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第166話 研究の現場!

「実際に見た方が早いかもしれませんね」


 高瀬がそう言って席を立った。


 陸とエリナも続き、白衣の職員と一緒に応接室を出る。案内されたのは同じ建物の別の階にある部屋だった。


 中へ入った陸は、思わず足を止めた。


「おお……」


 広い作業台の上に、剣や金属片、砕かれた結晶のようなものがいくつも並んでいる。棚には半分に切られた武器や、内部が見えるように分解された道具まで置かれていた。


「これ、ショップのですか?」


「一部はそうです」


 白衣の職員が、作業台の端に置かれた二本の刃物を示す。


「こちらは通常の製品。こちらはショップで購入したものです。同じ用途の物を並べて、材質や構造、魔力への反応などを比較しています」


「もうこんなにやってるんですね」


 さっき応接室で聞いた時は、研究が始まっているらしい、くらいにしか思っていなかった。


 目の前には、切断された刀身や削られた素材が実際に並んでいる。陸がダンジョンへ潜っている間にも、外では外で調べられるものを調べ続けていたらしい。


「購入しやすい物なら、同じ商品を複数用意して壊すこともできますから」


 職員は棚の奥へ目を向けた。


「ただ、高額になるほどそうはいきません。表示されている性能や説明は確認できても、実物を切断して内部まで調べるには現物が必要です」


「あー……そりゃそうか」


 見るだけならショップを開けばいい。


 だが、壊して中を見るなら買わなければ始まらない。現金をそのままポイントに替えられない以上、高額商品を何個も研究用に潰すのは簡単ではない。


 陸は作業台へ近づいた。


「じゃあ、これって結構でかいです?」


 所持アイテムから蒼星鉱を取り出す。


 銀灰色の塊が作業台へ現れ、内部の青白い光が小さく瞬いた。周囲に並んでいた金属片や結晶とは、見た目からしてかなり違う。


「……そうですね」


 職員は蒼星鉱をしばらく見てから答えた。


「Aランク相当の素材を、こうして実物で詳しく調べられる機会はほとんどありません。研究用のサンプルとしては、かなり貴重です」


「でも、一個しかないんですよね。できれば後で武器とかにも使いたいんで、全部削ったりはちょっと……」


 職員が少し笑った。


「そうですね。一個しかないなら、まずは壊さずにできるところからにしましょう」


「よかった」


 陸は素直に安心した。


「重量を測ったり、表面を見たり……その結果を見て、必要ならまた相談させてください」


「それならお願いします」


 蒼星鉱をそのまま預けることにして、陸は作業台の横へ回った。


 職員は端末へいくつか記録してから、今度は陸へ向き直る。


「もう一つ聞いてもいいですか。昨日のタイラントドレイクに、傷をつけられた攻撃はありましたか?」


「傷なら……アークソードですね。ロイヤルナイトっていうBランクのスケルトンがいるんですけど、そいつに持たせてる剣です」


「なるほど。アークソードもBランクですか?」


「はい。でも、斬れても傷はめちゃくちゃ浅かったです」


 職員は少し考えてから、続けて聞いた。


「他に、動きを止めたり、効いているように見えた攻撃は?」


「雷は当てました。一瞬止まったくらいですけど」


「速さへの反応はどうでした?」


「俺のスケルトンに、フラッシュファングウルフっていうBランクの速いやつがいるんですけど、それにも普通に反応されました」


 職員はすぐに端末へ入力していく。


 黒い球体を持ってきた時とは、話している内容が少し違う。あの時は、何があったのかをそのまま伝えればよかった。


 今回は、何が効かなかったのかまで研究材料になるらしい。


「そのアークソードも確認できますか?」


「できますけど、今使ってるやつなんで壊さないでくださいよ」


「もちろんです。非破壊で比較します」


「ストームボウもBですけど、そっちもいります?」


「可能なら、ぜひ」


「じゃあ持ってきます」


 陸はすぐに答えた。


 アークソードはロイヤルナイト、ストームボウはゴブリンハイハンターが使っている。どちらもまだ普通に戦力だ。壊されるのは困るが、測るだけなら問題ない。


 職員は作業台に並ぶ既存サンプルと蒼星鉱を見比べた。


「そうですね……今までの一般的なショップ品だけだと、Aランク相手に何が足りないのかを見るには材料が足りません。Bランクの実戦装備と、この鉱石、それから実際の戦闘結果があれば……まず差を追えると思います」


「それで強いの作れそうです?」


「そこは、まだ調べてみないと分かりません」


「ですよね」


 すぐ完成とはいかないらしい。


 それでも、さっきまで棚に並んでいた研究品の中へ、自分が第12階層から持ち帰った物が加わった。


 高瀬は職員と短く確認を交わしたあと、陸へ向き直る。


「蒼星鉱はこちらで確認を進めます。Bランク装備についても、準備ができたら比較させてください」


「はい。Aランクに効く方向でお願いします」


「目的は共有しておきます」


 陸は作業台の上で光る蒼星鉱を見た。


 自分が知らないところで進んでいた研究に、第12階層で拾ってきた物が初めて並んでいた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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