第148話 第12階層!
新しい家で暮らし始めてから、数日が経った。
各地で続いていた大規模なスタンピードは、ほとんどが収まりつつある。ダンジョンそのものが消えたわけではなく、危険な場所も残っているが、少なくとも次々とモンスターが外へ溢れ出していた頃の状況からは落ち着いてきていた。
陸はリビングのソファに座りながら、そんな記事を閉じた。
「……今のうちに、もっと強くなっといた方がいいよな」
頭に浮かんだのは、大阪城ダンジョンで戦ったコボルトベヒーモスだった。
Bランク。ロイヤルナイトを進化させ、さらに自分や他のスケルトンまで加わって、ようやく倒した相手だ。
今回は勝てた。だが、もし次に現実世界へ出てくるのがAランクだったら。
「さすがに今のままじゃ、やばそうだよな……」
そこで思い出したのが、ずっと先へ進んでいなかった個人ダンジョンだった。
第11階層を攻略してから、さらに奥へは行っていない。何がいるか分からない以上、無理に踏み込む必要もなかった。
だが今は違う。
ロイヤルナイトだけでなく、コボルトベヒーモスまでスケルトンにできている。
「よし。第12階層、行ってみるか」
「いく!」
近くで遊んでいたエリナがすぐに反応した。
陸はシステムメニューを開き、個人ダンジョンの第11階層へ移動する。
視界が切り替わると、懐かしい草原が一面に広がった。青い空の下を風が抜け、遠くには以前攻略した巨大な城が見えている。
「久しぶりだな、ここ」
所持アイテムからホバーバイクを取り出し、陸が跨がる。エリナを自分の前、脚の間へ乗せると、そのまま城へ向かって走り出した。
草原を抜け、見覚えのある道を進む。第11階層で何日も探索していた頃には広すぎると思っていた景色も、一度攻略してしまった今は妙に懐かしかった。
やがて巨大な城へ入り、内部を進んでいく。
何度も通った石造りの廊下を抜け、最後に大きな石室へ出た。
陸はホバーバイクを止めた。
「ここか……」
障害物のほとんどない平らな石床。その奥には、数段高くなった場所と玉座が残っている。
ここでグランドナイトと戦った。
当時は、四十体のスケルトンを全部融合させて、それでも簡単には倒せなかった相手だ。
陸はホバーバイクを所持アイテムへ戻し、スケルトンストックを開いた。
青白い光が広がり、長剣を持った大柄な骨の騎士が現れる。
ロイヤルナイト。
あの時、敵として玉座の前に立っていたグランドナイト本人だった。
「なんか変な感じだな。ここであんなに苦労して倒したのに」
ロイヤルナイトは何も答えず、長剣を持ったまま陸の前に立っている。
「今だったら、さすがに楽勝だろうな」
もう一体、青白い光が膨らむ。
三メートル近い巨大な骨格。コボルトベヒーモスが現れた。
「おお……やっぱでかいな!」
「でかい!」
敵だった時とは違い、その巨体が今はロイヤルナイトの隣に並んでいる。
続けてサイクロンガーゴイルとゴブリンハイウィザードも召喚する。翼を持つガーゴイルが少し浮かび、ハイウィザードは杖を手に後方へ立った。
「これなら、前よりはだいぶ戦えるはず」
陸は石室の奥へ向かった。
玉座のさらに先には、次の階層へ続く石造りの道が伸びている。その奥にあったのは、下へ続く階段だった。
「今度は下か」
第10階層から第11階層へ来た時は、次の階層なのに上へ進む階段だった。その先でいきなり草原と青空が広がっていたのを、今でも覚えている。
「こんどはした?」
「そうみたいだな」
陸を先頭に、エリナと四体のスケルトンが階段を下りていく。
少し進むだけで、第11階層から差し込んでいた明るさは遠ざかった。周囲は自然な岩壁へ変わり、足元も荒い石になる。
しばらく下り続けると、前方に青白い光が見え始めた。
「洞窟か?」
階段を抜けた先は、確かに洞窟だった。
だが、数歩進んだところで陸は足を止めた。
「……広っ」
今までの洞窟とは、何もかもが違った。
左右の岩壁が遠い。天井も高すぎて、青白く光る岩肌の凹凸が、はるか上にぼんやり見えるだけだ。
前方へ伸びる道も、通路と呼ぶには広すぎる。
さらに進むと、その道の先が一気に開けた。
「うわ……!」
巨大な空洞が広がっていた。
対岸の岩壁が遠く霞み、下には底の見えない大きな裂け目が走っている。その向こうには何本もの岩の道が伸び、さらに奥へ別の空洞が続いていた。
低い轟音が響く。
「なに?」
エリナが声の方を見る。
遠くの岩肌が赤く光った。
次の瞬間、裂け目の一つから赤いマグマが勢いよく噴き上がった。
「マジかよ……!」
噴き上がった赤い光が巨大な空洞の岩壁を照らし、しばらくして下へ落ちていく。
そのさらに遠くには、水が流れているように見える場所もあった。別の方向には、岩壁の一部が青白く光っている。
一つの洞窟ではない。
地下に、巨大な世界がそのまま広がっているようだった。
「第11階層もやばかったけど……こっちはこっちで全然違うな」
陸はしばらくその景色を見渡した。
ロイヤルナイトとコボルトベヒーモスほど大きなスケルトンまで、この空間の中では小さく見える。
陸は前へ続く岩道へ足を踏み出した。
エリナと四体のスケルトンも、その後に続いた。
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