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食事を終えたヴィスは、客室に戻るなり上機嫌で言った。
「礼をしないといけないな」
「お礼だなんて、結構ですよ。私は見学ができたので、それで十分です」
トリアが小さく手を振って、辞退しようとしたが、ヴィスはそれを許さなかった。借りを作ったままでいるのは、彼の信条に反するし、それになにより、フィレステーキも、テリーヌも、本当に申しぶんなくうまかったので、すぐに感謝の気持ちをあらわしたかった。ヴィスはコートのポケットから、麻袋を取り出し、空いている座席に羊皮紙を広げた。
「お前の運勢を占ってやるよ」
「運勢?」
トリアが不思議そうに、聞き返した。その反応にヴィスは眉をつりあげた。
人の好意を無にするやつは、馬にけられて……。
「不満なのか?」
「あ、いえ、そういうことではなくて……私は、占ってもらったことがないので、占いがどういうものなのか疑問に思っただけです」
「へえ、占いを知らないのか」
ヴィスは意外な顔つきで、首をかしげた。占いを知らない人間がこの世の中にいるなんて、信じられなかった。まあ、エレクトオートを人間と見るかどうかは、微妙なところだが。
せっかくなので、ヴィスは自分が行う骨占いについて説明をすることにした。天の運気、地の運気、光と闇の言葉、そして、その中間の位置に漂う骨のゆらぎ――、トリアは興味深そうにうなずき、ヴィスの専門的な説明に耳を傾けていた。
「……つまり、羊皮紙のうえに落ちた骨の状態が、そのまま、そのものの運勢と同調しているということですね」
呑みこみの早いトリアは、ヴィスの骨占いの理論をあっという間に理解してしまった。さらにトリアは複雑な質問をし、ヴィスを感心させた後、最後にこう訊ねた。
「それで、科学的根拠はどこにあるのですか?」
「は?」
かがくてきこんきょ?
難解な占星学について説明していたヴィスは、すぐに頭が切り替わらなかった。
「いま、なんていった?」
ヴィスが羊皮紙から顔を上げ、トリアのほうを見た。
トリアはなにかを察知したらしく、反射的に視線をそらした。
「いえ……、なんでもありません。それよりも、早く占いましょう」
「……」
取り繕うトリアに、ヴィスはしばらく眉をひそめていたが、気を取り直し、深呼吸を始めた。両腕を天井に突き出し、大きな伸びをすると、そのままの姿勢で静止した。
カチカチ……ギギギ、ウィーン。
トリアのギア音がかすかに聞こえる。やりづらい……。
ヴィスはさらに精神を集中させ、深く息を吸いこむと、静かに目を開き、麻袋の骨を掴んだ。羊皮紙の上にばら撒くと、骨は偏りを見せながら、四方に散らばった。
「ふーむ」
ヴィスは骨の配置をひとつずつ読みながら、トリアに結果を告げ始めた。
「時間に弄ばれる相、刻んだ時がずれこむ箱……大きな失せ物に悩まされる相、失せ物は、エレメントの膝元にあり……そして、大きな女難の相、黒い影……」
そのとき、列車に衝撃が走った。その衝撃で羊皮紙のうえの骨がすべり、転がり落ちた。
姿勢を崩したヴィスは、抗議した。
「なんなんだ!? 一体?」
「どうやら、ターツ駅に近づいたので減速したようです」
窓の外を眺め、トリアが確認した。
「だったら、もっと静かに停車してほしいもんだ」
発車のときにも驚かされたヴィスは、骨をかき集めながら、露骨に嫌な顔をした。
「相当な速度で移動しているので、多少は仕方がないと思いますよ……それよりも、ヴィス。さきほどの占いの結果ですが、あまり良い結果ではなかったような」
トリアが指摘すると、ヴィスは顔を上げていった。
「心の準備ができただろ」
自信満々の表情に、トリアは言葉を失った。
「なにかあるとわかっていれば、行動も慎重になるだろう? そしたら、回避できるかもしれないじゃないか」
「なるほど……そういうものかもしれませんね」
漠然とした結果に、トリアはどんな心の準備をすればよいのか理解に苦しんだが、とりあえずヴィスに感謝の言葉を述べた。




