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第163話 アビスリザード!

 陸は振り返らず、岩道を走った。背後から響く足音がすぐに近づいてくる。タイラントドレイクが岩床を踏むたび、低い衝撃が足裏まで伝わった。


「フラッシュ、先!」


 白い骨狼が陸たちの横を抜ける。少し先で岩道が左右に分かれていたが、フラッシュファングウルフは迷わず右へ入り、その奥の曲がり角で一度だけ姿を見せた。陸たちが分岐へ着く前には、もうさらに先へ走っている。


「右だ!」


 陸たちはそのまま後を追った。


 少し下りになった岩道へ入ったところで、後ろの足音がさらに大きくなる。陸は左手を斜面へ向け、水を一気に岩床へ流した。その上から土属性で表面を崩すと、細かな石と砂が水に混じり、黒い斜面へ薄く広がっていく。


 直後、タイラントドレイクが曲がり角から飛び出してきた。灰黒色の前脚が濡れた斜面を踏み、高速のまま曲がろうとした巨体がわずかに横へ流れる。肩が岩壁へぶつかったが、それでも止まらない。


「ロイヤルナイト! ベヒーモス!」


 二体が引き返す。ロイヤルナイトのアークソードが前脚の横へ入り、タイラントドレイクの向きをわずかにずらす。その反対側からコボルトベヒーモスが肩をぶつけ、巨体を岩壁側へ押した。


 だが、止められたのはほんの一瞬だった。


「戻れ!」


 二体がすぐ陸たちの後ろへつく。サイクロンガーゴイルも風で砂と小石を巻き上げたが、タイラントドレイクはそのまま踏み抜いてくる。


 岩道が右へ大きく曲がった。


 先を走っていたエリナが、曲がり角の上を見上げる。


「リク、あそこ!」


 岩壁から大きく張り出した岩。その根元を、斜めに太い亀裂が走っていた。


 陸はすぐ左手を向け、土属性で亀裂の周囲を崩す。細かな石がばらばらと落ちたが、大きな岩はまだ動かない。


「ガーゴイル!」


 サイクロンガーゴイルが横から強い風を叩きつける。張り出した岩がわずかに揺れた。


 陸たちはその下を走り抜ける。


「ベヒーモス、最後!」


 コボルトベヒーモスが通過する直前、根元へ太い拳を叩き込んだ。亀裂が一気に広がり、大きな岩塊が後方の岩道へ崩れ落ちる。続けて周囲の岩まで巻き込み、轟音が狭い道へ響いた。


「行くぞ!」


 誰も止まらない。陸たちは次の曲がり角へ飛び込み、そのまま先へ走る。


 陸は走りながらシステムメニューを開き、退出を選んだ。


━━━━━━━━━━━━━━

戦闘中のため、

個人ダンジョンから退出できません。

━━━━━━━━━━━━━━


「まだダメか!」


 表示を閉じた直後、後方から大きな衝撃音が響いた。


 岩が砕ける。


「もう抜けた!」


 フラッシュファングウルフが先へ出る。陸たちが次の分岐へ着く頃には、白い骨狼は右側の岩棚の上に立ち、さらに奥へ続く道を向いていた。陸がそちらへ入ると、フラッシュもすぐ前へ降りて走り出す。


 後ろの足音がまた近づいてきた。


 水で滑らせても、四体で止めても、岩を崩しても足りない。


 陸は一度だけ後ろを見た。曲がり角の向こうから、灰黒色の巨体がもう姿を見せている。


「……ごめん」


 陸はフラッシュファングウルフを含め、出していたスケルトンをまとめてストックへ戻した。周囲から骨の姿が消れ、召喚枠が一気に空く。


「リク?」


 陸はスケルトンストックを開き、精鋭化していない通常のスケルトンを次々と呼び出した。


 十体。二十体。三十体。


 四十体。


 青白い光が岩道いっぱいに広がり、ウルフ系やゴブリン系を中心とした白骨が陸たちの周囲を埋める。


「前のやつは止めて! 残りは散って!」


 四十体が一斉に動いた。


 半数近くがタイラントドレイクへ向きを変える。残りは左右の岩道や岩の隙間へ散り、何体かは陸とエリナの進む方向へ走った。


 陸はエリナと一緒に、その群れへ紛れるように先へ駆けた。


 後方で骨が砕ける音が響く。


 最初に飛び込んだゴブリンスケルトン数体が、前脚の一振りでまとめて弾き飛ばされた。別のウルフスケルトンたちが足元へ食らいつく。タイラントドレイクが踏み込み、そのうち一体の骨格が岩床へ砕け散った。


 それでも次が行く。


 横から、正面から、次々と白骨が巨体へ飛びついていく。尾が薙ぎ払われ、何体もの骨が岩壁へ叩きつけられた。


 倒れた個体は起き上がらない。


 その間にも、別方向へ走ったスケルトンたちは岩道の奥へ散っていく。


「走るよ、リク!」


「うん!」


 陸はもう振り返らなかった。


 システムメニューだけを開いたまま、エリナと一緒に走り続ける。


 退出。


━━━━━━━━━━━━━━

戦闘中のため、

個人ダンジョンから退出できません。

━━━━━━━━━━━━━━


「まだ……!」


 表示を閉じ、さらに走る。後ろではまだ遠くに骨の砕ける音が続いていたが、タイラントドレイクの重い足音は陸たちの方へ近づいてこない。


 陸はもう一度退出を選んだ。


━━━━━━━━━━━━━━

個人ダンジョンから

退出します。

━━━━━━━━━━━━━━


 視界が切り替わり、黒い岩壁も遠くの音も消えた。次に見えたのは、麻布台のリビングだった。


「かえれた!」


 エリナの声がすぐ横で響く。陸はその場で大きく息を吐いた。


「……帰れたな」

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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