第64話 変わり始めた世界
異変が起きてから、世界中の生活は大きく変わっていた。以前の金は、少なくとも今の生活ではほとんど使い道がない。食料も水も、日用品も、必要ならショップからポイントで手に入る。そして、そのポイントを稼ぐために人々が向かう場所は一つだった。
『今日も仕事行ってきます』
『仕事』
『笑えないんだよなあ』
『昨日サボったせいでポイント足りん』
『会社員の頃より休めなくなってて草』
『魔物倒さないと飯買えない世界だからな』
『ドロップ売れば結構なんとかなるぞ』
『そのドロップ取るために魔物倒すんだろ』
『それはそう』
最初の頃は、玄関の先へ足を踏み出すことすらできない人も多かった。だが、生きていくにはポイントがいる。いつまでも家の中に残っているだけでは何も増えず、ネット上には初心者向けの攻略情報が急速に増えていた。
『【初心者向け】第1階層で死なないために絶対やること5選』
『ゴブリン相手に包丁はやめとけ。近すぎる』
『金属バットかなり使える』
『家にバットねえよ』
『モップの柄』
『折れた』
『先に試せ』
『厚手の服だけでも着とけ。何もなしよりマシ』
『一人で突っ込むな。家族いるなら一緒に行け』
『友達の家行けないんだが』
『それなんだよな』
魔物ごとの戦い方を解説する動画もあれば、実際の戦闘を撮影した映像もある。何を持っていけばいいのか、どこまで進むべきか、どのアイテムを売り、何を残すべきか。それまで誰も知らなかったはずのことが、毎日のように検証されていた。
『現場仕事してたやつ、今めちゃくちゃ有利じゃね?』
『毎日資材運んでた俺、ここに来てフィジカルが資産になる』
『デスクワーク民ワイ、初日で全身筋肉痛』
『今まで椅子に座ってたツケを払え』
『煽んな』
『でも攻略情報まとめてんの誰だと思ってんだ』
『スプレッドシート勢の逆襲』
『魔物の出現場所まとめ助かってます』
『結局どっちも必要で草』
生活そのものへの受け止め方も、人によってかなり違っていた。
『通勤なくなったのだけは最高』
『上司に会わなくていいの快適すぎる』
『でもゴブリンには会うぞ』
『上司とゴブリンどっちがマシ?』
『ゴブリン』
『即答で草』
『俺は普通に前の生活に戻りたい』
『外歩けないの無理』
『家族と離れてるやつは笑えんだろ』
『ダンジョン怖くてまだほとんど入れてない』
『無理して死ぬよりいい』
『でもポイントは必要なんだよな……』
ダンジョンへ向かう人間が増えるにつれて、攻略だけでなく配信や動画も一気に増えていった。
『ゴブリン三体に囲まれて終わったと思った配信』
『タイトルで生存確認できるのずるい』
『このスキル強すぎだろ』
『当たりスキル民うらやましい』
『この人また同じ罠踏んでる』
『コメント見ろ』
『戦闘中に見れるわけないだろ』
『今日のドロップ売却額公開します』
『もう完全に収支報告で草』
そんな中、何度も話題に上がる疑問があった。
『てかさ』
『なんで普通にネット使えてんの?』
『今さら?』
『いや今さらだけどおかしいだろ』
『SNSも動画も普通に見れるし投稿できる』
『電気も水も止まってない』
『誰が動かしてんだよ』
『外に人いないのに街もそのままだしな』
『車も走ってない』
『なのに道路が草だらけになってるわけでもない』
『動物が街占領してる感じもない』
『時間止まってる説』
『でも俺らは普通に腹減るぞ』
『じゃあ街だけ止まってる』
『雑』
当然、その理由についての説も次々に出てくる。
『政府が裏でやってる』
『全世界で起きてんのにどこの政府だよ』
『政府の上に政府があるんだよ』
『陰謀論が一段上がった』
『超大金持ちの実験説は?』
『金持ちに何ができるんだよ』
『ダンジョン作れるくらい金持ち』
『それもう金の問題じゃないだろ』
『神』
『急に強い』
『宇宙人じゃね?』
『宇宙人というか、俺らより何万年も進んだ文明』
『それならこのシステム作れてもおかしくない』
『未来人説もある』
『シミュレーション説』
『俺ら全員ゲームの中?』
『じゃあログアウトさせろ』
『管理してる何かがいるのは確定じゃない? インフラまで生きてるのおかしいだろ』
『確定はしてない』
『人間の中に事情知ってるやついる説』
『ランキング上位者とか?』
『なんで強いやつが黒幕になるんだよ』
『俺は猫だと思ってる』
『何を?』
『黒幕』
『もう寝ろ』
『結局、誰がやってんだよ』
『分かったら世界中が騒いでる』
『考えてもポイント増えないからダンジョン行ってくる』
『急に現実的』
『飯代稼いでこい』
『行ってきます』
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