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チェックメイトの一手先  作者: 八海宵一
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「げほっげほっ――だ、大丈夫ですか、ヴィス。しっかりしてください。ヴィス――ヴィス」

 懸命(けんめい)に呼びかけるトリアの声に、ヴィスは朦朧(もうろう)とした意識のまま答えた。

「き、聞こえてるよ……それよりもオレ、生きてるのか」

高出力音響こうしゅつりょくおんきょうパルスで、死ぬことはまずないと思います」

「こ、高出力……音響……パ、パルス?」

 聞きなれない言葉にヴィスが困惑していると、トリアが心得たように言いかえた。

「人間は極端に大きな音を突然聞かされると、反射的に行動不能状態に(おちい)ります。ですが、それで死ぬことはありません」

「あの大きな音はおまえの仕業(しわざ)か!?」

 ヴィスはゆっくりと立ち上がりながら、あたりを見回した。瓦礫(がれき)と化した工場内はひどいありさまだった。作りかけのパーツがあちらこちらに飛び散り、床はいたるところが陥没(かんぼつ)していた。そして、この情景の元凶ともいえる2台の巨大な蜘蛛型戦車(くもがたせんしゃ)は、どちらも沈黙していた。メリルと入国管理官――シエラはそれぞれの上部ハッチで気絶していた。

「あなたにはできるだけ影響が出ないよう、音に指向性(しこうせい)を持たせたつもりなのですが、すいません、出力が強すぎたようです。げほげほ」

 トリアはかなり無理をしたのだろう、(のど)の調子がおかしそうだった。ときどき舌を出したり、せきをしたりしていた。

「大丈夫か?」

「お気遣(きづか)いありがとうございます。大丈夫、と言いたいところですがさすがに自己修復機能では、すぐに直らないようです」

「わかった。もう無理するな。しっかし――」

 ヴィスはトリアの顔をあらためて、まじまじと見た。

「どうかしましたか?」

「おまえの口は凶器だな」

 それを聞いたトリアはうなずき、笑いながら言った。

「はい。自分でも驚きです。こんな使い方があるとは知りませんでした」

 しかし、落ち着いたのもつかの間、工場の裂けた壁から大勢の警備兵たちがやってきた。ヴィスは身構えたが、もはや抵抗する気力は残っていなかった。トリアも眉をひそめようすを(うかが)っていた。

「ご安心ください、攻撃するつもりはありません」

 警備兵の背後から、フラット次官が姿をあらわした。

 フラットは細い腕をすばやく動かし、警備兵たちを散開させた。そして、メリルたちの身柄の拘束や、事態の収拾をすばやく命令しはじめた。

「お怪我はありませんか。ミレッド大使?」

 近づいてきたフラットが訊ねると、トリアはヴィスと顔を見合わせた。ヴィスは肩をすくめ、首をかしげた。どうやら、フラットは敵ではないらしい。トリアも同じように首をかしげた。

「フラット次官。これは一体、どういうことですか?」

「それはこちらがお尋ねしたい。ミレッド大使」

 フラットは眉間(みけん)に深いシワを刻み、深いため息をついた。

「聞きたいことが山ほどあります。とにかく中央政務室までお越しください」

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