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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第二章

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72話 主役は遅れて登場するものだ

 

 アバンテールがあるカールラッツ領から北東へ進むとロックバルク領がある。

 ロックバルク領には、切り立った崖や無数の巨岩が転がる翼竜の森があり、その先に『翼竜山』がそびえ立っている。


 翼竜山は古い時代の鉱山と言われている。

 鉄が取り尽くされると鉱山は閉鎖され、今のように魔物の住処になってしまったそうだ。


 時々繁殖しすぎないように、冒険者や領内の兵が間引いていたりするそうだが、なにせ範囲は広い上に内部も複雑、危険な魔物も多く、ギルドも領も全貌を把握し切れていないのが現状だ。魔王神教はそんな手が出しづらい環境を利用し、鉱山内部に密かに拠点を築いて活動しているそうなのだ。


 幌馬車が現地に到着し、俺達は荷台から飛び降りた。

 森の中に、突如として現れた切り開かれた土地。数え切れないほどの天幕が並び、王国軍の兵士が槍と盾を手に訓練を行っていた。


 独特の緊張感が漂う光景に、かつての魔王との戦いの日々を思い出す。


『剣聖様!』


 若い兵士が笑顔で駆け寄ってくる。

 俺は彼を抱きしめようとしたが、彼は俺をすり抜け消えた。


(また思い出したくないこと思い出してしまった。くそっ)


 広げていた手を握りしめる。


「気分が悪いのですか?」

「大丈夫だ。少し昔を思い出しただけさ」


 振り返るとフェリス、ザイン、グランノーツが俺を心配そうに見つめていた。


 嫌なことを思い出してしまったな。軍に関わるといつもこうだ。

 毎度のことながらしんどい。秒で仕事を終わらせて帰りたい。


「ようやく来たな。名称未定」


 将軍が現れ、相変わらずの仏頂面で声をかける。


「事前に伝えたとおりメンバーは一人欠けている。かまわないな?」

「もちろんだ。詳細は奥のテントで行う。他の面々もすでに顔を揃えている」


 マントをひるがえし先を行く将軍。彼の進行方向のはるか先には一際大きい天幕があった。

 天幕にはファルナス王国の旗である、竜と剣の紋章が掲げられていた。三人には先に休んでくれと伝え俺だけ天幕へと入る。


「なるほど。ギルド本部も本気って訳か」


 天幕内部には、同業者がテーブルを囲んでいた。


 S級パーティー『銀の護剣(シルバーブレイド)』――【ルーク・グロリアス】

 A級パーティー『残酷茶会(キリングティータイム)』――【リリー・ガーネット】

 S級パーティー『獣歌(アンセム)』――【ギル・ブラット】


 いずれも名のあるパーティーのリーダーだ。


 残酷茶会(キリングティータイム)は、以前あった集まりで見かけたことがあるので顔だけは知っていた。設立からたった二年でA級にまで成り上がった新進気鋭のパーティーだ。このままの勢いでランクアップすれば、名称未定(アンノウン)の記録を抜いて最速でS級になった冒険者となるだろう。

 リーダーのリリーは、波打った長髪にドレス姿と、とても冒険者とは思えない可愛らしい女性の姿であった。どこでも茶を飲むって噂は本当らしい。将軍を目の前に悠々と、ティーカップを手にしているではないか。


名称未定(アンノウン)は眼中にないってことですか。それでも礼儀として挨拶くらいはしてくれてもいいと思うんですけどね。歴で言っても先輩だし)


 次に目が合ったのはギル・ブラットだ。王国には獣人も数多く生活をしている。高い身体能力から冒険者になるものも多く、中には獣人だけでパーティーを組む者もいる。

 痩せ型の目つきが鋭い狼族の男は、俺に気が付くと舌打ちをした。


「ちっ、名称未定(アンノウン)もいるのかよ。めんどくせ」

「よぉギル。久しぶりだな。なぁ、また割の良い仕事紹介してくれよ」

「近づくなクソ付与士。近づいたらその目をえぐり出すからな」

「まぁまぁ、一緒に大人の店に行った仲じゃないか。ツンケンするなって」

「全然こたえやがらねぇ。どういう精神構造してんだ。くそっ、なんなんだよこいつ」


 ギルはそこそこ付き合いのある同業者である。

 S級同士ってこともあってか、度々顔を合わせ一緒に仕事をすることも。見た目はツンツンしているが中身は根が優しい良い奴だ。


「やぁラックス。君達も参加するんだね」


 爽やかに挨拶をするのはルークである。

 相変わらず無駄にきらきらしていて白い歯が眩しい。ギルはさらに舌打ちする。


「A級一つにS級三つ。それに王国軍。魔王神教が噂以上に相当ヤバい相手ってことか。あるいは竜の巣穴が危険ってことなのか?」

「両方だね。獣歌(アンセム)は巣穴に潜るのは初めてかい? じゃあ覚悟はしておいた方が良い。竜種がいる地域は、魔物の力が強くなる傾向があるんだ。生息する魔物も完全にはわかっていない。幸いなのは主である竜がもういないってことだね」


 ルークは天幕内に響くようにギルの疑問に答えた。


 竜は生きた災害だ。その強さは種類によってピンキリだが、低級でも村が地図から消える。文字通り怪物だ。出会ったらほぼ勝ち目はない存在である。一方で竜の素材は高性能な武具を生み出せることと、希少性から高値で取り引きされている。鱗の一枚でも手に入れられれば目下の金欠は解決だ。


 ちなみに竜の巣穴で魔物が強化される理由は、主に竜の血や糞によるものだと推測が立てられている。竜種は膨大な魔力と強靱な生命力をその身に宿しており、その血を飲めば寿命が延びるとまで言われている。実際は飲んだところで人には効果は無いし高確率で腹を壊す。


「挨拶はそこまでにしてもらおう。席につきたまえ」


 俺は用意されている席に腰を下ろす。

 将軍はすでに広げられている地図を見るよう促した。頃合いを見計らい部下の一人が説明を始める。


「皆様には南方に複数ある入り口からそれぞれ竜の巣穴に潜っていただきます。内部は複雑に繋がっていて侵入者除けの罠はもちろん教団による攻撃が予想されます。魔物との接触にも充分に注意してください」


 地図上に四つの駒が置かれる。

 駒は山の南側に配置され、その背後には兵が置かれていた。


 俺達は先行しつつ罠を解除し、進路を確保する役割を負っている。

 狭い通路に兵士が大量に流れ込んでも、身動きがとれないばかりか両サイドから襲撃され分断されてしまう可能性が高い。そうならないよう安全な進路を確保し、制圧可能な戦力を引き込むのが俺達の役目だ。

 まぁ、俺達の仕事はルート確保時点で終了らしいので、あとの仕事は同行する騎士にお任せって感じらしい。


 竜の巣穴に繋がる出入り口は山の四方にあるそうだが、一番数が多く、魔王神教の出入りがあるであろう場所が南側なのだとか。


 残酷茶会(キリングティータイム)のリリーが、薄い唇を開いた。


「もし道中で敵のトップを発見した場合は、こちらで対処してもかまわないのよね?」

「可能なら捕縛。無理なら拠点制圧を優先してください。逃げ出したトップはこちらで捕捉し拿捕します」

「ずいぶん拠点制圧にこだわるのね。なにかこう焦りのようなものが伝わるわ。まだ教えていないことがあるでしょう? 言わないとこの仕事は降りるわ」

「それは……」


 鋭い指摘をされた。言いよどむ部下に将軍が「私から話そう。ここで伝えるつもりだった」と手で閉口させる。直後に天幕内に緊張が漂った。


「騙していたわけではない。諸君らに声をかけた時点で、まだ確証がなかったからだ。つい先日、そこにいるラックスくんが敵の魔術師を捕まえてくれてね。おかげでようやく手に入れた情報が真実であると確証を得たのだ」


 すでに内容を知っている俺は、頭を掻きつつぼんやりと地図を確認する。

 南側に四つのエリアが設けられている?

 ……ああ、つまり割り振られたエリアの入り口から突入しろってことね。端の方だとここから遠いな。歩くのも面倒だし、真ん中辺りをどうにかとれないだろうか。


「我らの目的は魔王ヘカトケイルの復活阻止。魔王神教は、かつて銀の剣聖が打ち滅ぼした魔王を蘇らせようとしているのだ」


 俺以外の面々が目を見開いた。



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