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チェックメイトの一手先  作者: 八海宵一
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6

 食事を終えたヴィスは、客室に戻るなり上機嫌(じょうきげん)で言った。

「礼をしないといけないな」

「お礼だなんて、結構(けっこう)ですよ。私は見学ができたので、それで十分です」

 トリアが小さく手を振って、辞退しようとしたが、ヴィスはそれを許さなかった。借りを作ったままでいるのは、彼の信条(しんじょう)に反するし、それになにより、フィレステーキも、テリーヌも、本当に申しぶんなくうまかったので、すぐに感謝の気持ちをあらわしたかった。ヴィスはコートのポケットから、麻袋を取り出し、空いている座席に羊皮紙を広げた。

「お前の運勢を占ってやるよ」

「運勢?」

 トリアが不思議そうに、聞き返した。その反応にヴィスは眉をつりあげた。

 人の好意を無にするやつは、馬にけられて……。

「不満なのか?」

「あ、いえ、そういうことではなくて……私は、占ってもらったことがないので、占いがどういうものなのか疑問に思っただけです」

「へえ、占いを知らないのか」

 ヴィスは意外な顔つきで、首をかしげた。占いを知らない人間がこの世の中にいるなんて、信じられなかった。まあ、エレクトオートを人間と見るかどうかは、微妙(びみょう)なところだが。

 せっかくなので、ヴィスは自分が行う骨占いについて説明をすることにした。天の運気、地の運気、光と闇の言葉、そして、その中間の位置に漂う骨のゆらぎ――、トリアは興味深そうにうなずき、ヴィスの専門的な説明に耳を傾けていた。

「……つまり、羊皮紙のうえに落ちた骨の状態が、そのまま、そのものの運勢と同調しているということですね」

 呑みこみの早いトリアは、ヴィスの骨占いの理論をあっという間に理解してしまった。さらにトリアは複雑な質問をし、ヴィスを感心させた後、最後にこう訊ねた。

「それで、科学的根拠はどこにあるのですか?」

「は?」

 かがくてきこんきょ?

 難解な占星学について説明していたヴィスは、すぐに頭が切り替わらなかった。

「いま、なんていった?」

 ヴィスが羊皮紙から顔を上げ、トリアのほうを見た。

 トリアはなにかを察知したらしく、反射的に視線をそらした。

「いえ……、なんでもありません。それよりも、早く占いましょう」

「……」

 ()(つくろ)うトリアに、ヴィスはしばらく眉をひそめていたが、気を取り直し、深呼吸を始めた。両腕を天井に突き出し、大きな伸びをすると、そのままの姿勢で静止した。

 カチカチ……ギギギ、ウィーン。

 トリアのギア音がかすかに聞こえる。やりづらい……。

 ヴィスはさらに精神を集中させ、深く息を吸いこむと、静かに目を開き、麻袋の骨を(つか)んだ。羊皮紙の上にばら撒くと、骨は(かたよ)りを見せながら、四方に散らばった。

「ふーむ」

 ヴィスは骨の配置をひとつずつ読みながら、トリアに結果を告げ始めた。

「時間に(もてあそ)ばれる相、(きざ)んだ時がずれこむ箱……大きな失せ物に悩まされる相、失せ物は、エレメントの膝元(ひざもと)にあり……そして、大きな女難の相、黒い影……」

 そのとき、列車に衝撃が走った。その衝撃で羊皮紙のうえの骨がすべり、転がり落ちた。

姿勢を崩したヴィスは、抗議した。

「なんなんだ!? 一体?」

「どうやら、ターツ駅に近づいたので減速したようです」

 窓の外を眺め、トリアが確認した。

「だったら、もっと静かに停車してほしいもんだ」

 発車のときにも驚かされたヴィスは、骨をかき集めながら、露骨(ろこつ)に嫌な顔をした。

「相当な速度で移動しているので、多少は仕方がないと思いますよ……それよりも、ヴィス。さきほどの占いの結果ですが、あまり良い結果ではなかったような」

 トリアが指摘すると、ヴィスは顔を上げていった。

「心の準備ができただろ」

 自信満々の表情に、トリアは言葉を失った。

「なにかあるとわかっていれば、行動も慎重になるだろう? そしたら、回避できるかもしれないじゃないか」

「なるほど……そういうものかもしれませんね」

 漠然(ばくぜん)とした結果に、トリアはどんな心の準備をすればよいのか理解に苦しんだが、とりあえずヴィスに感謝の言葉を述べた。

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