第61話 映画とトレーニング!
それからもしばらく、エリナはゲームをやめようとしなかった。
勝てば喜び、負ければすぐにもう一回。何戦したか分からなくなった頃、ようやくエリナがコントローラーを置いた。
「たのしかった!」
「めっちゃやったな」
ソファから立ち上がった陸は、まだ満足そうなエリナを見て少し考える。
「次、映画でも見る?」
「えいが?」
「でっかい画面で見るやつ」
また知らない言葉だったらしい。エリナは首を傾げたまま、陸の後ろについてきた。
ホームシアターの扉を開ける。
正面には巨大なスクリーン。向かいには何人も座れそうな大きなソファが並び、壁や天井にはいくつものスピーカーが埋め込まれている。
エリナは部屋へ入るなり、スクリーンを見上げた。
「おっきい……」
「これで映画見るんだよ」
陸はソファへ座り、隣を軽く叩く。エリナもそこへ上がると、まだ珍しそうに周りを見回していた。
操作パネルで照明を落とすと、部屋の中がさらに暗くなる。
「くらくなった」
「これから映るから、見てれば分かるよ」
スクリーンに映像が映り始める。
陸が選んだのは、悪者を追いかけながら街中を走り回るような分かりやすいアクション映画だった。細かい話が分からなくても、派手な場面を見ているだけで楽しめそうなものを選んだ。
主人公の乗った車が道路を勢いよく走り抜ける。
「はやい!」
すぐ後ろから別の車が追いかけてくる。画面いっぱいに街並みが流れ、曲がり角を抜けたところで大きな爆発が起きた。
「わっ!」
エリナの翼がびくっと動く。次の瞬間、爆発音が前だけではなく横からも響き、エリナが慌ててそちらを見る。
「こっちからもきこえた!」
「すごいだろ?」
「すごい!」
映画が進むにつれ、エリナはどんどんスクリーンへ身体を向けていった。
主人公が高い建物から飛び移れば身を乗り出し、追いかけていた敵を倒せば嬉しそうに前脚を動かす。
「やった!」
「楽しそうだな」
陸は映画より、隣でころころ反応を変えるエリナの方を何度も見てしまう。
しばらくして画面の中が静かになった直後、今度は後ろのスピーカーから足音が聞こえる。
「……?」
エリナがぴくっと顔を上げ、勢いよく後ろを振り返った。
「うしろ!」
「音だけだよ」
何もいない壁を見つめたあと、エリナはもう一度スクリーンを見る。
「ほんとに、うしろにいるみたい」
「びっくりするだろ?」
映画が終わる頃には、エリナは完全にスクリーンへ夢中になっていた。エンドロールが流れ始めても、少しの間そのまま見つめている。
「おわり?」
「終わり」
「たのしかった!」
「そっか」
陸は笑って照明を戻した。
「じゃあ、他の部屋も見てみる?」
「みる!」
立ち上がった陸について、エリナもすぐソファから下りる。
次に入ったのはトレーニングルームだった。
中にはランニングマシン、ベンチ、ダンベル、それにいくつかのトレーニングマシンが並んでいる。
エリナは入口で立ち止まり、不思議そうに器具を眺めた。
「ここは?」
「運動する部屋」
陸が近くのダンベルを指さす。
「こういうの使うんだよ」
エリナはすぐそちらへ近づいた。
「これ?」
「それ」
前脚をダンベルへかけようとするが、人間が握るための形なのでうまく持てない。何度か位置を変えたあと、少しだけ転がった。
「……もてない」
「そりゃ持ちにくいよな」
エリナはダンベルを諦めると、今度はランニングマシンの方へ向かう。
「これは?」
「ここ歩くやつ。見てな」
陸が乗ってゆっくり動かしてみせると、足元のベルトが流れ始め、エリナの目が大きくなった。
「うごいてる!」
「乗ってみる?」
「のる!」
陸が一度止めてからエリナを上へ乗せる。四本の脚で立ったエリナは、不思議そうに足元を見ていた。
「ゆっくりな」
陸が一番遅い速度で動かすと、ベルトが流れ、エリナが慌てて一歩前へ出る。
「わっ」
「歩けば大丈夫」
最初はぎこちなかったが、何歩か進むうちに少しずつ動きに慣れてきた。
「あるいてる!」
「そういうやつだからな」
エリナは楽しそうに足を動かし続ける。しばらくして止めると、今度は隣のベンチへ向かい、その上へ前脚を乗せた。
「これは?」
「それは……まあ、座ったり寝たりして使うやつ」
説明を聞く前に、エリナはそのままベンチの上へ身体を乗せる。
「こう?」
「いや、まあ……それでもいいか」
四本の脚を乗せたまま得意そうにこちらを見るエリナを見て、陸は笑った。
「お前、なんでも遊びにするな」
「たのしい!」
「ならいいけど」
エリナはベンチから下りると、次は別のトレーニングマシンへ向かっていった。
陸もその後を追った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや☆評価、感想で応援していただけると励みになります!




