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ターツ駅は荒野の真ん中に建てられた駅だった。見渡す限り地平線のなにもないところで、灰色の雲がどんよりと全天を覆っていた。
そんななにもない駅に停車する目的は二つある。
一つは、大型トリチウム電池の充電。もう一つは、入国審査だ。
一時間ほどの充電時間のあいだに、車内の人たちのパスポートやビザの確認作業が行われ、隣国ケーナバルトへの入国準備が、ここで完了する。
列車はターツ駅の長いプラットホームにゆっくりと滑りこみ、そのまま、ユエラとケーナバルトの中立地帯に停車した。防寒着をきた駅手たちが駆け寄り、車輛点検を手際よく行い、チャージケーブルを先頭車輛に接続する。
「なんだか、すごいな」
窓から外のようすを見ていたヴィスは、初めて見る光景に目を輝かせた。
「感心するのは結構ですが、好奇心にまかせて見にいこうなんて思ってはいけませんよ」
席に着いたまま、書類の整理をしていたトリアは顔も上げずにいった。思考回路を読まれたヴィスはおもしろくなさそうに、口を尖らせる。
「どうしてだよ」
「入国審査が終わっていないからです。管理官が来るまで部屋を出ないほうがいいですよ。外に怖いお兄さんたちが立っているでしょう?」
ヴィスは窓に額をつけた。作業をしている駅手にまじり、屈強そうな巨漢の兵士たちが銃を肩にかけ、直立不動でこちらを見ていた。軍服の種類が二種類あるということは、両国の国境警備隊ということなのだろう。
たしかに怖いお兄さんたちだ。
「ケーナバルトのお兄さんが持っているのが、アサルトライフルKB2。初速は秒速900メートルで、小口径高速弾を使用。敵を殺すのではなく、負傷させるのを目的として作られた銃といわれています。対して、ユエラのお兄さんが持っているのが、ユエラ式ボルトアクション三八歩兵銃。旧式ですが命中率が非常に高く、暴発事故のもっとも少ないライフルとして――」
「わかった、わかったよ。だから、その説明をやめてくれ」
ヴィスは自分の席にもどり耳をふさいだ。息継ぎもなくスラスラと説明するトリアは、少し不気味だった。
トリアは盤上にむけていた視線をヴィスに投げかけると、笑いかけた。
「ちなみに私は、一秒間に2400語の言葉を話すことができます」
「2400!?」
人間離れした能力を自慢されたヴィスは、顔を引きつらせた。早口言葉のチャンピオンだろうが、誰がそれを聞き分けるのか。そういえば、エレクトオートは民族だといっていた。つまり、ほかにもこんなヤツがいるということだ。
ヴィスは、なぜかエレクトオートの早口言葉大会を想像し、めまいを覚えた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない……それより、その、エレクトオートってのは、結構いるのか?」
「相対的な価値観を含む質問ですので、回答をするのが非常に難しいのですが……そうですね、総個体数は、私を含め11011体存在します。それを多いと思うか、少ないと思うかは、あなたの自由です」
「ケーナバルトにも、お前のようなのが、ウロウロしてるのか?」
トリアは首を横にふった。
「私たちは、母国エレクトリア・アンペールから出ることはほとんどありません。ですから、ケーナバルトで私以外のエレクトオートに会う確立は0パーセントです」
「言い切ったな」
「ええ、言い切りました」
気のせいかトリアが、少し胸を張って答えた。
「エレクトオートは閉鎖的で物静かな民族ですから」
そのわりにはよく話すじゃないか、とヴィスは内心思ったが、あえて口には出さなかった。
「それで、お前はケーナバルトにわざわざ何をしにいくんだ? 旅行って訳じゃないだろう?」
「それは……」
トリアが言いよどんでいると、ノックの音がした。
どうやら、入国管理官が来たらしい。
トリアは話すのを止め、ドアを指さした。
取調べ中のヴィスは不満だったが、席を立ち、しぶしぶ客室のドアを開けた。




