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「なんだこりゃ!?」
混雑し始めた食堂車のテーブルについたヴィスはメニューを見るなり、奇声を発した。
「どうかしましたか?」
向かいの席に腰掛けたトリアが訊ねてきたので、ヴィスはテーブルにメニューを広げ、指さした。
「なんなんだ、この値段は!」
「値段?」
トリアはメニューを眺め、首をかしげた。
「なにか問題でも?」
「どうしてこんな値段なんだ! メチャクチャ高いじゃないか!」
まわりの乗客の視線を感じたヴィスは声をひそめながら、トリアに訊ねた。トリアはメニューを眺めたまま、平然と答えた。
「適正価格だと思いますよ」
「なんだって?」
ヴィスは自分の耳を疑った。
コーヒー一杯の値段が、オレの所持金と変わらないんだぞ、それが適正価格だって?
「たしかに、ケーナバルトの一般市場価格に比べると少し高いとは思いますが、車輛食堂の価格としては妥当でしょう。暴利だ、法外だ、と騒ぐほうがおかしいと思います」
ヴィスは口をパクパクさせた。
「失礼ですが、ケーナバルトについて、あまりご存知ないようですね。一体、ケーナバルトへはなにをしに行かれるんですか?」
「……決まってるだろ、旅行だよ」
ヴィスは一瞬ためらったが、今朝の占いのことはふせておくことにした。ここで説明したところで、どうしようもない。トリアに助けを求める気はなかったし、第一、こんな大勢のなかでは誰が聞いているか、わからない。
「旅行ですか……まあ、そういうことにしておきましょうか」
トリアは明らかに疑いの目を向けていたが、ヴィスは肩をすくめて、とぼけた。トリアは嘆息し、静かに手を上げ給仕を呼びよせた。
ヌーモ牛のフィレステーキと、シュニ海老のテリーヌ、それから食後のコーヒーを注文した。給仕はうなずくと一度厨房にもどり、たくさんのパンが入ったバケットを持ってきた。
「私は結構ですので、彼に選んでもらってください」
にこやかにトリアが促すのを聞き、ヴィスは目を真ん円にして驚いた。
「お、お、お前が食べるんじゃないのか? な、な、なに勝手に注文してるんだよ」
「さきほどもいいましたが、私は食事をしません」
さらにトリアがパンを取るように勧めると、天文学的金額を想像したヴィスは首を振って断った。
「いや、いい。俺も食事はしない」
「ああ、ヴィス……お金のことなら、心配しなくていいです。ここは私がご馳走しますから」
トリアは手際よく金貨を取り出し、給仕に手渡した。それを見たヴィスは、恐る恐る給仕からパンを受け取った。
バケットごと。
トリアが一言付け加えた。
「パンはいくら取ってもかまいませんが、バケットは返してあげてください。給仕の方が困ると思うので」




