第62話 エリナとお風呂!
トレーニングルームでもしばらく遊んだあと、陸たちはリビングへ戻った。
気づけば外はもう暗い。陸は夕食を出し、エリナと一緒に食べることにした。昼間にあれだけ食べていたのに、エリナの食欲は変わらない。
「これもたべていい?」
「いいよ」
皿を空にしては次へ前脚を伸ばし、最後に甘いものまできれいに食べる。食後は少しゲームをしたり、テレビを眺めたりしているうちに、時間はどんどん過ぎていった。
陸が時計を見て立ち上がる。
「そろそろ風呂入るか」
「おふろ?」
「身体洗って、あったかいお湯に入るやつ」
エリナは少し考えたあと、首を傾げる。
「まあ、行けば分かるよ」
陸はそのままエリナを連れて洗面所へ向かった。
浴室の扉を開けると、エリナが中を覗き込む。広い洗い場の奥には、大きな浴槽いっぱいに湯が張られていた。
「ここにはいるの?」
「そう。先に身体洗ってからな」
陸が洗い場へ入ると、エリナも後ろからついてくる。
シャワーからお湯を出すと、エリナが流れ落ちる湯をじっと見た。
「これ、あったかい」
「熱くない?」
「だいじょうぶ」
陸は自分を洗ったあと、エリナの身体も手伝うことにした。
「背中とか届かないだろ。洗うぞ」
「うん」
泡をつけて背中を洗い、翼の周りも邪魔にならないように手を動かす。最初はじっとしていたエリナだったが、だんだん力が抜けていった。
「きもちいい?」
「きもちいい……」
「じゃ、流すぞ」
シャワーで泡を流し終えると、陸は先に浴槽へ入った。
「ほら。エリナも入ってみ」
エリナは浴槽の縁から湯を覗き、前脚をそっと入れる。
「あったかい」
「だろ?」
そのままゆっくり中へ入ってくる。四本の脚が湯につかると、エリナはしばらく不思議そうに水面を見ていた。
やがて前脚で湯を軽くかく。
「およげる?」
「まあ、ちょっとくらいなら」
エリナはすぐに身体を浮かせ、浴槽の中をゆっくり進み始めた。
「お、泳げるじゃん!」
大きな浴槽とはいえ、泳ぎ回れるほどの場所ではない。それでもエリナは端まで進んでは向きを変え、楽しそうに前脚で湯をかいている。
「たのしい!」
「ははっ、よかったな」
しばらくして陸が浴槽の横へ手を伸ばした。
「そうだ。これもあるぞ」
ジェットバスのボタンを押す。
次の瞬間、浴槽の側面から泡と水流が一気に噴き出した。
「わっ!?」
エリナが慌てて振り返る。
ぶくぶくと湧き続ける泡へ前脚を伸ばし、一度触ってから、もう一度触る。
「なにこれ!」
「泡と水が出るやつ」
「おもしろい!」
今度は泡の近くまで寄り、前脚で水面を叩く。飛んだしずくが陸の顔へかかった。
「おい!」
「えへへ」
「やったな」
陸が手で少し湯を返すと、エリナもすぐにやり返してくる。
しばらく二人で水をかけ合っていたが、やがてエリナも満足したのか、陸の近くで湯につかるようになった。
さっきまで動き回っていたのが嘘みたいに静かになる。
陸も浴槽へ背中を預けたところで、ふとエリナを見る。
「そういやさ」
「なに?」
「ママたちとはぐれた時って、どんな感じだったんだ?」
エリナの顔から、さっきまでの笑顔が少し消えた。
「……ママとパパと、みんなといっしょだった」
「うん」
「とおいところに、いくとちゅうだったの」
「遠いところ?」
エリナが小さく頷く。
「みんなでいっしょにいて……ぴかってして」
「光った?」
「うん。いつもそれで、みんなでいくの」
陸にはいまいち想像がつかなかった。
「それで、気づいたら一人だった?」
「……うん」
エリナは水面へ視線を落とす。
「ママも、パパも、いなかった」
声がさっきまでよりずっと小さい。
「……あいたい」
陸は少し黙った。
「そりゃ会いたいよな」
エリナは何も言わず、水面を見たままだった。
「まだどこにいるか分かんないけどさ。探そう」
エリナがゆっくり顔を上げる。
「さがしてくれる?」
「もちろん。絶対見つけような。見つかるまで探すから」
少し間があって、エリナが小さく頷いた。
「……うん」
陸はそれ以上聞かなかった。
しばらくすると、エリナはまた浴槽の中の泡へ前脚を伸ばす。さっきほど元気ではなかったが、ぶくぶくと上がってくる泡を一つずつ触っているうちに、少しずつ表情も戻ってきた。
「まだそれ気になるの?」
「うん」
「好きだなあ」
エリナはもう一度泡を触り、小さく笑った。
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