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チェックメイトの一手先  作者: 八海宵一
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5

「なんだこりゃ!?」

 混雑し始めた食堂車のテーブルについたヴィスはメニューを見るなり、奇声を発した。

「どうかしましたか?」

 向かいの席に腰掛けたトリアが訊ねてきたので、ヴィスはテーブルにメニューを広げ、指さした。

「なんなんだ、この値段は!」

「値段?」

 トリアはメニューを眺め、首をかしげた。

「なにか問題でも?」

「どうしてこんな値段なんだ! メチャクチャ高いじゃないか!」

 まわりの乗客の視線を感じたヴィスは声をひそめながら、トリアに訊ねた。トリアはメニューを眺めたまま、平然と答えた。

適正価格(てきせいかかく)だと思いますよ」

「なんだって?」

 ヴィスは自分の耳を疑った。

 コーヒー一杯の値段が、オレの所持金と変わらないんだぞ、それが適正価格だって?

「たしかに、ケーナバルトの一般市場価格に比べると少し高いとは思いますが、車輛食堂の価格としては妥当(だとう)でしょう。暴利だ、法外だ、と騒ぐほうがおかしいと思います」

 ヴィスは口をパクパクさせた。

「失礼ですが、ケーナバルトについて、あまりご存知ないようですね。一体、ケーナバルトへはなにをしに行かれるんですか?」

「……決まってるだろ、旅行だよ」

 ヴィスは一瞬ためらったが、今朝の占いのことはふせておくことにした。ここで説明したところで、どうしようもない。トリアに助けを求める気はなかったし、第一、こんな大勢のなかでは誰が聞いているか、わからない。

「旅行ですか……まあ、そういうことにしておきましょうか」

 トリアは明らかに疑いの目を向けていたが、ヴィスは肩をすくめて、とぼけた。トリアは嘆息し、静かに手を上げ給仕(きゅうじ)を呼びよせた。

 ヌーモ牛のフィレステーキと、シュニ海老のテリーヌ、それから食後のコーヒーを注文した。給仕はうなずくと一度厨房(ちゅうぼう)にもどり、たくさんのパンが入ったバケットを持ってきた。

「私は結構ですので、彼に選んでもらってください」

 にこやかにトリアが促すのを聞き、ヴィスは目を真ん円にして驚いた。

「お、お、お前が食べるんじゃないのか? な、な、なに勝手に注文してるんだよ」

「さきほどもいいましたが、私は食事をしません」

 さらにトリアがパンを取るように勧めると、天文学的金額を想像したヴィスは首を振って断った。

「いや、いい。俺も食事はしない」

「ああ、ヴィス……お金のことなら、心配しなくていいです。ここは私がご馳走(ちそう)しますから」

 トリアは手際よく金貨を取り出し、給仕に手渡した。それを見たヴィスは、恐る恐る給仕からパンを受け取った。

 バケットごと。

 トリアが一言付け加えた。

「パンはいくら取ってもかまいませんが、バケットは返してあげてください。給仕の方が困ると思うので」

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