場でドワーフに絡まれちまって、そのまま大宴会になったんだよ」

「相変わらずよく分からない展開に」


 ラックスは肩を貸してくれる相手が誰なのかを確かめるべく隣に視線を向けた。

 しかし、彼には判別できなかった。月光によって影となっていたからだ。かろうじてシルエットが確認できたラックスはいよいよ誰か分からなくなり冷や汗が出る。


(あれ? 本当に誰だ? なんか妙にがさがさした触感だし。話をしている感じからしてメンバーっぽくない。というか人? あれ、でも待てよ。こんなことが前にもあったような。あれはいつだったかな……眠い)


 再びラックスの瞼が重くなってゆく。

 がくっと一瞬落ちたラックスは慌てて目を覚ました。


「もう少しだけご辛抱を。間もなくホームに到着します」

「ああ、本当だ。助かったよ。あんたには恩ができたな。良かったらウチに加入しないか」

「すでにさせていただいていますよ」


 ラックスは「すでに?」と言葉の意味を理解できないまま首をかしげる。

 無事にホームに帰還したラックスは寝床に入るなり眠りに落ちてしまった。



 ◇◇◇



 俺は気持ち悪さに目を覚ましトイレに駆け込んだ。

 ひとしきり内容物を吐き出したところでトイレを出ると、窓から差し込む陽光がひどく眩しく、思わず目を細めてしまった。締め付けるような頭の痛みとなくならない胃の不快感。喉の渇きを覚えた俺は、とりあえずダイニングへと向かうことにした。


「おはよう」

「もうお昼ですよ。どうぞお水です」

「サンキュウ」


 ダイニングの席に腰を下ろすと、エプロン姿のフェリスが気を利かせて水を出してくれた。グラスの水を一気に飲み干せば不快感は僅かだが軽減された気がした。さらに『肉体保護』を自身の身体に付与する。これで二日酔いも多少マシになる。


 そういえば昨日はルークと遅くまで飲んでたんだっけ。それでこの絶不調か。まずいな。途中から記憶が無くなっている。どうやって戻ってきたんだったかな。ここにいるってことは一人で戻ってこられたってことなんだよな?


「食事は食べますか?」

「まだキツいです。一応食べるつもりだから置いておいてくれる?」

「しかたありませんね。少し待っててください。二日酔いに効くものを用意しますから」


 台所に戻ったフェリスはさっそく調理を始めた。


 フェリスがよく作ってくれる特製のスープだろう。あれは本当によく効くのでいつも助かっている。程なくしてスープが目の前に置かれ、俺はその優しい味わいに顔をほころばせる。真横の席に腰を下ろしたフェリスは呆れた様子だ。


「何度も言っていますが身体を大事にしてください。貴方はリーダーなのですよ」

「そのとおりでございます。申し訳ございませんでした」

「怒っていませんから。ところで剣はどうしたのですか?」


 彼女の視線が俺の腰に向けられていた。

 そこにはあるはずの剣が消えていた。


 どこかに忘れたわけでも落としたわけでもない。ここにないのはきちんと理由がある。


「知り合いの鍛冶屋に預けたんだ。長らくまともな手入れもできていなかったから、これを機に細かいところまで診て貰うことにしたんだよ」

「そういうことですか」


 納得したようにフェリスは頷く。

 そうしている内に体調は回復し気持ち悪さは消えていた。自室に戻って調べ物の続きをするか、と席を立ったところで昨夜の何かを思い出しそうになる。


 帰り道に誰かいたような……いや、気のせいか。


 その時、どこからかノノンの声が響いた。


「お帰りっしょ。ほしかった情報は手に入れられた?」

「貴様は誰だ。シルクはお前のような者を知らない」

「お、おお、おかえりぃ」

「貴様も誰だ。シルクはそんなふしだらな格好の女と知り合いではない」

「ふ、ふふふ、ふふ、ふしだらぁ? ボクが?」


 どうやらシルクが戻ってきたようだ。

 案の定というべきなのか、ザインとグランノーツの本当の姿を知らないシルクは混乱しているようであった。


 俺とフェリスは大急ぎでシルクの元へと向かった。



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