第198話 線の内と外!
地図の部屋へ戻ると、壁の地図が切り替わっていた。
さっきまでの広い地図ではなかった。中心に小さな印が一つあり、その周りを赤い線が二重に囲んでいる。線の上には、四角い印がいくつも並んでいた。
「封鎖線です」
ウォーカーが地図の前に立った。
「入口の外を、二重に囲んでいます。外側の線が封鎖。内側の線に、救護と通信と待機の班。あなたが中に入っている間、外のことは、この線で全部受け持ちます」
彼が手元の端末を操作すると、地図の横に文章が表示された。英語が何行も並び、ところどころに番号が振ってある。
「明日からの運用の文書です。現場の各班へ配る前に、あなたに確認してもらいたい」
通訳の女性が、一項目ずつ日本語にしていった。JOHNは入口の内側の、指定された位置で召喚体を運用する。召喚体の行動は、JOHNの指示による。米軍の人員は、JOHNの召喚体より先に内部へ入らない。外周の封鎖と救護は、米軍が担う――。
陸は途中で、「あの」と声を出した。
「召喚体の行動は俺の指示、っていうところ、もうちょっと細かく書いてもらってもいいですか」
「どこを」
ウォーカーがこちらを見た。陸は少し言葉を探した。
「オンラインの時、危ないと思ったら戻すのは俺が決めていいって言ってもらったじゃないですか。あれはすごいありがたくて。ただ、戻すだけじゃなくて、止めるとか、進めるとかもあるんです。たとえば俺のスケルトンが一体やられても、周りが大丈夫そうなら、別のを出してそのまま進めるかもしれない。逆に、誰もやられてなくても、なんか嫌な感じがしたら全部止めます。前に別のダンジョンで、すごいでかい何かが通った跡だけ見つけて、何も出てこないうちに全員引き返させたことがあって」
あの時も、引き返す理由になったのは岩の削れ方だけだった。
「そういうのって、たぶん外から見てたら、なんで止めたのか分かんないと思うんです。だから、いちいち理由を説明しなくても止められるようにしてほしいです。進めるのも、止めるのも、戻すのも」
通訳の女性が訳し終わるまで、ウォーカーは黙って聞いていた。
「それと、もう一個。俺のスケルトンが戻ってこなかったら、そこには人を入れないでください。取りに行くとか、様子を見に行くとかも。……あいつらがやられたところは、人が行っちゃいけないところなんで」
ウォーカーはすぐには答えなかった。地図の中心の小さな印を、しばらく見ていた。
「一つ目は、入れます」
やがて、彼は言った。
「召喚体を進めるか、止めるか、戻すか。それはあなたが決める。理由の説明は求めない。――二つ目も入れます。召喚体が戻らなかった地点には、人を入れない。私の許可があっても、入れない、と書いておきます」
「え、そこまで」
「そう書いておかないと、いつか私が許可を出す」
ウォーカーの声は平らだった。
「その代わり、こちらからも一つ。外のことは、私が決めます。封鎖線に何かが向かってきた時、救護の班を動かす時。それから、あなたとエリナを外へ出すかどうかも。私が出てくれと言ったら、理由を聞かずに出てきてほしい」
陸は、地図の二重の赤い線を見た。あの線の外で何が起きても、陸には見えない。サモンマップに映るのは、自分と、自分のスケルトンが通った道だけだ。
「分かりました。言われたら、すぐ出ます」
ウォーカーは頷き、後ろに控えていた士官へ短く何か言った。士官が端末を叩くと、地図の横の文章のうち、いくつかの行が書き換わっていった。新しい行が二つ増え、そのうちの一行が太い線で囲まれる。ウォーカーは書き換わった文章を頭から読み直し、最後の欄に、端末のペンで署名した。
「配ってくれ」
士官がもう一度端末を叩いた。地図の脇に細長い一覧が出て、班の名前らしい英語が縦に並ぶ。その横の小さな四角が、上から順番に緑へ変わっていった。一つ、二つ、五つ。十を超えたあたりで、陸は数えるのをやめた。最後の四角が緑になると、一覧の一番下に短い英語が一行だけ出た。
「封鎖線の全班が、今の文書を受け取ったという表示です」
通訳の女性が言った。
「明日から、現場はこれで動きます」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや☆評価、感想で応援していただけると励みになります!




