第202話 一番の中継機!
「リク、ベヒーモス、けずれた」
エリナが陸の後ろから、ベヒーモスの脇腹を見ていた。肋骨の横に白い擦り傷が一本走っているが、ひびは入っていない。ベヒーモスは何事もなかったように身体を起こし、元の壁際へ戻っていった。
右耳で、無線が鳴った。
『JOHN。外から確認したいそうです。何か、上がってきますか』
「来ません! 全部倒しました! 五体です!」
少し間があって、通訳の女性の声が続いた。
『了解、と』
その後ろで、誰かが英語で何か言い、何人かの声が重なったのが聞こえた。
陸は探索班を左右の通路へ一組ずつ出した。どちらも、角を一つ曲がるまで。サモンマップの上で、広い空間の奥から線が二本、枝のように伸びていく。
右の線は、すぐに折り返してきた。何もなかったらしい。左の線も折り返したが、戻ってきた組は陸の前で止まらず、左の口の手前で足を止めて、そろって足元を見下ろした。
陸はロイヤルナイトとベヒーモスを連れて、左の口まで行った。
通路の入口の天井が、一部崩れていた。岩の塊がいくつも積み重なっていて、その一番大きな板のような岩の下から、細い金属の脚が一本突き出している。
脚には、オレンジ色のテープが巻かれていた。
「ベヒーモス、その岩どけて。ゆっくりな」
コボルトベヒーモスが板岩の縁に指をかけ、持ち上げた。下から、潰れかけた三脚と箱型の機械が出てくる。側面の数字の板は斜めに割れていたが、読めないほどではなかった。
「1」。その下に、白い矢印。
「一番……」
陸はサモンマップを見た。
ロイヤルナイトとベヒーモスの印は、広い空間の奥の、左の線の付け根にあった。陸はさっき眼鏡の女性が見せてくれた画面を思い出した。一番の丸は、右の道の入口にあった。
「エリナ、ここ、左だよな」
「ひだり」
エリナは、陸の後ろから自分の前脚で左の口を指した。
陸は無線のボタンを押した。
「一番の中継機、見つけました。倒れてます。岩の下で。……あと、左の道の入口です。右じゃなくて」
通訳の女性の声が途切れた。少しして、別の声が英語で何か言い、それが訳されて戻ってきた。眼鏡の女性だった。
『中継機の下に、黒い箱が付いています。その中身を、持ってこられますか』
三脚の根元に、手のひらを二つ並べたくらいの黒い箱が、太いボルトで留められていた。角が黄色く塗られ、蓋の縁にはゴムのようなものが挟まっている。ロイヤルナイトに金具ごと外させて受け取ると、見た目よりずっと重かった。
陸はナイトとベヒーモスを左右の口へ一体ずつ立たせ、残りを広い空間に並べてから、エリナと斜面を上った。
口の縁では、眼鏡の女性が地面に膝をついて待っていた。横に、角の丸い頑丈そうな端末が開いてある。ウォーカーもその後ろに立っていた。
陸が箱を渡すと、女性は蓋の留め具を外した。中に、厚みのある黒い板のようなものが一枚、溝にはまっていた。それを抜いて端末の横へ差し込む。画面に、英語と数字の列が流れ始めた。
「中継機は、通信を中継するだけではありません」
女性は画面から目を離さずに言った。通訳の女性が、横でそれを追いかける。
「何かあった時のために、自分の記録をこの中に残します。いつ、どの無線が自分の近くを通ったか。それから、自分が傾いたり動かされたりしたか」
画面の数字の列が、途中で止まった。女性が指で一行をなぞる。
「二つ目の班は、行きにここを通っています。時刻も、送られてきた記録と合っています」
もう一行。
「最初の班がこれを置いてから、二つ目の班が通った後まで――この中継機は、一度も動いていません。傾きも、向きも、置いた時のままです。倒れたのは、二つ目の班との通信が切れたずっと後。倒れた後も、動かされた記録はありません」
女性は端末の画面を切り替えた。
一枚の写真だった。黒い岩壁の空間。右側に開いた通路の口の手前に、三脚が立っている。側面に「1」。最初の班が置いた時のものだと、説明されなくても分かった。
陸は、自分のサモンマップを開いた。
入口から斜面を下り、広い空間に出て、奥で左右に分かれた二本の線。中継機が倒れていたのは、左の線の付け根だった。陸は画面をそのまま女性とウォーカーの方へ向け、左の線を指で押さえた。
「俺のスケルトンが見つけたの、ここです。こっちが左」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや☆評価、感想で応援していただけると励みになります!




