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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第二章

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69話 うごめく魔王神教団

 

 無数のガラス管が並ぶ部屋。液体で満たされたガラス管の中では、生物とは思えぬようなグロテスクな塊が僅かに動いていた。

 その最奥で細身の中年男が、一際大きなガラス管の前にいた。

 黒い法衣に身を包むその男は、液体に浸された丸くいびつな肉の塊が脈動する様を取り憑かれたように見つめ歓喜の表情を浮かべていた。


 彼こそ魔王神教の頂点に立つ大神官である。


「ようやく、ようやく魔王神様が誕生されるのだ。この瞬間をどれほど夢見たか。信徒の宿願が遂に」

「小規模な宗教組織でしかなかった貴方がたがここまで成長できたのは奇跡に等しい。素晴らしい成果を上げられましたね大神官殿」


 フードを深くかぶった男は大神官に一礼する。


 部屋の隅ではドワーフらしき男達が、腕に手錠をはめられ二人を沈黙したまま見つめていた。その身にはぼろ布が着せられ体中に痣や傷を負っている。


 男は大神官と共に振り返り、ドワーフを冷たい目で一瞥した。


「ドワーフがいなければ実現不可能だった。奴らを連れてきた貴殿には感謝をしている。宿願叶ったあかつきには何でも欲しいものを与えよう。何が望みだ――相談役」

「不要です。私はただ魔王神様という偉大な存在の誕生に立ち会いたかっただけですから。充分叶えていただきましたよ」

「ならば間もなく訪れる歴史的瞬間をその目に焼き付けるが良い。これより世界は魔王神様による絶対的なお力と恐怖により支配される。そして、魔王神教が全ての頂点に立つのである。私は魔王神様と共に新たな支配者となるのだ」


 ガラス管の中の肉の塊が身じろぎする。それは繭のようであった。

 内部では巨大な何かが強く脈動していた。液体が満たされたガラス管の下部には、グロテスクな肉の根のようなものが床を侵食していた。根には無数の魔道具が半ば取り込まれており、根は力を吸い上げ繭へと届けていた。


「しかし、すでにギルドと王国軍が我々を掃討すべく動いております。少々派手に動きすぎましたね」

「かまわん。今は魔王神様の誕生が最重要課題だ。魔王神様のお力があればギルドも軍も羽虫同然。それより魔王神様はいつお生まれとなるのだ」

「もう間もなくかと。その時が待ち遠しいですね」


 硬質な足音が室内に響く。二人が振り返った先には長髪の男がいた。

 くすんだ金色の長髪に、薄ら笑みを貼り付けた二十代前半の男。

 その腰には短杖が備えられていた。


 大神官は先ほどまでの感情を潜め、冷酷なトップとして男に声をかけた。


「カマッセルか。何の用だ」

「いい加減アバンテールに行かせろよ。そんでもって銀の護剣(シルバーブレイド)をぶっ潰す」

「仇討ちは許さぬ。優秀な部下を失った件は私も残念に思う。しかし、今は守りを固める時だ。魔王神様の誕生までここを死守せねばならん」

「ちっ、またそれかよ。拠点の防衛なら俺様以外の神官長がいるだろ。守りに入るのは性に合わねぇんだよ。それともS級にびびってんのか?」

「……」


 大神官は沈黙する。


 カマッセルは大神官の次に強い権限を持つ神官長である。神官長は三名のみ選出されその実力はS級冒険者と同等あるいはそれ以上とされている。故に大神官はカマッセルを失う可能性を危惧していた。失えば大幅に戦力が削がれる。組織の統率も乱れるであろう。


 そこで口を開いたのは相談役と呼ばれた男であった。


「ではこうしましょう。間もなくギルドと軍がここに押し寄せてきます。その陣頭指揮を貴方に執らせてあげましょう。敵の中には貴方が倒したい銀の護剣(シルバーブレイド)も含まれていますので」

「なんでそんなことを貴様が知っている。軍の内部情報だろ」

「さぁ、なぜでしょうね」


 相談役と呼ばれる男は、フードの下で不気味に微笑んでいた。

 カマッセルは目を閉じしばし熟考する。大神官はこの決定に異論は無いようで、後ろ手で沈黙を保っていた。


「いいだろう。陣頭指揮の話は受けてやる。だが、銀の護剣(シルバーブレイド)は必ず俺様がいただく。約束は違えるなよ」

「もちろんです。ただ、一つ気掛かりもありましてね。軍の掃討作戦に名称未定(アンノウン)が参加するかどうかが不明でして」


 カマッセルは「名称未定(アンノウン)? ああ、そんなS級がいたな」と拍子抜けしたように肩を落とした。かと思えば、彼はギザギザの白い歯を見せてにやりと笑う。


「最近S級になった色物集団だったか。アンデッドキングを倒したとか耳にしたが、S級ならむしろ普通だろ。警戒するほどの相手とも思えないな」

「油断は禁物です。名称未定(アンノウン)のリーダーは貴方と同じ付与士なのですから」

「付与士同士の戦いならば俺様が必ず勝つ。俺様は無敗の付与士だぜ。同じ戦闘職に負けるなんて万が一、いや、億が一でもありえねぇ。敵は銀の護剣(シルバーブレイド)のみだ。他に興味はない」


 きびすを返したカマッセルは「俺様は敵を迎え撃つ準備をする」と部屋の出口へと向かう。


「邪魔だ退け」


 出口付近にいたドワーフをカマッセルは腕で押し払う。

 床に倒れた老人を同族達は慌てて抱き起こした。疲労困憊で意識がもうろうとする老人は弱々しい声で大神官へ手を伸ばす。


「頼む。儂らを、解放してくれ。もう目的は果たしただろ」


 しかし、大神官は彼の願いを聞き入れはしなかった。

 ぞろぞろと信徒達が集まりドワーフ達を引きずるように連れて行く。


 *


 彼らを牢に戻した信徒は、扉に施錠をして去って行った。牢の中では大勢のドワーフが身を寄せ合い時折すすり泣く声が響く。その中で四十代半ばほどと思われる男性ドワーフが、妻と二人の子供と共に壁際に潜むように身を寄せていた。


「くそっ、魔王神教の奴ら死ぬまでこき使うつもりだ。ふざけやがって」


 ドワーフの一人が床を殴りつけ語気を荒げた。


「村長。どうにかできないのか」

「村にいた全ての者が捕まった。外からの助けを待つしかあるまい。しかし、奴らには三人の神官長がいる。ギルドと軍に勝ち目があるかどうか」


 村長の言葉に誰もが表情を険しくした。


 彼らはとある村で暮らしていたドワーフ達である。

 今より数ヶ月前――彼らのもとに魔王神教がやってきた。魔王神教はドワーフに無条件の労働を求めた。これに強く拒絶を示した村の者達は、徹底抗戦の構えをみせたのだ。しかし、魔王神教の力は強力であった。ドワーフ達はなすすべなく無力化され次々に捕らえられた。

 魔王神教の本拠地に連行されたドワーフ達は、妻と子供を人質に取られながら謎の装置を作らされたのである。


 壁際で男達の会話を聞いていた男性ドワーフは、隣の妻に耳打ちした。


「エルダーだってことはバレていないな?」

「大丈夫。でも、このままだといずれどこかで正体を知られるわ」

「隠れ里を出るべきではなかったな。オロンの言うことを聞いておけば」

「今は後悔するのはやめましょ。子供達だって不安で怖がっているわ」


 妻の言葉に男ははっとする。二人の幼い姉妹はドワーフたちのやりとりを目にしながら母親の服をぎゅっと握りしめていた。


「心配するな。きっと助かる。お父さんは運が良いんだ」

「「うん」」


 子供達は父親の笑顔へ微笑み返した。

 突然、白髪交じりの屈強な男が嘆きの言葉を吐いた。


「俺達はなんてものを作ってしまったんだ。あれは王国を滅ぼす怪物だ。もうこの国はおしまいだ」

「静まれ」


 村長がぴしゃりと言い放つ。牢の中は水を打ったように静まりかえった。


「希望を捨てるな。耐えるのだ。我らは不屈のドワーフだぞ」


 ドワーフたちは下を向き拳を握りしめた。



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