第158話 戦わず突破!
陸は岩陰から、もう一度アビスリザードの位置を確かめた。
黒青色の巨体は、大きな岩のそばから動いていない。そのすぐ向こうには、二つの岩壁に挟まれた細い道が続いている。
「……あそこ、通りたいな」
別の道を探せばいい。だが、さっきからアビスリザードを避けてばかりで、また戻るのももったいなかった。
陸は隣で待っているフラッシュファングウルフへ顔を向ける。
「こいつ、どかせるか」
「どかす?」
「うん。倒さなくても、向こうに行ってくれたらいい」
エリナはアビスリザードの方を見てから、すぐに陸のそばへ戻った。
陸はフラッシュファングウルフへ手を伸ばし、アビスリザードとは反対側の開けた岩場を指す。
「まず前に出て、あいつに気づかせて。追ってきたら、こっちと反対に走れ。攻撃はしなくていい」
青白く光る眼窩が陸を向いた。
「よし。行け」
フラッシュファングウルフが岩陰を飛び出した。
すぐに全力で走り去るのではなく、アビスリザードから見える位置まで進み、岩場を横切る。
黒青色の頭が持ち上がった。
「気づいた」
だが、アビスリザードはその場から動かない。フラッシュファングウルフの方へ身体を向け、低く唸るだけだった。
「もうちょい近く」
骨狼がさらに前へ出る。
距離が縮まるにつれ、アビスリザードの前脚が動いた。太い尾が岩床を擦り、黒青色の巨体がゆっくり向きを変える。
まだ来ない。
フラッシュファングウルフは一度だけ足を止めたあと、さらに数歩だけ近づいた。
次の瞬間、アビスリザードが一気に踏み込んだ。
「来た!」
太い四肢が岩床を蹴るたび、巨体が大きく前へ出る。見た目の重さに反して速い。
フラッシュファングウルフはすぐには逃げ切らず、追いつかれる直前まで引きつけてから横へ走った。
アビスリザードもそのまま後を追う。
大きな爪が振り下ろされた。
白い骨狼が鋭く横へ切り返す。爪が空を切り、岩床へぶつかって小石が跳ねた。そこからフラッシュファングウルフは一気に距離を取るが、離れすぎる前に少し速度を緩め、また追わせる。
「いいぞ、そのまま!」
アビスリザードが完全にそちらへ向いた。
さっきまで巨体が塞いでいた細い道の入口が、はっきり見える。
「今!」
陸が岩陰から飛び出す。
エリナもすぐに走り出し、ロイヤルナイトたちも続いた。
アビスリザードがいた大岩の横を抜ける。少し前までなら、ここであの巨体と正面からぶつかっていた距離だった。
先頭のロイヤルナイトが細い道へ入る。エリナもその後を抜けた。
陸も続こうとしたところで、後ろから低い唸り声が響いた。
「まずっ」
アビスリザードがこちらへ頭を向けている。
何体もの骨が一斉に走った音に気づいたらしい。追っていたフラッシュファングウルフから意識が外れ、巨体が細い道の方へ向き直ろうとする。
「フラッシュ!」
白い影が横から飛び込んだ。
アビスリザードの目の前を横切り、そのまますぐ近くの岩へ向かって走る。黒青色の頭が反射的にそちらを追った。
太い尾が振り抜かれる。
フラッシュファングウルフは身体を低く沈め、尾の下を抜けた。岩床を蹴った直後に方向を変え、今度はさらに岩場の奥へ走る。
アビスリザードがまた追った。
「よし!」
陸はすぐに細い道へ入った。
後ろではコボルトベヒーモスの大きな骨格が岩壁すれすれを通ってくる。肩の骨が岩へ当たりかけたが、そのまま身体を斜めにして抜けた。ロイヤルナイトたちも続き、全員がこちら側へ入る。
「エリナ、もう少し奥!」
「うん!」
細い道を少し進んだところで、陸はようやく足を止めた。
曲がった岩壁に遮られ、アビスリザードの姿はもう見えない。
だが、フラッシュファングウルフはまだ戻っていなかった。
遠くで一度、硬いものが岩へぶつかるような音が響く。
「……大丈夫だよな」
今すぐ戻って助けに行けば、せっかく離したアビスリザードをまたこちらへ連れてくるかもしれない。陸はその場で待った。
数秒後。
別の方向から、軽い骨の脚音が近づいてきた。
「来た!」
白い影が岩陰から現れる。
フラッシュファングウルフはそのまま細い道へ入り、陸たちのところまで一気に戻ってきた。骨に傷はなく、後ろからアビスリザードが追ってくる気配もない。
「よし。全員いるな」
陸はすぐに歩き出した。
さっきまでアビスリザードに塞がれていた道の奥へ、全員でそのまま進んでいった。
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