第164話 Aランク対策!
麻布台のリビングへ戻ってからも、陸はしばらくその場から動かなかった。
さっきまで耳のすぐ近くで響いていた重い足音も、骨が砕ける音も、もう聞こえない。目の前にあるのはいつもの広いリビングだけだった。
「……はあ」
陸はソファへ身体を落とした。
隣ではエリナも大きく息を吐いている。
「こわかった……」
「な。マジで危なかった」
陸は天井を見たまま答えた。
アビスリザードなら、もう一体ずつなら倒せる。フラッシュファングウルフもBランクまで進化した。Bランクの武器も手に入ったし、今日はAランクの素材まで見つけた。
かなり順調だった。
「なんだかんだ、もう結構いけると思ってたんだけどな……」
タイラントドレイクには全然通じなかった。
ロイヤルナイトのアークソードでも傷は浅い。雷もほんの一瞬止まるだけ。四体で足止めして、岩まで落として、それでも追ってきた。
最後は通常のスケルトンを何十体も出さなければ、逃げることすらできなかった。
陸は一度目を閉じた。岩道の後ろで、白い骨が次々と砕けていく光景が浮かぶ。
「……あれ、今のままもう一回やったら普通に死ぬな」
「また、あれに会うの……?」
「しばらくは奥まで行かない」
エリナが小さく頷く。第12階層そのものを諦めるつもりはない。雷晶石もあるし、まだ見ていない場所もいくらでもある。ただ、タイラントドレイクがいる奥へ、今の戦力のままもう一度入る気にはならなかった。
「でも、あれ倒せるくらいにはなりたいんだよな」
「あれ、すごくつよかったよ」
「いつかは」
陸は身体を起こした。Bランクのスケルトンをもっと増やす。レベルも上げる。第11階層の祭壇と誘魔の香炉を使えば、今より育成は進められるはずだ。
それはやる。前にアイアンゴーレムへ勝てなかった時も、祭壇で軍団を育てたことで突破できた。今回もBランクを増やせば、今よりは確実に強くなる。
ただ、それだけで足りるのか。
タイラントドレイクの巨体が頭に浮かぶ。ロイヤルナイトの剣は浅くしか入らず、ベヒーモスでも正面から押し負けた。フラッシュの速さにも普通についてきた。
「Bランク何体か増やしたくらいで、あれ楽になる感じしないんだよな……」
陸は少し考え、ポイントショップを開いた。
「だったら、もっと強い装備とか……」
武器のカテゴリーを開き、条件を絞っていく。
一覧には、見たことのない剣、槍、弓、杖がいくつも並んだ。今持っているアークソードやストームボウより明らかに上位らしい説明が付いた物もある。
「あるじゃん!」
陸は一つを開き、すぐ価格を見る。
「……高っ!」
桁を数えて、画面から少し顔を離した。
「いや、無理だろこれ」
別の商品を開く。そっちも高い。防具。補助アイテム。強化系。
条件を変えて検索するたび、今まで見たことのない商品がいくらでも出てくる。タイラントドレイク相手でも使えそうな説明が付いた物もあった。
探せば欲しいもの自体は出てくるが、どれも気軽に買える値段ではなかった。
「何でもあるのに、ポイント足りないの昔から変わんないな……」
第1階層にいた頃、Fランクのスキル一つが一千万ポイントで驚いたことを思い出す。あの頃より稼げるポイントは増えた。それでも、上を見れば必要な額も桁ごと増えていく。
全部をポイントで買って揃えるのは現実的じゃない。
陸は商品一覧を眺めたまま、指を止めた。
買えない。
でも、ある。
武器も、防具も、今の自分では作れそうにない物まで、最初から完成した形でショップに並んでいる。
「……ん?」
陸はもう一度、一つの商品説明を開いた。
「これ、作れる物があるってことだよな」
当然、ショップがどうやって作っているのかは分からない。それでも、完成した物そのものは存在する。形も、使い方も、完成した時にどこまでできるのかも見られる。
昔なら、買えない商品はそこで終わりだった。
今は違う。
陸は画面を閉じず、そのまま所持アイテムを開いた。
「そういえば……」
手を伸ばすと、銀灰色の塊が現れる。
蒼星鉱。
表面の奥で、青白い光が星みたいに細かく瞬いていた。
「これもAランクなんだよな」
高い強度と魔力伝導性を持つ希少鉱石。第12階層で見つけた時は、鍛冶で何が作れるか試してみたいと思っていた。
でも、自分だけでやる必要はない。
「俺より詳しい人に見せた方がよくないか、これ」
エリナが蒼星鉱を覗き込んでから、陸を見る。
「このまえのところ?」
「ああ。対策庁」
そこで陸は、黒い球体を持っていった時のことを思い出した。
あそこなら、ダンジョンや未知の物を調べる人間がいる。
ショップに並んでいる完成品も、蒼星鉱も、自分が見つけた物も。全部そのまま使えなくても、何か分かるかもしれない。
「……一回、高瀬さんに聞いてみるか」
陸は蒼星鉱を所持アイテムへ戻し、スマホを手に取った。
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