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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第二章

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70話 無駄遣いと言われようと欲する物がある

 

 大通りから路地に入り、しばらく歩いたところに『ビューティーウィッチ魔道具店』がある。

 こんな名前だが、店主は八十代の婆さんである。

 本人曰く若い頃は貴族に言い寄られるほどの美人だったとか。残念ながら今は見る影もないしわしわの婆さん。名前詐欺だと俺は思っている。


 魔道具店――簡単に言えば魔道具を取り扱う店だ。


 アバンテールには魔道具店がいくつかあり、冒険者達は依頼で必要な道具を購入したり入手した品を買い取ってもらったりしている。


 品揃えは期待しない方が良い。中途半端に栄えた田舎の町にある魔道具屋に、貴重な魔道具はそうそう入ってこないからだ。その代わり大体の物は手に入る。魔力で点くランプからマジックストレージと、種類も豊富であり、冒険者だけでなく一般人にとっても無くてはならない店としてよく知られている。


 色あせたビューティーウィッチ魔道具店の看板を確認することなく、俺は店の扉を開けた。

 店内は相変わらずむせかえるようなお香の匂いで充満していた。店主である婆さんが言うには美容のお香らしい。甘ったるい臭いに思わず鼻と口を押さえてしまう。

 台や壁には魔道具が並べられ、どれもよく磨かれピカピカだ。ただ、店主の趣味がかなり反映されているらしく怪しい魔道具が多い。中にはどう使うのか分からないような不気味な顔の人形も置いてあった。


「ぐぅう、ぐぅうううう」


 店の奥で、白いパックを顔に貼ったまま眠っている店主を見つける。

 その姿が怖すぎて今すぐ帰ろうかなと思ってしまった。


 ちなみにあのパックは薬液につけたスライムの一部でできているそうだ。エルフの美容法とかなんとか。エルフは長命で若い時代が長く、整った容姿しか生まれない種族。美を追究するものにとって憧れの存在でありエルフの美にあやかりたいヒューマンは多い。


「おい、婆さん。起きろ」

「あ? ああ、あんたかい。悪いね。今日は珍しく客が来なくて暇だったのさ」


 目覚めた店主の婆さんは、座っていた椅子から立ち上がり顔のスライムパックを剥がした。

 尖った鷲鼻の婆さんは俺を見つけ笑みを浮かべる。


「で、何の用だい? また透ける眼鏡みたいなのがご所望なのかね」

「忘れていたのに思い出させやがって。どこがスケスケだよ。骨しか見えなくてどれほど落胆したか。あんなの詐欺でしょ」

「人聞きの悪い。あたしゃ忠告したよ。透けすぎて驚くからと。実際スケスケだっただろ。骨マニアには垂涎の品なんだ」

「俺が骨に興奮するように見えるか?」

「人の性癖は果てしないからね」


 誤魔化しやがった。実際すごい代物ではあるんだがな。透過は高度な魔術だ。それを魔道具として作成した制作者の技量は並みではない。ただ、俺としてはもう少し透過レベルを落として貰いたかった。試作品だとかで一点物だったからなお悔やまれる。

 ちなみにその眼鏡はフェリスにバレて取り上げられた。今は俺の知らないホームのどこかで眠っているはずだ。いつかまた会う日まで。


「欲しいのは簡易型転移魔法陣だよ。減った分の補充をしに来たんだ」

「使い捨て転移魔法陣ね。あれは人気だからよく売れるんだ。特にウチは質が良いからね。長持ちするから馬鹿売れさ。うっひひ」


 婆さんはそう言って店の奥へと引っ込んだ。

 魔法陣をとりに倉庫である戸棚へ向かったのだろう。


「あれ、婆さんのお手製だったのか。てっきりどこかから仕入れているものだとばかり」

「これでも魔術師の端くれだからね。錬金術師ほどじゃないが、それなりに腕はあるんだよ。えーっと、ここに置いてたんだけどね。あったあった。これだ」


 戻ってきた店主は筒状に丸められた簡易型転移魔法陣をカウンターに置いた。

 いつも通りなら三本は出してもらえるはずが、今日はなぜか一本だけであった。


「一本だけ?」

「今あるのはこれで全部なんだ。軍が使い捨て転移魔法陣を大量に買い集めているようでね。ウチも儲けさせて貰おうと大半を売っちまった。相場の二倍だからね」

「軍ってのは都の?」

「そうさ」


 軍が大量に転移魔法陣をね。戦争でもするつもりか?

 いやでも、周辺諸国とは仲は良いってほどじゃないが、即戦争みたいな険悪な雰囲気でもない。だとすると国内か。ファルナス王国も端から端まで穏やかってわけじゃないからな。争いの種はいつだって転がっている。先日の魔王神教の件だってそうだ。 


「そういうことなら一本で良いよ。使う予定があるわけじゃないしさ」

「悪いね。一週間もあれば在庫も復活してるからまた来ておくれ」

「そうさせてもらう。ところでさ、最近背中がかゆくて、なんかこう届かないところに届く孫の手みたいなのないかな」

「それならこれはどうだい」


 出されたのは禍々しい手の付いた孫の手だった。

 店主は「こいつはすごいよ」とにたりと笑みを浮かべる。


「最大五メートルまで伸びる孫の手さ。柄を握るとまるでもう一つの手のように思うがままに掻いてくれる。近くのコップを取るときに使えたりと在ると便利だよ」


 孫の手を持ってみると、俺の意思に従って禍々しい手はグーパーする。

 伸びろと命じると思ったとおりの長さに伸びた。伸縮も一瞬。おまけに柄もぐにゃぐにゃとイメージしたとおりに曲がってくれる。

 果たして五メートルも必要なのか。いささか機能に疑問を抱かずにはいられないが、ザインの伸びる腕は便利だなと前々から考えていただけに普通に欲しい品ではあった。こいつに肩を揉ませると気持ちいいかもしれない。


「ほら、金貨三枚出しな」

「ただの孫の手だろ?」

「あんたがほしいって言うから出してやったんだ。払えないなら諦めな」

「くっ、買った」

「まいど」


 カウンターに金貨三枚を置く。なけなしの三枚だ。

 これで今月は酒場には行けない。まぁホームで安酒をちびちび飲むなら金はかからないから、それほど苦しい我慢を強いられるわけではない。


「これ結構良い魔道具だよな? 金貨三枚って安くないか?」

「どこぞの遺跡で見つけてきた魔道具だそうだよ。等級は黒鉄。作られたのは魔神が大陸を支配していた時代だね。今の技術でも似たようなのは作れるから価値としてはそんなものだよ」


 へぇ、遺物なのか。孫の手にしては機能満載だけど、他に使い道があるかと聞かれれば実際ないよな。せいぜい離れた場所の物を取るくらいだ。魔神がいた時代は色々な魔道具が発明された時代でもある。これもその一つなのかも。


 ◇


 ぼりぼり。ホームのリビングで買ったばかりの孫の手で背中を掻く。


 こいつは思っていた以上に買い得だったかもしれない。

 柄を延ばし腰の辺りから背中へ回し入れると、他人に掻いて貰っているような感覚になるのだ。力加減も絶妙でもうこれなしの生活は考えられない。

 肩もみだって最高だ。繊細で柔らかく、それでいてこりを芯からほぐす力の強さに、俺はうっとりしてしまった。黒鉄級? 違う。これは黄金級。否。幻想級の魔道具に違いない。世間がなんと言おうと俺はお前を最高の魔道具と断言する。しゅばらしい。


「はぁぁあああ、背中が幸せだ」

「言ってもらえれば私が背中を掻いてあげましたよ?」


 テーブルを挟んだ向かいのソファで、フェリスが足を組んで本を読んでいた。

 俺は孫の手に背中を掻かれながら返事をする。


「それだと気を遣うだろ。俺は好きな時に好きなだけ背中を掻きたいんだよ」

「貴方って人は。たかが孫の手に金貨三枚も使って」

「いいだろ。これがほしかったの」


 呆れた様子のフェリスに、俺はぷいっとそっぽを向いた。


 確かに高い。俺だってただの孫の手なら金貨三枚も払わなかった。だが、こいつは伸びるのだ。思うとおりに手も動く。それだけで可能性は無限大。もう一度言う可能性は無限大だ。


 こんこん。ノッカーを叩く音が屋敷に響く。訪問客のようだ。本を置いたフェリスが立ち上がり玄関へと向かった。

 誰だ。今日は人が来る予定はなかったと思うけど。

 戻ってきたフェリスが部屋に人を招き入れた。


「あんたがウチに来るなんて珍しいな」

「どうしても伝えなければならない用件があったのでな」


 入室したのはギルマスであった。彼は部屋に入りくるりと反転、なぜか出入り口へ身体を向けた。やや遅れてもう一人の来客が入室する。


「アンブレラ以来だね。ラックス・サードウッド君」


 そこにいたのはゴンザレス将軍であった。



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