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第184話 Bランク軍団!

 システムメニューで第12階層を選ぶと、足元が硬い岩に変わった。


 見上げても天井は暗くて見えない。左右の岩壁はずっと遠く、その間を何本もの岩道が分かれながら奥へ続いている。ところどころに埋まった結晶が青白く光り、エリナはその一つへ鼻先を近づけていた。


 スーツは、まだ研究室の台座の上だ。持ち出しの手続きが終わるまでは、いつもの格好で来るしかない。もっとも、今日は陸が前に出るつもりはなかった。


 この一年、狩りはずっと続けていた。ただ、研究室へ素材を届けたり試作品に付き合ったりしているうちに、第12階層へ来ても、知っている岩道で用を済ませて帰る日がほとんどになっていた。今日は久しぶりに、全員まとめて奥まで行ってみるつもりだった。


 陸はスケルトンストックを開き、まず探索班を呼び出した。ウルフ系とバット系が二体ずつ組になって、陸の周りに並んでいく。一年前は、Bランクがうろつくこの階層へ探索班を遠くまで出すことはできなかった。今は、組の中に一体ずつBが混じっている。


 それから、主力を呼んだ。


 ロイヤルナイト。コボルトベヒーモス。フラッシュファングウルフ。前に倒して仲間にした二体のアビスリザード。見慣れた顔ぶれが岩道に並び、最後に三体が現れた。


 一番最初に目に入ったのは、翼だった。


 頭の上で骨の翼が大きく開き、岩道の幅の半分ほどが影になる。一年前のサイクロンガーゴイルより二回りは大きい。翼骨の一本一本が長く伸び、その継ぎ目を青白い光が細く走っていた。軽く一度羽ばたいただけで、足元の砂がざっと流れていく。


 テンペストガーゴイル。祭壇で、39から40までなかなか上がらなかった個体だ。


 その下に、杖を持ったゴブリンの骨格が立つ。背丈は前とそれほど変わらないが、杖の先の赤い光が、何もしていないのに小さく揺らめいている。ゴブリンブレイズウィザード。


 最後の一体は、ストームボウを肩にかけていた。前より腕の骨が長く、弓を持つ指の先まで細く締まって見える。Bになってからは、ハイハンターの代わりにこいつへ持たせていた。ゴブリンホークアイ。


「やっぱ並ぶといいな……」


 エリナがガーゴイルの足元へ寄っていき、首を真上へ反らした。


「おおきい」


「だろ。ガーゴイル、上から見てきて。アビスリザード見つけたら、その真上で回ってて」


 テンペストガーゴイルが翼を打った。風が岩道を叩き、白い巨体があっという間に暗がりの上へ消えていく。続けて探索班を三方向へ散らし、陸は残りを連れて歩き出した。


 サモンマップを開く。


 ガーゴイルの印は、陸たちのずっと先を、岩道を無視してまっすぐ進んでいた。その後ろに、通った場所の形が次々に描かれていく。地上を歩いていたら、裂け目を回り込んで何十分もかかる距離だ。


 しばらくして、その印が一か所で止まった。


 止まったまま、小さな円を描き始める。


「いた!」


 陸はマーカーを置き、主力を連れて印の方へ向かった。探索班が通ったばかりの岩道を選んで進み、最後は大きな結晶の陰から顔を出す。


 開けた岩場の真ん中で、アビスリザードが一体、身体を伏せていた。黒青色の鱗が結晶の光を鈍く返している。真上の暗がりでは、白い翼がゆっくり旋回していた。


 周りに別の影はない。ガーゴイルが上から見て一体だけなら、そうなのだろう。


 一年前は、ここで退路を確かめ、四体全部を出して、それでやっと一体だった。


 陸は後ろを振り返った。ベヒーモスも、二体のリザードも、フラッシュも、まだ何もしていない。


「今日はこの四体だけでいく。ベヒーモスたちは待機な」


 ロイヤルナイトが前へ出る。ブレイズウィザードとホークアイが、その斜め後ろに並んだ。


「ホークアイ、肩。フォーカスショット!」


 ホークアイが弦を引いた。


 矢じりに光が集まる。一年前のシャープシューターは、そこから弓、腕の骨へと、時間をかけて光を広げていった。今は違った。弦を引き切った時には、もう弓全体が白く光っている。


「はやっ――」


 言い終わる前に、弦が鳴った。


 光をまとった矢が岩場を一直線に横切り、伏せていたアビスリザードの肩へ飛び込む。バキッ、と乾いた音がして、黒青色の鱗が割れた。矢は割れ目からそのまま深く潜り込み、羽根の根元まで埋まって止まる。


「割った!? 部品なしで割ったぞ今!」


 研究室のモニターで見た二射目と、同じ割れ方だった。あの時は蒼星鉱の部品を差して、それで一発だったのに。


 アビスリザードが跳ね起きた。低い唸りを上げてこちらを向き、岩床を蹴る。


「ウィザード、横!」


 ブレイズウィザードが杖を振った。


 アビスリザードの左右の岩床に、赤い点がいくつも灯る。次の瞬間、それが一斉に立ち上がった。炎の壁だった。アビスリザードの身体より長い壁が二枚、向かい合わせに岩場を走っていく。


 突っ込んできたアビスリザードの進む先が、炎の間の一本だけになった。


 横へ逃げようとして、鱗の端が炎に触れる。アビスリザードは嫌がるように首を振り、まっすぐ前へ出るしかなくなった。その先で、ロイヤルナイトが長剣を下げて待っている。


 上から風が落ちてきた。


 テンペストガーゴイルが、旋回をやめて真上から翼を打ちつけていた。叩きつけるような風が、アビスリザードの頭と首を上から押さえ込む。黒青色の巨体ががくりと沈み、前脚が岩床で滑った。


 そこへ、ロイヤルナイトが踏み込んだ。


 グランドアクセルで弾けるように距離を詰め、アークソードを、矢の刺さった肩へ振り下ろす。割れていた鱗がまとめて砕け、刃が深く沈んだ。アビスリザードが首を持ち上げかけたところへ、二撃目が首元へ走る。


 巨体が横倒しに崩れ、炎の壁がすっと引いていった。


 陸は、岩場の真ん中を見たまま動けなかった。


 ベヒーモスは一歩も前へ出ていない。フラッシュも走っていない。陸自身も、腕輪を一度も使っていない。


「……終わった? え、もう?」


「おわった!」


 エリナが結晶の陰から飛び出し、倒れたアビスリザードの周りをぐるっと回ってきた。


「すごい! ほねたち、すごい!」


「ナイト、二回しか振ってないぞ!? 二回!」


 陸はロイヤルナイトの横まで駆け寄り、それから上を見上げた。テンペストガーゴイルはもう旋回へ戻っている。ホークアイは次の矢をつがえ、ブレイズウィザードの杖の先では、また小さな赤い光が揺れていた。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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