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チェックメイトの一手先  作者: 八海宵一
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29

 二人がロンヌシェルトに戻ると、フロントに手紙が届いていた。

 トリアが受け取り、内容の確認をすませると、ヴィスに手紙を差し出した。

「どうやら、謁見(えっけん)の日時が決まったようですね。明日の午後、フラット政務次官にお会いしたあと、そのまま、宮廷に向かうようです」

「ああ」

 ヴィスは気乗りしないようすで、うなずいた。

「あまり、うれしくないようですね?」

「そんなことない。うれしいよ」

 (くちびる)に指をあて、うつむいたまま、手紙を見ようともしない。トリアはヴィスの反応に首をかしげた。メリルに注意されてから、ずっと様子がおかしい。

 部屋に戻ってきてからも、ヴィスは上の空で、ソファーにもたれながら、天井を眺めていた。

「メリル秘書官に、ずいぶん叱られたようですね」

 テーブルの上に置いたアタッシュケースから、トリチウム電池を取り出しながら、トリアは静まり返ったヴィスに、話しかけた。

「もしかして、それが反省という状態ですか?」

「反省? ――ああ、反省なら、さっき、もうしたさ」

 ヴィスは横目で、電池の交換をしているトリアを見ながらつぶやいた。つまり、いまは反省していない、ということだ。

 上着を脱ぎ、腹部を開けていたトリアは、新しい電池を()めながら、首をかしげた。

「では、どうして、そんなに大人しいのですか?」

「違和感さ」

「違和感?」

 かみ合わない会話に困惑していると、ヴィスが立ち上がり、トリアの背後に回りこんだ。そして、ためらわずにトリアの背中を叩いた。

「な、なんですか? 一体」

 ヴィスは黙ったまま、真剣な顔つきで今の感触を確かめた。そして、確信した。

「エレクトオートってのは、出稼ぎをするのか?」

「出稼ぎ? なんのことです?」

 トリアはヴィスの顔を(のぞ)きこんだ。ヴィスはまっすぐトリアの顔を見た。

「エレクトリア・アンペールから出稼ぎに出る奴はいるのか?」

「前にも話したと思いますが、エレクトオートは滅多(めった)に国から出ることがありません。私や、リオットのことで勘違(かんちが)いされているかもしれませんが、エレクトリア・アンペールは、他国との関わりを最小限に留めています。留学生にしても、過去、数名しか受け入れを許していません。出入国には、かなりの気をつかっているのです」

 冷静に答えるトリアに、ヴィスは大きく首をふった。

「だが、あの感触は、おまえにそっくりだった」

「感触? だれの感触ですか?」

「工場で働いていた奴だ。あいつの背中を叩いたとき、妙な感触だったんだ。少し(かた)い感じがした」

 ヴィスの言葉に、トリアは(まゆ)をひそめた。

「もし、それが人間の感触でなかったとしたら……」

「なかったとしたら?」

 ギアをフル回転させているトリアの顔をヴィスは覗きこんだ。トリアはうなずきながら微笑み、芝居がかった仕草(しぐさ)で人差し指を伸ばした。

「私が探していたものかもしれない……行きましょう、ヴィス!」

 トリアはすばやく上着を着るとヴィスを促し、部屋を出た。

 フロントに頼んで自動馬車を呼び寄せると、ふたりは急いで第四号工場へと向かった。

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