第165話 研究してもらおう!
翌日、陸とエリナは再び特異事象対策庁を訪れていた。
前に黒い球体を持ち込んだ時と同じ建物だ。今回は事前に高瀬へ連絡していたため、受付を済ませるとそれほど待たずに上の応接室へ通された。
「お待たせしました」
入ってきた高瀬は、陸たちの向かいへ座る。
「ご相談があると伺いましたが、何かありましたか?」
「あー……昨日、Aランクのモンスターと戦ったんですけど」
高瀬の表情が止まった。
「Aランク、ですか?」
「はい。タイラントドレイクっていうやつで。全然勝てなくて、逃げてきました」
「もうAランクと直接交戦したんですか……」
以前、Bランクのコボルトベヒーモスを倒したと話した時にもかなり驚かれた。それよりさらに上だ。高瀬が一度確認するように聞き返したのも無理はない。
「それで、今のままじゃ厳しいんで、何か強くなる方法ないかなと思って」
「なるほど」
「これも見てもらいたくて」
陸は所持アイテムを開き、蒼星鉱を取り出した。
銀灰色の塊がテーブルの上へ現れる。内部では青白い光が小さな星のように瞬いていた。
「昨日、第12階層で見つけました。Aランクの素材です」
「Aランクの……」
高瀬はすぐには触れず、少し身を乗り出して鉱石を見る。
「確認しても?」
「はい」
高瀬が端末で何か連絡すると、しばらくして白衣姿の職員が一人入ってきた。蒼星鉱の説明を聞くと、手袋をつけて表面を確認し、何枚か写真を撮る。
「高い強度と魔力伝導性があるって鑑定には出ました」
「その情報も非常に重要です」
高瀬が答える。
「Aランク相当の素材は、こちらでも十分な実物データを持っていません。少なくとも、こうしてまとまった状態で確認できるものは非常に貴重です」
「やっぱ珍しいんですね」
「珍しい、という言葉では足りないかもしれません」
陸はテーブルの上の蒼星鉱を改めて見る。
第12階層では、見つけた時に「何か作れそう」としか考えていなかった。それがここでは、職員が写真を撮り、高瀬まで真剣に見ている。
「これで強い武器とか作れたりしません?」
「可能性はあります。ただ、今の時点では何とも言えません。加工できるかどうかも含めて、まず調べる必要があります」
「まあ、そうですよね」
すぐにAランク用の武器が完成するわけではないらしい。
それでも、自分だけで鍛冶へ突っ込むよりはずっと良さそうだった。
「あと、ショップの物とかも調べられます?」
「ショップですか?」
「強い装備とか、めちゃくちゃ高いけど完成品はあるんですよ。ああいうの見たら、作り方のヒントにならないかなって」
「ああ。その研究自体は、すでに始まっています」
「え、もうやってるんですか?」
今度は陸が聞き返した。
「世界更新後、購入しやすい装備や素材を中心に、複数の機関で分析が進められています。ただ、現金をポイントへ替えることはできません。高ランクの素材や高額な商品になるほど、研究用に用意するのが難しくなるんです」
「なるほど……」
考えてみれば、ショップを使えるのは陸だけではない。
陸がダンジョンへ潜っている間にも、他の人間は他の人間でシステムを調べていたらしい。
「じゃあ、もっと変なのもあるんですけど」
「変なもの?」
「第11階層に祭壇があるんですよ」
高瀬が首を傾げる。
「祭壇?」
「ポイントを入れると、その周りで経験値が増えるんです。あと、アイテムのドロップ率と、レアアイテムのドロップ率も上がります」
一瞬、高瀬から返事がなかった。
「……経験値が、増える?」
「はい。俺、そこで結構レベル上げしました」
隣にいたエリナも祭壇を思い出したらしく、小さく高瀬を見る。
「ひかってたよ」
「実際に何度も使用しているんですね」
「100万P入れて使ったことあります。ポイント多いほど効果も強くなるみたいです」
高瀬の表情が、蒼星鉱を見た時よりさらに真剣になる。
「佐藤さん。その祭壇について、分かっていることを後で詳しく教えてください」
「いいですよ」
「可能なら、実際に祭壇を見ながら調べたいところですが……研究担当者を同行させてもらえますか?」
「大丈夫ですよ。個人ダンジョンは、持ち主が一緒なら他の人も入れるんで。エリナもいつも一緒に入ってますし」
高瀬は頷いた。
「では、現地で確認できるように準備します」
「お願いします」
蒼星鉱。ショップに並ぶ完成品。そして、第11階層の祭壇。
昨日までは自分が使う物としてしか見ていなかったものが、ここへ持ってきただけで別の研究材料になり始めている。
「もし何か作れたら、俺にも使わせてください。Aランクに効くやつ」
「もちろんです。そのためにも、佐藤さんには実際に試していただく必要が出てくるでしょう」
「おお、それならやります」
高瀬が少し笑う。
「では、まず調べられるものから整理しましょう。ショップ品についても、次に比較できそうなものを確認してみます」
「お願いします」
テーブルの上では、蒼星鉱の青白い光が小さく瞬いていた。
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