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第191話 最終点検!

 会議から二日後の朝、陸とエリナは研究室の試験区画へ通された。


 扉を抜けたところで、陸は足を止めた。


 スーツは、いつもの台座の上に立っていた。違うのは、その足元だった。黒く大きなケースが三つ、蓋を開けたまま床に並んでいる。一番大きなケースの中は灰色の緩衝材がくり抜かれていて、その窪みは、どう見ても人の形をしていた。隣のケースには台座と同じ形の空洞が空いている。三つ目の浅いケースは細かく仕切られ、工具と、手のひらほどの端末と、小さな魔石が何列にも並んでいた。


「おはようございます。ちょうど詰めるところでした」


 研究担当者が浅いケースの横から立ち上がった。目の下の隈は、再試験の日よりまだ濃い。


「詰めるって……これ、どっか運ぶんですか?」


「佐藤さんが行くところにですよ」


 陸はスーツとケースを見比べた。窓際では高瀬が、端末を耳に当てて誰かと話している。


「え、じゃあ、持ってっていいんですか!?」


「研究班の点検は、昨日の夜で全部終わりました。あとは高瀬さんの方の手続きが一つだけで、それを今待ってるところです」


 研究担当者は端末の画面をこちらへ向けた。項目がいくつも並び、ほとんどの横に印が付いている。


「大阪で動かした出力までなら、補助も、腕輪に回す分も問題なしです。風と炎も。……で、こっちが、まだ何も分かってないところです」


 印の付いていない欄は三つあった。何時間も動き続けた時。身体強化と一緒に使った時。攻撃をまともに受けた時。


「正直に言うと、向こうへ行くまでには間に合いませんでした。なので、ここに書いてあるのは、大阪で取れた範囲だけです」


「大丈夫です。分かんないとこは、一個ずつ試します。いきなり全部はやらないです」


 全部一緒にやると、何が原因か分からなくなる。初回の試験でスーツが勝手に腕を跳ね上げた時から、この人には何度もそう言われてきた。


「それより魔石です。大阪の時、走り回りながら撃ってたらすぐ空になるって言ってましたよね」


「なので、これです」


 研究担当者は浅いケースの仕切りを指でなぞった。親指ほどの魔石が、隙間なく並んでいる。


「試験で使ってたのと同じ種類を、入るだけ入れました。全部、佐藤さんが持ってきてくれた中からです」


「これ、俺が持ってきたやつなんだ……。足りなかったら、俺の方にもまだあります。こないだ第12階層で、Bのやつも結構取れたんで」


「Bは、まだ一回も差したことがないんです。出方が変わるかもしれないので、それは帰ってきてから試させてください」


「了解です。あ、じゃあ交換のやり方、今のうちに教えてもらえますか。向こうだと、止まってる時に替えるの、俺なんで」


 研究担当者は少しだけ目を丸くして、それから頷いた。


「それ、今日お願いしようと思ってました」


 陸は台座の後ろへ回った。背中の箱の側面に、差し込み口が二つずつ。研究担当者に言われるまま縁の小さな突起を押すと、中の魔石がわずかに浮いて、指でつまめる高さまで出てきた。それを抜き、浅いケースから取った新しい魔石を差し込む。奥まで押し込むと、かちりと小さな音がした。


 反対側も同じように替える。二回目は、説明を聞かなくても手が動いた。


「ほし、ねてる」


 エリナが台座の後ろから窓を覗き込んでいた。電源の入っていないスーツの中で、蒼星鉱だけがいつもの速さで瞬いている。


「それと、これを」


 研究担当者は浅いケースの端末を一つ取り出し、背中の箱の下にある細い口を指した。


「使った後、ここにつないでください。中で何があったか、試験の時みたいな線で残ります。それを送ってもらえれば、こっちで見ます。おかしいところがあったら、すぐ連絡します」


「つないで、送る……分かりました」


 端末を受け取ってから、陸はふと顔を上げた。


「……あれ、一緒に来るんじゃないんですか? 探索についてきて取りたいって、前に」


 研究担当者は、ほんの少し黙った。


「行きたいですよ。すごく」


 それだけ言って、端末の入っていた仕切りへ目を落とした。


「今回は、現地の技術班が保管と立ち会いを担当します」


 いつの間にか、高瀬が電話を終えてこちらへ来ていた。


「研究の方とは、こちらから回線をつなぎます。時差はありますが、記録は届き次第見ていただける体制にしてあります」


 それから高瀬は、手にした端末を一度だけ確かめた。


「佐藤さん。今、正式に下りました」


 陸は端末から顔を上げた。


「国外の任務での使用を認める、という形です。機材はこの研究班の管理物品として、対策庁が運びます。使うかどうか、どこで止めるかは、これまでどおり佐藤さんのご判断で構いません。使った後の記録だけは、研究班へ送ってください」


「……持ってける」


 口に出してから、ようやく実感が追いついてきた。


「持ってけるんですよね!? 向こうで、これ着ていいんですよね!」


「はい」


「よっしゃ……!」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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