第74話 ホバーバイク!
翌朝。
昨日の約束どおり、陸は朝からエリナとしばらく遊んでいた。ゲームを何戦か終えたところで、エリナが次のゲームを選んでいる間にサモンマップを開く。
「……おお!」
昨日送り出した十組の高速探索部隊は、すでに第7階層の奥へかなり進んでいた。
以前の三十体で探索していた時より、明らかに地図の広がる速度が速い。スピードウルフ二体とジャイアントバット一体で組んだ十組の印が、それぞれ別方向へ伸びた道の先を進み続けている。
「速っ! これめっちゃいいじゃん!」
「はやい?」
「うん。前より全然速い!」
エリナも隣から地図を覗き込む。
まだボス部屋は見つかっていない。それでも、このペースなら第6階層の時よりずっと早く見つかりそうだった。
「よしよし。このまま頼むぞ」
陸はサモンマップを閉じ、そのまま文明攻略戦のランキングを開いた。
「こっちもどうなったかな」
自分の名前を探していく。
JOHNの表示は、総合99位。攻略進行度は58.6%まで上がっていた。
「お、上がってる!」
イベント開始時は総合103位、攻略進行度51.4%だった。まだ大きく順位を上げたわけではないが、攻略進行度も順位も少しずつ上がっている。
「いいねいいね。このまま一気に――」
そこで、陸の声が止まった。
「……あれ?」
サモンマップをもう一度開く。
第7階層の入口から、かなり奥まで伸びた探索済みの道。さらにその先を、高速探索部隊が進んでいる。
「これ、ボス部屋見つけるのは速くなったけど……」
陸は入口から奥へ続く道を目で追った。
「見つけたあと、俺がそこまで行くの遅くない?」
第6階層では、入口から奥まで移動するだけでもかなり時間がかかった。探索するスケルトンだけ速くしても、最後に自分の移動で時間を取られたら、その分だけまた攻略が止まる。
「次はこっちかあ」
「こっち?」
「俺が速く移動する方法」
陸は少し考えてからショップを開いた。
「乗り物とかないかな」
検索してみると、自転車やバイク、車まで大量に並ぶ。
「車は……無理だよな」
第7階層は舗装された道ではない。岩場が続き、通路の広さも場所によって違う。普通の車では走れる場所が限られそうだ。
「バギーとかなら……いや、段差あったら止まりそうだし」
一覧を眺めながら、さらに条件を変えて探していく。
しばらくして、陸の指が止まった。
「……ホバーバイク?」
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ホバーバイク
魔力式の浮遊移動具。
地面から一定の高さを保って走行し、
悪路での移動にも対応。
乗車人数:2人
20,000,000P
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「二千万!」
思わず値段を見直す。
安い買い物ではない。ただ、今の手持ちなら買ったあとも余裕は残る。それに、この先も第8階層、第9階層と進んでいくなら、移動時間を何度も短縮できる。
「……これなら全然ありだな」
陸は商品の画像を大きくした。
黒と銀を基調にした細長い車体。前にはしっかりとハンドルがあり、後ろにも一人乗れるだけの座席がある。タイヤの代わりに車体の前後左右へ四つの円形装置が取り付けられ、その内側では青白い光を帯びた輪が浮かぶように回っていた。
「かっこいいじゃん!」
「これ、なに?」
いつの間にかエリナが画面の横から覗き込んでいる。
「乗り物。これでダンジョン走る」
「のる!」
「買ってからな」
「かう!」
「エリナが決めるのかよ」
陸は笑いながら購入を押した。
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ホバーバイク
20,000,000P
購入しました。
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青白い光がリビングの空いた場所へ集まり、少しして画像で見たホバーバイクがそのまま現れた。
「おお……!」
「わぁ!」
実物で見ると、思っていたよりも車体が大きい。陸がハンドルに触れると、そのまま所持アイテムへ入れた。
「よし。まずは試しに乗ってみるか」
「のる!」
「エリナも乗るか」
「のる!」
いきなり第7階層で試すのは怖い。まずは第1階層で操作に慣れておいた方がいい。
陸はエリナと玄関へ向かい、扉を開けた。
その先には、薄暗い石造りの第1階層の通路が続いている。少し進み、周囲に魔物がいないことを確認してから、ホバーバイクを取り出した。
青白い光の中から車体が現れる。
「じゃ、動かしてみるぞ」
陸が座席へ跨がってハンドルを握ると、エリナもすぐ近くまで寄ってきた。小さな身体を抱き上げ、自分の前、脚の間へちょこんと座らせる。
「ここならいいか」
「うん!」
起動すると、四つの円形装置の光が強くなった。
低い音とともに、車体がゆっくり地面から浮かび上がる。
「おおっ!」
「とんだ!」
「いや、ちょっと浮いてるだけだけどな」
陸がハンドルを操作すると、ホバーバイクが滑るように前へ進み始めた。
「うわ、速っ!」
少し力を加えただけで一気に速度が上がる。ハンドルを傾ければ車体も滑らかに曲がり、石床の細かな凹凸もほとんど揺れを感じない。
「これいいじゃん!」
「はやい!」
すぐ前から、エリナの楽しそうな声が聞こえる。
「エリナ、なにもしてないのにとんでる!」
「エリナ、いつも自分で飛んでるだろ」
「ちがう! いま、つばさしてない!」
「そこが楽しいのか」
「たのしい!」
陸が笑いながら速度を落とすと、エリナが前脚を伸ばしてハンドルへ触れた。
「エリナも!」
「え、ちょっと待――」
ハンドルがぐっと横へ動き、ホバーバイクの向きが変わる。
「危ない危ない!」
「わぁ!」
「ゲームと違うから!」
慌てて陸がハンドルを戻す。
ホバーバイクはそのまま通路の中央へ戻り、陸は大きく息を吐いた。
「触るなら止まってからな」
「……うん!」
返事はいいが、エリナの目はまだハンドルへ向いていた。
「絶対また触ろうとしてるだろ」
「してない!」
「ほんとか?」
陸は笑いながら、もう一度ゆっくり速度を上げた。
第7階層でどこまで走れるかは、実際に持ち込んでみないと分からない。それでも徒歩とは比べものにならない速さだった。
「これなら、ボス部屋までの移動もかなり短くできそうだな!」
前を向いたまま、陸はさらにハンドルを握り直した。
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