第172話 次に育てるもの!
研究室のモニターに、昨日の岩場が二つ並んでいた。
左は何も付けずに撃った一射目。矢は黒青色の肩へ当たり、鱗へ亀裂を走らせたところで止まっている。右は本番用の部品を差した二射目だ。同じように肩へ飛び込んだ矢が、今度は鱗そのものを割って深く沈んでいく。
研究担当者は同じ場面を何度か巻き戻し、それから作業台へ目を移した。
トレーの上には、矢が刺さった周りから切り取ったアビスリザードの鱗が二枚。片方は表面に浅い傷が残っているだけで、もう片方は中央から大きく割れ、矢じりが通った穴がはっきり開いていた。その横に、焼けて少し歪んだ黒い部品が置かれている。
「効いてますね。これはちゃんと差が出てます」
「ですよね! 入った瞬間、思わず声出ましたもん」
「すごかった!」
エリナも陸の横からモニターを覗き込んだ。画面の中では、ちょうど矢が鱗を割ったところで映像が止まっている。
「研究室で測った数字だけだと、実際の鱗にどこまで通るかは分からなかったので。これが見られたのは大きいです」
研究担当者は嬉しそうに言ってから、焼けた部品を指先でつまみ上げた。中央は黒く焦げ、継ぎ目も開いている。窓の奥にあったはずの青白い光は、もうどこにも見えなかった。
「ただ、これなんですよね」
「一発で壊れるって話でしたもんね」
「壊れるのは想定どおりなんです。問題はこっちで」
研究担当者が作業台の奥を示した。
蒼星鉱は、ほとんど預けた時のままの形で置かれている。端の一角だけが平らに削られ、銀灰色の新しい面が出ていた。
「一個作るだけなら、使ったのは本当に少しです。でも、これは撃つたびに交換する部品なので。強い一発のたびにAランク素材を入れていくやり方は、ちょっと違うかなと」
「あー……それ続けたら、蒼星鉱なくなりますよね」
「なくなりますね。しかも次がいつ手に入るか分からない」
陸は蒼星鉱を見た。今のところ、第12階層で見つけたのはこの一個だけだ。
「なので、研究は分けようと思ってます。蒼星鉱入りの方は、壊れ方を見て、同じ量でもっと出せるか、一回でも長く持たせられるかを見る方。もう一つは、蒼星鉱を使わない方です」
「使わないで、さっきのいけるんですか?」
「あそこまでは無理です。でも普通の材料だけでも、弱い出力なら前に動いてましたよね。あれを、実戦でちゃんと意味がある強さまで上げられないか。あと材料側も、すぐ焼けないように作り方を見直してみます」
強い一発を少しだけ作るか、弱めの物を何回も使うか。どちらも、今すぐ出来上がるわけではないらしい。
「祭壇の方も、正直まだです」
研究担当者は、棚に並んだ容器へ目をやった。第11階層から持ち帰った石と土だ。
「現地のデータと比べながら色々やってるんですけど、持って帰ったものからは何も出てこなくて。少なくとも今あるサンプルだけでは、あの加護は再現できてないです」
「祭壇持ち出せたら最強なのになあ。どこでも経験値増えるじゃないですか」
「それができたら一番なんですけどね」
研究担当者が苦笑する。
陸はもう一度モニターを見た。
鱗を割って刺さった矢。昨日見た時は、それだけで十分すごいと思った。実際、Bランクの鱗にあれだけ入るなら、アビスリザード相手の戦い方はかなり変わる。
ただ、頭に浮かんだのはアビスリザードではなかった。
灰黒色の巨体。ロイヤルナイトのアークソードでも浅い傷しか付かず、ベヒーモスでも正面から押し負けた。水で滑らせても、岩を落としても止まらなかった。最後は通常のスケルトンを四十体出して、ようやく逃げ切れた相手だ。
「……これ、タイラントドレイクに一発深く入ったとしても、そこで止まってくれる感じしないんですよね」
「そこはまだ、こちらも何とも言えないです」
「ですよね」
装備が強くなるのは待つしかない。祭壇も持ち出せない。
陸は作業台から少し離れ、スケルトンストックを開いた。
ロイヤルナイト。コボルトベヒーモス。フラッシュファングウルフ。
Bランクの三体を順番に見ていく。どれも強い。第12階層を進めているのも、アビスリザードと正面からやり合えるのも、この三体がいるからだ。
その名前を並べて見ているうちに、陸の指が止まった。
「……前で斬るやつと、前で殴るやつと、走るやつなんだよな」
「リク?」
「いや、Bって全部それなんだなって」
タイラントドレイクから逃げた時も、ロイヤルナイトとベヒーモスは正面から止めに行き、フラッシュは先を走って道を探していた。離れたところから何かできるBは一体もいない。
陸はストックの中から三体を選び、並べて表示した。
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サイクロンガーゴイル C Lv.39
ゴブリンハイウィザード C Lv.38
ゴブリンシャープシューター C Lv.37
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「ガーゴイル、あと1じゃん!」
思わず声が大きくなった。
研究担当者がモニターから顔を上げる。陸はそのまま表示を見ながら続けた。
「飛べるやつがBになったら、上から全然違うことできるし。ハイウィザードの炎もBになったらどうなるか見たいし……シャープシューターは、昨日撃ってたやつです」
「あの矢の?」
「はい。あれ、撃ってたのCなんですよ。Bになったら、部品なしでもどこまで入るか気になるじゃないですか」
研究担当者がもう一度モニターの二射目へ目を向けた。
「それは……こちらも見たいですね」
エリナが陸の腕の横から表示を覗き込み、一番上の名前を指した。
「ガーゴイル、いわ、ゆらしてた」
「そう。あいつ」
逃げる途中、張り出した岩を揺らしたのはサイクロンガーゴイルの風だった。あの時はベヒーモスの拳でようやく落とせたが、Bになったら風だけで崩せるかもしれない。
「決めた。この三体、Bまで上げる」
口に出してから、陸はどこで上げるかを考えた。
一番早そうなのは、第12階層の横穴だ。入口が一本しかなくて、香炉を使えばCランクが次々来る。ソニックファングウルフを40まで上げたのもあそこだった。
ただ、その途中でアビスリザードが入口まで突っ込んできた。あの時はベヒーモスとロイヤルナイトが入口で止めてくれたが、育成組は奥へ下げるしかなかった。同じ階層のもっと奥には、タイラントドレイクもいる。
今回はこの三体を一体も落とさず、ちゃんと40まで持っていきたい。
「……今回は祭壇だな。あっちなら何回もやってるし、守り方も分かってるし」
「祭壇、また使うんですね」
「はい。装備はそっちで作ってもらって、俺はこっちを育てます」
研究担当者は頷き、端末へ何か書き込んだ。
「それなら、お願いしてもいいですか。Bになった後の戦闘も、今回みたいに映像を残してもらえると助かります。Bランクの素材も、手に入ったら少しずつ回してもらえると」
「いいですよ。ドローン、また借りていきます」
「どうぞ。今回のデータもすごく使えたので」
陸は開いたままの表示へ目を戻し、一番上の名前を指で軽く叩いた。
「まずはガーゴイルからだな」
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