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チェックメイトの一手先  作者: 八海宵一
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7

 ターツ駅は荒野の真ん中に建てられた駅だった。見渡す限り地平線のなにもないところで、灰色の雲がどんよりと全天を(おお)っていた。

 そんななにもない駅に停車する目的は二つある。

 一つは、大型トリチウム電池の充電。もう一つは、入国審査(にゅうこくしんさ)だ。

 一時間ほどの充電時間のあいだに、車内の人たちのパスポートやビザの確認作業が行われ、隣国ケーナバルトへの入国準備が、ここで完了する。

 列車はターツ駅の長いプラットホームにゆっくりと滑りこみ、そのまま、ユエラとケーナバルトの中立地帯に停車した。防寒着をきた駅手たちが駆け寄り、車輛点検を手際よく行い、チャージケーブルを先頭車輛に接続する。

「なんだか、すごいな」

 窓から外のようすを見ていたヴィスは、初めて見る光景に目を輝かせた。

「感心するのは結構ですが、好奇心にまかせて見にいこうなんて思ってはいけませんよ」

 席に着いたまま、書類の整理をしていたトリアは顔も上げずにいった。思考回路を読まれたヴィスはおもしろくなさそうに、口を尖らせる。

「どうしてだよ」

「入国審査が終わっていないからです。管理官が来るまで部屋を出ないほうがいいですよ。外に怖いお兄さんたちが立っているでしょう?」

 ヴィスは窓に額をつけた。作業をしている駅手にまじり、屈強そうな巨漢の兵士たちが銃を肩にかけ、直立不動でこちらを見ていた。軍服の種類が二種類あるということは、両国の国境警備隊ということなのだろう。

 たしかに怖いお兄さんたちだ。

「ケーナバルトのお兄さんが持っているのが、アサルトライフルKB2。初速は秒速900メートルで、小口径高速弾を使用。敵を殺すのではなく、負傷させるのを目的として作られた銃といわれています。対して、ユエラのお兄さんが持っているのが、ユエラ式ボルトアクション三八歩兵銃。旧式ですが命中率が非常に高く、暴発事故のもっとも少ないライフルとして――」

「わかった、わかったよ。だから、その説明をやめてくれ」

 ヴィスは自分の席にもどり耳をふさいだ。息継ぎもなくスラスラと説明するトリアは、少し不気味だった。

 トリアは盤上にむけていた視線をヴィスに投げかけると、笑いかけた。

「ちなみに私は、一秒間に2400語の言葉を話すことができます」

「2400!?」

 人間離れした能力を自慢されたヴィスは、顔を引きつらせた。早口言葉のチャンピオンだろうが、誰がそれを聞き分けるのか。そういえば、エレクトオートは民族だといっていた。つまり、ほかにもこんなヤツがいるということだ。

 ヴィスは、なぜかエレクトオートの早口言葉大会を想像し、めまいを覚えた。

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない……それより、その、エレクトオートってのは、結構いるのか?」

「相対的な価値観を含む質問ですので、回答をするのが非常に難しいのですが……そうですね、総個体数は、私を含め11011体存在します。それを多いと思うか、少ないと思うかは、あなたの自由です」

「ケーナバルトにも、お前のようなのが、ウロウロしてるのか?」

 トリアは首を横にふった。

「私たちは、母国エレクトリア・アンペールから出ることはほとんどありません。ですから、ケーナバルトで私以外のエレクトオートに会う確立は0パーセントです」

「言い切ったな」

「ええ、言い切りました」

 気のせいかトリアが、少し胸を張って答えた。

「エレクトオートは閉鎖的で物静かな民族ですから」

 そのわりにはよく話すじゃないか、とヴィスは内心思ったが、あえて口には出さなかった。

「それで、お前はケーナバルトにわざわざ何をしにいくんだ? 旅行って訳じゃないだろう?」

「それは……」

 トリアが言いよどんでいると、ノックの音がした。

 どうやら、入国管理官が来たらしい。

 トリアは話すのを止め、ドアを指さした。

 取調べ中のヴィスは不満だったが、席を立ち、しぶしぶ客室のドアを開けた。

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