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第58話 エリナ

 小さなドラゴンは陸の声にも答えず、きょろきょろと周囲を見回した。けれど、探しているものはどこにもない。大きな瞳にみるみる涙が溜まっていく。


「ママぁ……」


 声が震え、次の瞬間にはぽろぽろと涙がこぼれ始めた。


「パパぁ! どこぉ!」


 洞窟の中に泣き声が響く。


「ちょ、ちょっと待って! 大丈夫だから!」


 陸は慌てて近づいた。小さなドラゴンはその場に座り込み、薄い水色の翼まで力なく垂らして泣き続けている。


「ママいないぃ……パパもいないぃ……」


 さっきまで見たことのないモンスターだと思っていたのに、今はどう見ても迷子の子供にしか見えなかった。


「お、お前……どうしたんだ?」


 泣いている小さなドラゴンが、ようやく陸を見る。


「おなかもすいたぁ……」


「腹減ってんのか」


 何を聞いても、今はまともに話せそうにない。まず落ち着かせた方がよさそうだった。


 陸はショップを開き、食べやすそうな肉料理と水を買う。


「ほら。食べる?」


 皿を置くと、小さなドラゴンの泣き声が少し弱くなった。涙を溜めたまま、視線だけが肉へ吸い寄せられていく。


「……たべていいの?」


 陸が頷く。


「いいよ。ゆっくり食べな」


 小さなドラゴンは恐る恐る一口食べたが、次の瞬間にはものすごい勢いで食べ始めた。


「はやっ!」


 ついさっきまで泣き続けていたのに、皿の上の肉がどんどん消えていく。陸は少し安心しながらその様子を見守り、水も飲ませてやった。


 食べ終わる頃には、泣き声もほとんど収まっていた。小さなドラゴンは鼻をすすりながら、改めて陸を見る。


「……あなた、だれ?」


「俺? 陸。佐藤陸」


 陸は自分を指さしてから、小さなドラゴンへ視線を戻した。


「お前は?」


 少し間があって、小さな声が返ってくる。


「エリナ……」


「エリナか」


 陸はしゃがんだまま、できるだけ普通に話しかけた。


「ママとパパ、どっか行っちゃったの?」


 エリナは首を横に振った。


「いっしょにいたの。ママとパパと、みんなといっしょに移動してたの」


 そこまで話すと、また目に涙が浮かぶ。


「でも、いなくなっちゃった……」


「気づいたらここにいた?」


 エリナが小さく頷いた。


 陸は少し考えてから聞いた。


「ママたちがどこにいるかは?」


「わかんない……」


「そっか……」


 それでは、今すぐ探しに行くのも難しい。


 陸はエリナへ意識を向け、鑑定を使ってみた。だが、いつものステータスは表示されない。


━━━━━━━━━━━━━━

対象を鑑定できません。

━━━━━━━━━━━━━━


「え、鑑定できない?」


 もう一度試しても結果は同じだった。理由は分からない。


 エリナは不安そうな顔で陸を見上げている。


「これから行くとこ、ある?」


 エリナはまた首を横に振った。


「ない……」


 このまま一人で洞窟に置いていく選択肢はなかった。陸は少し考え、エリナへ手を差し出す。


「じゃあ、とりあえずうち来る?」


 エリナが涙の残った目を瞬かせた。


「うち?」


「家。ご飯もあるし、寝る場所もあるよ」


 陸は一度言葉を切ってから、続ける。


「ママたちも一緒に探そう。俺もこのダンジョン探索してるし、何か分かるかもしれないから」


 エリナは陸の手と顔を交互に見る。


「……いっしょに、さがしてくれるの?」


「うん。見つかるまで手伝うよ」


 エリナはすぐには動かなかった。差し出された手を見たあと、岩だらけの洞窟と周りのスケルトンたちへ視線を向ける。少し迷うようにその場で縮こまり、翼を身体へ寄せた。


「……ひとり、やだ」


 陸は手を引っ込めず、そのまま待った。エリナはもう一度洞窟の奥を見てから、少しだけ陸の方へ近づく。


「ごはんも……ある?」


「あるある」


 その答えを聞いて、エリナの表情がほんの少しだけ明るくなる。


 陸は立ち上がり、椅子や小さなテーブルを片づけた。香炉はもう煙を上げていない。泣き疲れたような顔のエリナが、その横で陸を待っている。


「じゃ、帰ろうか」


 エリナはもう一度、小さく頷いた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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