第160話 二体のBランク!
青白い結晶が続く岩道を進んでいると、先へ出していたフラッシュファングウルフが戻ってきた。
「ん?」
陸が足を止めた直後、前方から重い足音が響く。曲がった岩壁の向こうから、黒青色の巨体が姿を現した。
「またアビスリザードか……」
一体だけなら倒せる。だが、さっきAランクの素材まで手に入れたばかりだ。わざわざここで消耗する理由はない。
「戻ろう」
陸が向きを変えた、その時だった。
「リク、うしろ!」
エリナの声と同時に、来た道の奥から別の足音が近づいてくる。岩陰から現れたのは、同じ黒青色の巨体だった。
「二体!?」
前と後ろから、二体のアビスリザードが陸たちを挟むように近づいてくる。
陸は一瞬だけ両方を見て、すぐに決めた。
「後ろのやつ、全員で倒して! 前は俺とフラッシュでやる!」
ロイヤルナイトたちが一斉に向きを変える。
「エリナはそっち!」
エリナは返事を待たず、ロイヤルナイトたちの後ろへ走った。陸もすぐ身体強化を使い、前方へ向き直る。
アビスリザードはもう近い。
黒青色の巨体が岩床を蹴り、一気に距離を詰めてきた。
「速っ……!」
振り下ろされた爪を横へ跳んでかわす。風圧が身体のすぐ横を抜け、そのまま爪が岩床へ叩きつけられ、石片が跳ねた。
陸は着地と同時に薄い金属板を斜めに出す。続けて振られた爪がぶつかり、板が大きくへこんだ。完全には止まらない。それでも軌道が少しだけ外れ、その間に陸は後ろへ下がった。
「フラッシュ!」
白い影がアビスリザードの目の前を横切る。黒青色の頭がそちらへ向いた隙に、陸は左手を上げた。
風を広げず、細く絞る。
鋭い風が一直線に飛び、アビスリザードの顔をかすめた。硬い鱗には浅い跡しか残らないが、目の近くを通った風に巨体が頭を振る。
「これなら……!」
もう一度狙おうとした瞬間、アビスリザードが強引に踏み込んできた。
速い。
攻撃を重ねて削るより先に、こっちが捕まる。
陸はすぐ考えを変えた。
「倒す必要ないか。向こうが終わるまで止めればいい」
前方には、岩壁が内側へ張り出した狭い場所が見えている。
「フラッシュ、奥!」
フラッシュファングウルフが陸の横を抜け、一気に狭い岩道へ走った。アビスリザードが白い影を追って向きを変える。
陸もその後ろへ走りながら、岩壁を見た。
上の方に大きな亀裂がある。
土属性を使うと、亀裂の周囲から石が崩れ始めた。さらに壁際の岩を緩めると、人の頭ほどの石から大きな岩塊までが道へ落ちる。
「もうちょい!」
陸は金属を細い杭の形に変え、崩れかけた岩と岩壁の隙間へ何本も差し込んだ。土属性で緩んだ岩が杭に引っかかり、狭い道を塞ぐように積み重なる。
その直後、アビスリザードが突っ込んだ。
轟音とともに一番手前の岩が砕ける。それでも金属杭に噛んだ奥の岩までは一度に動かず、巨体の前進が止まった。
「おお、止まった!」
だが、長くは続かない。
アビスリザードが肩からぶつかるたび、岩が軋み、金属杭が曲がっていく。
後ろではロイヤルナイトたちの戦闘音が続いていた。青白い斬撃が岩壁を照らし、少し遅れて重い衝撃が響く。
「まだか……!」
目の前で岩塊が弾けた。
アビスリザードが障害物を押し崩し、こちらへ頭を突き出す。
陸は再び風を細く絞った。
今度は鼻先から目元を横切るように飛ばす。巨体が反射的に顔を背け、その一瞬にフラッシュが横から駆け抜けた。
アビスリザードの身体がそちらへ向く。
「よし、そのまま!」
陸はさらに奥へ下がる。
だが、そこでアビスリザードが足を止めた。後ろから響く激しい戦闘音へ、黒青色の頭が向く。
「まずい!」
二体が合流したら、ここまで分けた意味がない。
陸は近くの岩壁へ土属性を使った。張り出していた岩の根元が崩れ、大きな岩塊が通路へ落ちる。
アビスリザードが足を止めたのは一瞬だけだった。
太い前脚が岩を押し退ける。
「これも駄目か!」
それでも一瞬でいい。
陸は岩を越えようとしたアビスリザードの顔へ、もう一度細い風を飛ばした。今度は口元をかすめ、巨体が低く唸ってこちらを向く。
「そう、こっち!」
次の瞬間、太い尾が横から迫った。
「うわっ!」
身体強化だけでは間に合わない。
陸は反射的にブリンクを使った。一瞬だけ視界が揺れ、次に足が着いた時には数歩離れた場所へ移っている。尾がさっきまでいた場所を薙ぎ払い、岩壁へ叩きつけられた。
「今のは無理だろ……!」
息を整える暇もなく、アビスリザードがこちらへ向かってくる。
フラッシュがその正面を横切り、陸も岩壁沿いに走った。狭い場所へ誘い、崩し、止める。壊されたらまた次へ下がる。
完全には止められない。
それでも数秒ずつなら奪える。
後方から、ひときわ大きな衝撃音が響いた。
ちらりと見れば、ロイヤルナイトのアークソードが退路側のアビスリザードへ深く入っている。コボルトベヒーモスも正面から押し込み、その横から矢が飛んでいた。
「もうちょい……!」
目の前のアビスリザードも戦闘音へ反応し、また身体を主力側へ向ける。
「行かせるか!」
陸は万象の腕輪を雷属性へ切り替えた。青白い電撃がアビスリザードの身体を走り、巨体がびくりと固まる。
踏み出しかけていた脚が一瞬止まった。
「フラッシュ!」
白い影が真正面を横切る。硬直が解けたアビスリザードがそちらへ頭を向け、そのまま追い始めた。
陸も横へ走る。身体強化を使ったまま動き続け、岩を崩し、金属を作り、風と雷まで使ったせいで呼吸はかなり荒くなっていた。
それでも、まだ持つ。
次の爪をかわして岩陰へ回った、その時。
後ろで、さらに大きな音が響いた。
陸が一瞬だけ振り返る。
退路側のアビスリザードが岩床へ横倒しになっていた。ロイヤルナイトたちがその前に立っている。
「倒した!」
これで一体。
陸はすぐ目の前へ視線を戻した。
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