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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第二章

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75話 敵だけど同情することは往々にしてある

 

 繰り返される荒い呼吸。

 杖と杖がぶつかる硬い音が響く。


 付与士は後衛の戦闘職だ。荒事を想定して護身術くらいは身につけているものだが、基本的に近接は想定外であり、サポートが上手くいなかった結果、訪れる最後の自衛手段。まぁ、後衛全般に言えることかもしれないが。

 つまり直接戦闘に持ち込まれることは、付与士にとって最も避けるべき、万策尽きた屈辱的な状況なのである。嫌がらせとしては最上級ではないだろうか。


「直書きなんのは、一番最初に禁止される技術だろうがよ。付与士は後衛職なんだよ。なんでこんなところにまで来てんだよ。おかしいだろうがよぉ!」

「俺から言わせると、これほど恩恵のでかい技術を使わない方が不思議だけどな」

「近づいたら斬られるだろうが! 死ぬんだよ! 馬鹿なのか!?」


 いやいや、避ければいいじゃない。などと口に出しそうになってやめた。

 ずいぶん前だが師匠にこう言われたことがある。『他人がお前と同じことをできると思うな』と。これまで出会った付与士にも、幾度と正気を疑われもしたからな。これに関しては全開くんの感覚が正しい。


「くっ、まだだ。まだ負けていない。俺様は無敗の付与士だ。ここでこいつを叩き伏せれば逆転の目はある」

「その割に苦しそうだな。至近距離の打ち合いは苦手か?」

「黙れ! すぐに殺してやるからな! 覚悟しておけ!」


 その割にキューティクル全開くんは、顔をゆがめじりじりと後ろに下がり続けていた。

 予想通り近接戦は経験が浅いようだ。打ち込みは弱く足運びも怪しい。慣れないことを強いられているせいか、視線もしきりに移動し呼吸はますます荒くなる。


「おっと、そうはさせない」

「ぎゃっ!?」


 左手で魔術文字を描こうとしたので、ぴしゃりと叩いて中断させる。


 付与士を相手にする際は、杖だけではなくもう片方の手にも注意を払う必要がある。利き手がメインなら反対の手はサブ。いざという時の補助として使用される。ちなみに俺は左右どちらも利き腕なので右手に近い速度で筆記可能だ。


 短杖と短杖が交差する。大きく踏み出し急所を狙うが、ぎりぎりで防がれていた。近接戦闘の経験こそ浅いが、護身の技術は身につけているようだ。


「はは、はははっ! 有利な状況に持ち込んだつもりだっただろう! あいにく俺様には、剣術の心得があるんだ! 逆転も時間の問題だな!」

「本当にそうか? 俺を倒しても、壁となる味方がいなければ危機的状況は変わらないと思うけどさ」

「……ばかなっ」


 俺達が杖を打ち合っている間に、騎士達は半数以上の敵を倒していた。

 乱戦に持ち込めば勝つのは騎士達だ。そして、俺はあくまでもこいつの足止め役。最悪勝てなくとも勝利には貢献できるって話だ。とはいえ付与士同士の戦いで負けるのは、それはそれで気分が悪い。てことでそろそろ勝たせてもらうとしようか。


 俺の杖を防いだ瞬間、相手の杖からこれまでにはなかった鈍い音が聞こえた。


「まさか、杖を折るつもりか!? それが狙いで近接に!」

「俺の杖は竜の背骨で作られている。まともにやれば木材の杖はひとたまりもない。杖職人に言われなかったか? 付与士の杖は直接戦うものじゃないって」

「くそっ、くそくそくそっ!!」


 ついに俺の杖が全開くんの杖を砕く。

 杖を失った奴は、背を向け逃げだそうとした。


「――ドワーフ達は逃げずに堂々と戦ったぞ?」


 全開くんの背中に、直書きで『嘔吐』『下痢』を付与する。


「ぶぎゃばぁ!?!?」


 上と下の大洪水によって、キューティクル全開くんは白目を剥いて気絶してしまった。

 つい直書きで付与してしまった。さすがに死なないよな? いくら俺でも嘔吐と下痢で殺してしまったら罪悪感を抱くというか。

 騎士の方も最後の一人を斬って戦闘は終了する。

 こっちが片付いたのに気が付いた隊長が、微笑みながら俺のところにまでやってきた。


「付与士とは思えぬ動きに感服した。さすがはS級というべきでしょうな」

「それより怪我は?」

「死者はなく軽傷のみです。あらかじめ回復薬を持ち込んでおりますので、ご心配には及びませんよ」


 回復薬を使用せずそのままでいてくれ、とは言いにくいな。ザインがこの場にいたらさぞ喜んだだろうけど仕方が無い。


「彼らはどうする?」

「……」


 気掛かりなのは今も顔色が悪いドワーフ達だ。

 やむを得ないとはいえ敵に協力してしまった立場だ。このまま無罪放免とは行かないだろう。場合によっては重罪も。


「こういうのはあまり言いたくはないが――」

「彼らは王国に敵対する邪教に加担した。情状酌量を含めても刑罰は決して軽くはない。ただ、死刑にだけはさせないとここで約束いたしましょう。こんな男の顔でも利く相手はいましてな」


 隊長はそういいつつ、覚悟を決めたような表情でドワーフを見つめていた。

 その目はかつて戦場で幾度と見たものだ。だからこそ信用できると俺は考えた。


(将軍は良い部下を持っているんだな。彼らなら魔王の復活も阻止してくれそうだ)


 ドワーフ達が騒ぎ出す。

 部下に呼び戻された隊長がその中心へと向かった。


「なんの騒ぎだ」

「それが家族を先に助けてほしいと言って聞かないのです」


 応対した騎士の一人が困ったように隊長へ返事をした。

 すかさずドワーフが隊長へ駆け寄り懇願する。


「家族と仲間を、助けてくれ。今も囚われているんだ」

「我らの任務は教団の壊滅だ。申し訳ないが救出はすぐにはできない」

「案内でも何でもする。頼む」

「……ラックス殿」


 え、俺? いやまぁそんな気はしていましたけどね。

 依頼は騎士を敵の中枢に案内だけだし、あの扉の向こうがそうなら仕事は終わったも同然だからな。


「彼らの家族を助けてきてくれないか。報酬は追加で支払う」

「じゃあここからは別行動ってことだよな? こっちに敵が来ないよう派手に頼む」

「なるほど。我々を囮にしてその間に救出すると。やはりラックス殿はこざかしいな」

「ストレートに言うのはやめてもらえますかね?」


 俺だって傷つくときは傷つくんですけど。

 まぁ、他のドワーフを見捨てるのも後味悪いと考えてたから、喜んで依頼を受けさせて貰うけどさ。俺一人か。フェリス達が戻ってくる気配は今のところない。ここで待つ時間は無いかな。騎士達も使い捨て転移魔法陣を設置し、いよいよ突入に向けた増援を呼ぶつもりみたいだし。


「家族が捕まっている場所は分かるんだな?」

「もちろんだ!」


 話はまとまり、ドワーフの一人が案内をしてくれることに決まった。


 ◇


 扉の向こう側は、石造りの通路が延びていた。建材は比較的新しく、元からあった物でないことは素人目でも分かる。通路の両側にはいくつか扉が設置されていて、一番近い扉を開けると、二段ベットがあり生活の痕跡が見て取れた。デスクには禍々しい像が置かれており、魔王神教徒のいう魔王神なのだと察する。

 さらに通路を進み十字路にさしかかる。どうやら案内役によると、俺と騎士はここから別行動になるようだった。ずらりと隊列を組んだ総勢三十名の騎士。つい先ほど転移魔法陣で合流した彼らのお仲間である。ちなみに退路は同時に転移してきた兵士によって確保済みだ。


 十字路で俺と隊長は挨拶を交わす。


「ドワーフの救出頼んだぞ」

「派手に暴れてくれると助かる」

「引き受けた。そうだ、自己紹介がまだったな。私は騎士団副団長のダニエルだ」

「副団長だったのか。ただの隊長と思ってたよ」

「よく言われる。ではまた会おう」


 真っ直ぐ進む彼らを見送った。ドワーフ達の話では、教団の研究部屋が真っ直ぐ進んだ先にあるそうだ。魔王ヘカトケイルもそこで復活の時を待っている。


 騎士達と別れた後、俺と男性ドワーフは十字路を左に行く。


「ここには元々魔神時代の遺跡があったそうだ。俺達が連れてこられた頃には、見る影もなくなっていたらしいが」

「遺跡? 一体何の遺跡だ?」

「さぁな。俺達に分かるのは魔王神とやらを生み出すのに都合の良い環境だったってことだろ。俺達はただ、『相談役』と呼ばれている男に、設計図に書かれた物を作れと命令されただけだけなんだ」

「魔王神を生み出す?」


 ぱたとドワーフが足を止める。


「奴らは魔王を復活させると同時に強化を施している。俺達はこの場所に連れてこられ、魔王神とやらを生み出す装置を作らされていた」


 それを聞いて疑問が生まれる。

 ドワーフは鍛冶や金属加工技術に優れた種族だ。いくら彼らでもそんな装置を設計図を渡されただけで作れるだろうか。それにドワーフだからといって錬金術師のように魔道具作成に優れているわけではない。彼らとて前提となる知識が必要だ。そもそもその相談役と呼ばれる男は、どうやってその設計図を手に入れた? 


「よく設計図だけで作れたな」

「仲間の一人に頭の良い奴がいてな。そいつが設計図を読み取ってなんとか完成させたんだ。錬金術を囓っていたとかなんとか言っていたな」


 頭の良いドワーフね。

 ……まさかな。


 ◇


 牢が並ぶエリアに到着。すぐに俺はドワーフ達が囚われた牢を発見した。

 ざっと数えて百人余りだ。中には赤ん坊もいて少々驚いた。


「助けに来たぞ。王国軍が来てくれたんだ。今すぐ開けてやるからな。くそっ、鍵はどこだ。あと少しだってのに」


 案内役のドワーフが、牢を前にして右往左往していた。

 俺は彼の肩を叩いて落ち着かせる。


「俺に任せてくれ。この程度なら超絶技巧で、この通り」


 クサヤさん直伝のピッキングで牢はあっさり開く。

 開け放たれた出入り口から、ドワーフ達が助かったとばかりにどっと押し寄せ通路へと出てきた。さて、もう一つの牢も開けてやらないと。


「き、来た、牢番が来たぞ!」


 若いドワーフの一人が叫んだ。


 かん、かん、かかん。通路の奥で誰かが硬いもので金属を叩く。それは金属製の爪を両手にはめた教団の信徒であった。刃物のような爪を鉄格子に当てながら、ゆらりと不気味にこちらへと歩いてきている。


「だめじゃないか。奴隷を逃がしちゃ。お仕置きが必要だな」


 そいつは、ぎょろりとした不気味な目で俺を見つめていた。

 同時に猛スピードでこちらに近づく一つの反応。俺の背後より接近するそれに思わず口角が緩んだ。


「なんて間が悪い」

「ずいぶん早い後悔じゃないか」

「するのは、あんたじゃないかな。回復したくてうずうずしてたしさ」

「ぶげぇっ!?」


 俺の真横を通り過ぎたザインは、牢番の顔面をアッパーで跳ね上げた。

 牢番は床に倒れる。だが、ザインは物足りないのか相手を回復すると、さぁ来いとばかりに奇妙な構えで続きを促す。


「ひぃいいいい!!」

「逃げるなぁあああ! 血をぉおおお!」


 ザインに捕まったのが運の尽き。

 彼は気絶するまでボコボコと回復のループを味わうこととなった。



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