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「大丈夫か、トリア」
工場内にもどったヴィスは、動かなくなったアーミオートをトリアから引き剥がし、やっとのことで助け出した。上着はズタズタに引き裂かれていたが、どうやら無事のようだ。
トリアは乱れた髪を整えながら、冷静に言った。
「どうやら、ロンヌシェルトで襲ってきたのもアーミオートのようですね。攻撃のパターンにかなりの類似性が見られました」
ヴィスは半分あきれながら、トリアを見た。
「どうかしましたか?」
「いや、べつになんでもない」
あの状況下でよくそんなことを考えていられるものだ、と思ったが、エレクトオートにとって、それは当たり前のことなのだろう。ヴィスはなにも言わなかった。
「ヴィス」
あらたまったトリアの口調に、ヴィスは首をかしげた。
「なんだよ?」
「助けてくれて、ありがとう」
トリアはうれしそうに微笑みながら、ヴィスに礼を述べた。
肩をすくめながら、ヴィスがうそぶく。
「たまには従者らしいこともしておかないとな」
「私はあなたを従者にして本当によかったと思います」
ヴィスは照れくさそうに、小さくうなずいた。
と、次の瞬間――。
工場の壁の一部が爆発した。
「な、なんなんだ、一体!?」
床に伏せたヴィスは頭を抱えながら、突然の天変地異に驚愕した。爆発は一度ではおさまらず、なんども轟音が鳴り響き、そのつど壁が吹き飛ばされた。
「どうやら対戦車砲が撃ちこまれているようです」
ベルトコンベアーから顔を覗かせたトリアが、涼しげな顔で言った。
「対戦車砲だって?」
ヴィスは自分の耳を疑った。人間相手になんてものを撃ちこんでくるんだ。非常識にもほどがある。
「工場ごと我々を破壊するつもりでしょう。ウル工場長はいまどこに?」
「まだ事務所でのびてるはずだ。一応、気がついても大丈夫なように、ロープでグルグルに縛ってきたし、アーミオートの起動装置も持ってきた」
ヴィスはウルの作業着から引きちぎってきたボタンをトリアに見せた。トリアはギアを高速回転させ、結論をだした。
「どうやら、ほかにも首謀者がいるようです」
「なんだって?」
言い終わらぬうちに、破壊された壁の隙間から巨大な蜘蛛のような物体が入りこんできた。
多脚型万能戦車。その上部ハッチに見覚えのある顔があった。
メリルだった。
メリルの静かな声がスピーカーから響いた。
「隠れてもムダですよ。ここまで知られた以上、確実に死んでもらいますから」
戦車の脚が不気味なほど滑らかに動き、砲塔が探るように左右に回転し始めた。
トリアがかすかに眉をひそめた。
「まずいですね。我々の位置をレーダーで補足したようです」
「それって、つまりどういうことなんだ?」
「逃げ回らないと、弾がこちらにむかって飛んでくる、ということです」
聞き終わる前にヴィスは走り出していた。賢明な判断だ。トリアもヴィスのあとに続いた。ふたりがさきほどまでいた場所は、ものの見事に砕け散った。
「もうひとつまずいことがあります」
逃げ回るトリアは顔色を変えずに言った。
「ま、まだあるのか? 一体、なんだ」
「あのふたりが首謀者である場合、もうひとり仲間のいる可能性があります」
「まだいるのか!? ……でも、どうしてそんなことがわかるんだ?」
「ウル工場長とメリル秘書官には同じ遺伝的特徴の形質が認められました。つまり、通常、親子のあいだで引き継がれる身体的特徴の類似性があのふたりにはあるのです」
「要するにリオットと似たところがあのふたりにはあるってことだろ? ほかにもそんな奴がいるのか?」
「あなたも一度、会っている人です」
トリアはなぞなぞを出題する子どものようにほほえんだ。だが、あいにくとヴィスは砲弾の飛び交うしたで、なぞなぞを楽しむような趣味の持ち主ではなかった。
「誰なんだ。いいから早く言え!」
トリアが答えを言う前に、答えのほうから壁をぶち破り、姿をあらわした。
入国管理官だった。
ケーナバルトの国境を越えるときに入国審査をしてくれた彼女が、メリルと同じように多脚型万能戦車に乗りこみ、上部ハッチから上半身を出していた。
「姉さん、遅くなってごめん。工場から戦車を出すのに手間取って……」
ね、姉さん……?
ヴィスは驚きのあまり走るのを止めそうになったが、メリルの次の言葉で我にかえった。
「シエラ、無駄口はこいつらを仕留めてからにして!」
「了解」
挟撃にあったヴィスは悲鳴を上げたい気分だった。容赦なく飛んでくる砲弾を避け続けるのは、もはや限界だった。
「ト、トリア、この状況をなんとかしろ!」
「なんとかしろ、といわれましても……私は文官であって武官ではありませんから」
「必殺技とかないのか」
「ありません」
トリアはきっぱりと断言した。
「この役立たず! 特技は早口言葉だけか!」
「早口言葉は別に特技というわけでは……ああ、そうか! ヴィス、耳をふさいで伏せてください!」
「?」
なにがなんだかさっぱりわからなかったが、ヴィスは言われたとおりにした。
その直後、すさまじい音があたりに響き渡り、ヴィスの意識は遠のいていった。
遠のく意識のなかでヴィスは自分が死んだのだと思った。




