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最強付与士の無自覚ハーレム冒険譚 ~仲間の顔も素性も知らないけどたぶん全員男だと思う~  作者: 徳川レモン
第二章

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68話 付与士は裸タオルに逆らえない

 

 ぱらりとページをめくる。それは付与の歴史について書かれた書物である。

 付与術と呼ばれるにはいくつかの分岐点が存在した。それらをさらに遡ると二つの古い魔術へと行き着く。『祝福』と『呪い』だ。

 古き時代の魔術――古代魔術と呼ばれるそれらは、現在よりも非常に強力であったという。しかし、その一方で、多大な魔力を要求する効率の悪さと、術を使用するための高い適正が求められた。術を使用する代償も現代魔術より重く、古き魔術師達はこれを解決すべく永い刻を重ね研鑽と改良を続けた。


 そして、生まれたのが現代魔術である。


 高効率にしてお手軽な、一部の例外を除いて、誰でも使用できる術へと進化したのである。

 その結果、魔術師は爆発的に増加した。古代魔術は現代魔術に取って代わられ、時代の流れと共に淘汰されていった。


 祝福と呪い。これは術そのものではなく”種別”のようなものだ。現在のような戦闘支援に特化した形ではなく、権力者同士の闘争や権威付けなどに用いられた。

 どちらも現代よりも強力な魔術であったことは間違いない。しかし、前述したとおり古代魔術には重い代償がつきまとう。もし使用するつもりなら、そのことを決して忘れてはいけない。と書物は締めくくられていた。


 書物を閉じた俺は、腕を組んでしばし思考の海に沈む。

 師匠より授かった『超位付与術(オーバーエンチャント)』は付与の奥義と言ってもいい術だ。しかし、強力であると同時に負荷の大きい危険な術でもあった。


「古代魔術を使って超位状態となる。そこから発動される付与は通常より強化される……とんでもない術ではあるが、その代償があの脳みそを直接絞ったような疲労感と立ちくらみか」


 師匠には『連続使用は避けるように。一日一回。一分以内に留めること』と伝授の際に、そう説明を受けた。

 安易に使用できない諸刃の剣。その上で過信もできない。

 超位付与術(オーバーエンチャント)は決して万能ではない。時を止めることや敵を死に至らしめる付与は発動しない。できるのはこれまで()()()と思われていた”一部の文字の組み合わせ”が発動できるようになった点だ。


「発動しないはずの文字が超位では発動した。これには何か意味があるのか。そもそも魔術文字とは一体なんなんだ。魔術とは?」


 口に出したところで答えなどない。多くの付与士や魔術師が、何千何万と吐いた台詞だからだ。魔術の深淵を探り答えを得ることこそが、付与士であり魔術師の最終到達点。

 しかしながらできる付与の幅が増えたのは、これ以上にない確かな力だ。その代わり払う代償は俺の命ではあるが。超位付与術(オーバーエンチャント)は使うほどに脳を酷使する術だ。何度も使い続ければ最後は死ぬ。恐らく。


「しかし、新しい文字の組み合わせですか。こうなると基礎から洗い直す必要が出てきますけど。ちょっとひどすぎやしませんかね。お師匠様」


 振り返った俺は、どっさりと積み重なり山となった書物にうんざりする。

 魔術文字は一つで複数の意味を持つ。その組み合わせは膨大だ。果たしてここの資料で足りるかどうか。王都にある王立図書館で調べる必要も出てくるだろう。あそこなら超位付与術(オーバーエンチャント)についてもなにか見つかるかもしれない。

 ウチの師匠は技術とヒントはやる、その先は自分で調べろってスタンスですしね。


 ◇


 自室を出て一階に下りれば何やら外が騒がしい。窓を開けて裏庭を眺めると畑でザインと新人ちゃんが大きな声で会話をしているではないか。


 なんだか楽しそうだな。

 しかしなんでまた畑?


 そう思っていたところで、籠を抱えたフェリスが窓の前を通りかかった。


「なんの騒ぎだ?」

「野菜の収穫ですよ。例年よりも実りが良く、彼女達にお裾分けしようと話が出まして。今はその真っ最中です」

「へぇ、今年は豊作だったんだ。だったら食費もかなり浮きそうだな」


 裏の畑は、ザインが趣味で育てている野菜が植えられている。

 土地を休ませつつ年二回収穫ができ、これが地味に家計を助けてくれている。できた野菜も年々美味しくなっていて、ここにも悪魔の凝り性が出ている。


 野菜を育てる悪魔なんてザインくらいだと思うけどな。


「ザインさん、これすごく太くて長いですよ」

「あ、ああ、あげるぅ。好きなだけ持っていけぇえ」

「本当に助かります。食材を買うにも結構かかりますし、新人の報酬もそんなに多くないですから」

「が、ががが、がんば、れぇえええ」

「はいっ!」


 触れそうな距離で、ザインが魔術師ちゃんをガン開きの片目で見つめる。

 相変わらず距離感がおかしい。ヤバい変人に絡まれる美少女の光景にしか思えない。知らない人が見たら間違いなく衛兵を呼ばれる。


 剣士ちゃんも顔に土をつけながら笑みを浮かべ野菜を収穫していた。シーフちゃんは俺に気が付いているらしく、相変わらずの無表情だが手を振っている。


 泥にまみれる美少女ね。悪くない。

 俺は密かに興奮しつつ手を振り返した。


 ◇


 湯気の立ち上る浴室。広い風呂でその気持ちよさに顔を緩ませる。

 まだ日は高い。明るいうちに入る風呂はまさに贅沢。風呂上がりに冷えた牛乳を飲めば飛ぶこと間違いなし。


「はぁあああ、最高だな」


 新しい魔術文字の組み合わせを求める作業は難航してる。

 俺が使えるのは師匠に見せて貰った『停止』だけ。超位クラス――通常の付与では発動しない付与を便宜上そう呼ぶことにした――の手札があまりにも少ない。不安は残る。


 アンブレラの件といい先日の件といい、俺達が知らなかっただけで、悪魔は普通にそこらを歩いているようなのだ。

 たまたま? そういう可能性もあるだろう。

 しかし、二度あることは三度あるというじゃないか。この先、悪魔と出会わない保証はない。


 両手で前髪をかき上げ深呼吸をする。


「魔王神教、魔王神を崇める宗教組織か。厄介だな」


 冒険者を狙う明確な敵。どの程度戦力を保有しているのかすら謎だ。ギルドも軍も対応してはいるのだろうけど、壊滅までには至っていないとみてよさそうだ。むしろ魔王神教が上手く行方をくらましているからというべきかな。

 俺なりに周囲に聞き取り調査をしてみたが、今のところアバンテールに大きな被害はないようだ。ただ、それらしき者達を見かける頻度は増えたとの話はあった。


「領主にも警告をすべきか。いや、ギルマスがもう話はしているかな」


 がらっと出入り口の音がする。

 ぺたぺたと足音がして俺は驚きと緊張から身体が固まった。


 誰!? 表には入浴中って出してたと思うけど!?

 その人物は、白く細い足から湯に浸かると、俺の隣で僅かに口角を上げた。


「先生と一緒に、お風呂」

「はぁ!?」

「弟子は、師匠の背中を洗わないといけない」

「そんな決まりないから! さすがの俺もドン引きですよ!」


 当然のようにシーフちゃんが、同じ湯船に浸かっている。

 タオルを身体に巻いていたので裸は見ることはできなかったが。


 こいつ何を考えて――よく見ると顔が赤い気が。恥ずかしいなら無理するなよ。だいたいもう身体を洗い終えているんだけど。しょうがねぇな。


「弟子の我が儘に応えるのも師匠の務めだからな。付き合ってやるさ」

「ん。先生と温まる」


 二人揃って湯船の縁に背を預ける。

 弟子と風呂か、そういえば一度も師匠とそんなことしなかったな。クサヤさんとは何度も入ったけどさ。


「先生、そろそろ新しい付与を覚えたい。だめ?」

「なるほど。それが目当てで風呂に突撃してきたんだな。風呂なら断りづらいと」

「肌を見せれば、OKしてくれると考えた」


 ふっ、その考えは正しい。すべすべの白い肌を目の前に断れる気がしない。

 当分は今使える付与で対応させるつもりだったが、あと一つくらい追加しても彼女なら使いこなせるだろう。


 付与は書けるだけでは使えるとは言えない。反射レベル、無意識でも書けるようになるくらいになってようやく覚えたと言える。

 付与には有名な言葉がある。半端な百より確実な一。

 どれだけ多くの術を覚えようと練度が低ければ、速く確実に書く術には敵わないという意味だ。頭で覚え身体に刻みつける、それが付与士だ。


「一つだけ教えてやる。ただし、目を閉じて完璧に書けなければ、次の術は教えないからな」

「ん」


 俺は湯の表面に人差し指で魔術文字を描く。

 シーフちゃんは「こう?」と隣で同じように文字を描いた。

 俺達はのぼせるまで付与の話をした。



明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

更新とご挨拶が遅れた言い訳をさせてください。作業に追われておりました。本当です。山のように積まれたあれこれを必死で片付けておりました。気持ちの上ではまだ1月1日なんです。どうかお許しを(ぺろぺろ)

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