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むせかえるような灼熱の蒸気が立ちこめ、薬品の独特なにおいが鼻を突く。
ヴィスとトリアは生産ラインの間を縫うように作られた金属性の簡易通路から飛び降り、ベルトコンベアーの物陰に隠れた。
「追いかけてこないようですね」
「たぶん、外の連中に応援を頼みにいってるんだろう。どっちにしても時間がないことだけは確かだ。早いとこ調査をすませよう。お前はなにを調べたいんだ?」
「そうですね、まずはあなたが言っていた不思議な工員に会いたいのですが……」
「それなら、もっと先だ。搬入口の近くにいたからな……って、なんだこりゃ!?」
移動しようと立ち上がったヴィスはベルトコンベアーで流れてくる物体を見て、素っ頓狂な声をあげた。ヴィスが驚いたのもムリはない。
流れていたものは、右腕だった。
一定の速さで、次々に組み立てられた右腕が流れてくる。かなり不気味な光景だった。
トリアはかすかに眉をひそめ、流れてくる右腕のひとつを取り上げた。
「機械の腕ですね」
「機械の腕? これが?」
ヴィスはトリアの持っている腕を眺め、顔をしかめた。どうみても人の腕にしか見えない。
「この工場はなんでこんなものを作ってるんだ?」
「いい質問ですね。私も同じことを聞きたいと思っていたところです。誰が、一体なんのためにこんなものを作っているのでしょう」
トリアは工場の設計図を思い出しながら、ほかのベルトコンベアーの確認を急いだ。予想通り、トリチウム電池を生産しているラインは一つもなかった。
それぞれのベルトコンベアーには左腕、胴体、右足、左足、そして顔の各パーツが流れていた。最後に顔のパーツを見たヴィスは気を失いかけた。
流れてくる顔が、昼間話しかけた工員と全く同じだったからだ。
「な、なんなんだ、ここは」
「どうやらこの工場は、アーミオートを作っているようですね」
「アーミオート!?」
トリアはうなずき、簡単な説明を付け加えた。
「軍事用の機械人形のことです。自律思考を持たず、上官の命令に服従する機械仕掛けの兵士といったほうがわかりやすいでしょうか」
「どういうことだ? ケーナバルトはどこかと戦争するつもりなのか」
「おそらく、そうでしょう」
トリアは即答した。なにかを確信しているらしい。
ヴィスはトリアの言葉に違和感を覚えた。目の前のこの光景はケーナバルト二世の凶相となにか関係しているような気がした。トリアはなんらかの未来像をすでに予想している。それがなんなのかヴィスは知りたくなった。
「トリア、お前は一体……」
だが、ヴィスの声はすぐにかき消された。
工場内に点在するスピーカーから、ウル工場長の声が鳴り響いたからだ。警備兵の連絡を受け、すぐに駆けつけたのだろう。苛立ちがそのまま声にあらわれていた。
「国家機密漏洩を防ぐため、今より超法規措置をとる。覚悟しろ!」
「どうやら、のんびりと話している時間はなさそうですね。すぐにここを離れましょう」
トリアはヴィスを促し、搬入口めざして走り出そうとした。だが、彼はすぐに走るのを止めた。
「どうした?」
「アーミオートです」
トリアは遠くから迫ってくる大勢の人影を見たまま答えた。ヴィスが昼間会った青年とまったく同じ姿をした機械人形たちが、ダース単位で押しよせてきていた。軍事用というだけあって動きが早い。人間離れした跳躍と走りで、トリアとヴィスはすぐに取り囲まれた。
「倉庫の完成品まで起動させるということは……ウル工場長は随分、怒っているようですね」
「冷静な分析の最中にわるいが、お前も少しはこの状況に焦りを感じてくれ」
じりじりと詰め寄ってくるアーミオートに身構えながら、ヴィスが叫んだ。同時に無表情な人形たちが跳びついてきた。
押しつぶされる!
そう思って身を強張らせたヴィスは目を閉じ、衝撃にそなえた。だが、意外にもアーミオートは襲ってこなかった。彼らはトリアだけを取り囲み、執拗に腹部を攻撃しはじめた。
「どうなってるんだ?」
呆気にとられたヴィスがつぶやくと、忙しそうに攻撃をかわしているトリアが言った。
「どうやら私だけを攻撃するようプログラムされているようです」
「なんだって?」
「攻撃対象のなかにあなたは入っていないようです。もともとあなたはイレギュラーな存在ですから」
「イレギュラー?」
ヴィスはその言葉に複雑なものを感じながら、トリアにまとわりつくアーミオートに体当たりを食らわした。吹き飛ばされたアーミオートはヴィスに気づいた様子もなく起き上がり、ふたたびトリアに向かっていった。ヴィスは自分が攻撃の対象でないことに安堵し、トリアからアーミオートを引き剥がしはじめた。だが、大勢のアーミオートは増える一方でトリアとヴィスは身動きが取れなくなった。
羽交い絞めにされ、腹部の電池ボックスを抉じ開けられそうになっているトリアはなんとか抵抗しながら、あいだでもみくちゃになっているヴィスを足で蹴り出した。
「このままではやられてしまいます。ヴィス、すいませんが事務所にいるウル工場長のところにいって、アーミオートの命令を撤回してください」
「撤回って……どうやったらそんなことが出来るんだ?」
人だかりから吐き出されたヴィスは、トリアの言葉に首をかしげた。
「説明のしかたがわるかったようですね……ウル工場長は、なんらかの装置を使って、アーミオートを操作しています」
「なんらかの装置ってなんだ?」
「わかりません。ですが、事務所から発信されている電波から想像するに、小型のマイクかリモコンのようなもので命令を出しているはずです。そこから新しい命令を出せば、動きを止められるはずです」
アーミオートと格闘しながらも、冷静に周囲の分析をしていたエレクトオートは心配そうにヴィスを見た。
「ですが気をつけてください。ウル工場長は人間です」
言外に、命の危険があることを報せていた。ヴィスは小さくうなずき、簡易通路に飛び乗ると事務所に向かって走り出した。




