第8話 ちょっと贅沢な昼飯!
LINE通話を切った陸は、しばらくベッドに寝転がったまま天井を見ていた。
「……腹減ったな」
さっき鳴った腹が、もう一度小さく鳴る。
「よし、なんか食うか」
身体を起こしてベッドから降りる。そのまま台所へ向かおうとして、ふと足が止まった。
「……あ」
玄関の方を見る。扉の向こうでは、今もスケルトンたちが狩りを続けているはずだ。
「ポイント、どうなってんだ?」
さっきまで腹のことしか考えていなかったのに、一気にそっちが気になってくる。陸はすぐウィンドウを開いた。
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所持ポイント
3,800P
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「……え?」
数字を二度見る。
「三千八百!?」
ダンジョンから戻る前より、明らかに増えている。
「うわ、めっちゃ増えてる!」
思わずその場で笑う。
「俺、電話してただけなんだけど!?」
シャワーを浴びて、ベッドに寝転がって、友達と喋っていただけ。その間にも、スケルトンたちはダンジョンで戦っていた。
「これ、マジで最高じゃん!」
陸はそのまま台所へ向かった。
冷蔵庫を開ける。卵、野菜、昨日買った適当な食材。
「まあ、普通にこれで何か作ればいいか」
そう呟いて、冷蔵庫の扉を閉めかける。
でも、頭の中にさっきの数字が残っていた。
3,800P。
ほぼ三千八百円。
しかも自分が何かして稼いだわけじゃない。
「……いや」
陸の手が止まる。
「せっかく増えたんだし、なんかいいもん食うか!」
すぐショップを開き、食品のカテゴリーを選ぶ。
水。おにぎり。パン。肉。魚。菓子。
見慣れた商品がずらっと並ぶ中、陸は迷わず検索欄へ指を伸ばした。
「そういや、あれあったよな」
松阪牛。
検索すると、すぐに見覚えのある商品が出てきた。
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松阪牛 A5ランク 500g
25,000P
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「いや、これはまだ無理!」
即座に閉じる。
「昼飯で二万五千はさすがに使えねえ!」
とはいえ、一度高い肉を見てしまったせいで、もう普通の肉に戻る気にもなれなかった。
「もうちょい現実的なのないかな」
肉の一覧を下へ送っていく。国産牛。ブランド豚。鶏肉。ステーキ用。
その中で指が止まった。
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国産黒毛和牛
サーロインステーキ 200g
2,800P
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「おお……」
写真には、綺麗に脂の入った厚めの肉が映っている。
「二千八百か」
現在3,800P。買えば残り1,000P。
普段の昼飯に2,800円の肉なんて、まず買わない。数秒だけ画面を見つめる。
「……でもこれ、俺が電話してる間に稼いだポイントだよな?」
口元が緩む。
「買っちゃうか!」
購入を押した。
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国産黒毛和牛
サーロインステーキ 200g
2,800P
購入しました。
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「よし!」
次の瞬間、台所の空中に青白い光が集まり始めた。
「え、何!?」
陸が一歩近づく。細かな光がふわふわと集まり、やがて一つの形になっていく。
ポンッ。
台所の作業台の上に、肉の入ったパックが現れた。
「うおお! 出てきた!」
すぐ手に取る。透明なパック越しでも分かるくらい、綺麗に脂が入っている。
「マジで買えるんだ……!」
ショップに並んでいた時とは違う。今、ちゃんと手の中にある。
それだけで妙にテンションが上がった。
「これ昼から食っていいやつ?」
誰に聞くでもなく笑う。
米もあるし、サラダに使えそうな野菜も冷蔵庫にある。
なら、あとはこの肉を焼くだけだ。
フライパンを火にかける。十分に熱くなったところで、パックから肉を取り出した。
「うわ、厚っ」
塩を軽く振る。
「……いくぞ」
肉をフライパンへ置いた。
ジュウウウウウッ!
「うわっ、音やば!」
一気に脂が溶け、香ばしい匂いが立ち上がる。陸は思わず顔を近づけた。
「めっちゃいい匂いする!」
焼ける音を聞いているだけで腹がさらに減ってくる。
表面に焼き色がついたところで裏返す。
ジュワッ、とまた大きな音が鳴った。
「これ絶対うまいやつだろ!」
フライパンの前から離れられない。焼きすぎないように何度も肉を見ながら、まだか、もういいかと落ち着かずに待つ。
「もういいよな? いいよなこれ?」
最後に火を止める。
皿へ移すと、肉汁がじわっと表面に浮かんでいた。
「……やば」
もう待っていられない。
陸は急いで茶碗に白米をよそい、レタスとトマトを適当に皿へ盛る。箸とナイフもまとめてテーブルへ運んだ。
白米。サラダ。そして黒毛和牛のステーキ。
普段の一人暮らしの昼飯とは、肉だけ明らかに格が違う。
「早く食お!」
椅子に座ると、すぐステーキへナイフを入れた。
柔らかい。
「うわ、もう切った感じから違う!」
一口大にして、口へ運ぶ。
「……」
噛んだ瞬間、脂の甘みと肉の旨味が一気に広がった。
「うっま!」
思わず声が大きくなる。
「何これ、めっちゃうまい!」
もう一口。そのまま白米をかき込む。
「やば。米止まんねえ!」
頬が勝手に緩む。気づけば、食べるたびに笑っていた。
「昼飯でこれ食えるの最高すぎるだろ……!」
肉を一切れ食べて、米。サラダを挟んで、また肉。
200グラムあったステーキは、あっという間になくなった。
「……はあ」
空になった皿を見ながら、満足して背もたれへ身体を預ける。
美味かった。本当に美味かった。
それも、今日の朝まで存在すら知らなかったポイントで買った肉だ。
「俺、さっきまで電話してただけなんだよな」
改めて考えると、やっぱりおかしい。
自分が家で休んでいる間にスケルトンたちが狩る。ポイントが増える。そのポイントで、普段なら買わないようなものを買える。
陸の視線が玄関へ向く。
「二千八百ポイントでこれか……」
ショップには、もっと高いものがいくらでもあった。松阪牛。ドラム式洗濯乾燥機。ホームシアター。スキル。
今はまだ全然届かない。
でも。
「もっと稼いだら、もっとすごいことできるよな」
口元がまた緩む。
「よし。もっと稼ぐか!」
満腹になったはずなのに、今度はポイントを稼ぎたくて仕方がなくなっていた。
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