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第147話 新居!

 特異事象対策庁から届いた案内を確認し、陸とエリナは麻布台へ向かった。


 指定された場所まで来ると、陸は思わず足を止めた。目の前には周囲の建物よりさらに高く伸びたタワーが立ち、ガラス張りの入口の奥にはホテルのような広いロビーが見える。


「……ここ?」


 入口近くで待っていた対策庁の職員が陸たちに気づき、軽く会釈した。


「佐藤さんですね。お待ちしていました。こちらが今回ご案内する麻布台フォレストレジデンスです」


「マンションですよね?」


「はい」


 言われても、陸が今まで住んでいた場所とは何もかも違って見えた。


 職員について中へ入る。入口で確認を受け、さらに奥のゲートを通ると、高い天井のロビーが広がっていた。受付にはコンシェルジュらしい人がいて、奥には住民用のエレベーターが並んでいる。


「居住階へは登録された方しか上がれません。入口も二十四時間管理されていますので、現在のお住まいより安全性はかなり高いと思います」


「おお……」


 高瀬が安全な住居と言っていた意味が、建物へ入っただけでも分かる。


 専用のキーを受け取り、職員と一緒にエレベーターへ乗った。表示される数字がどんどん上がっていく。エリナは扉の上を見つめたまま、数字が変わるたびに耳を動かしていた。


 上層階で降り、静かな廊下を進む。職員が一つの扉の前で止まり、陸へキーを渡した。


「こちらです」


 陸が扉を開ける。


 玄関だけでも広い。そこから先へ進み、リビングへ入った瞬間、思わず声が出た。


「広っ!」


「ひろい!」


 エリナの声もほとんど同時だった。


 大きなソファやテーブルが置かれているのに、まだいくらでも空間がある。奥には大きなキッチンがあり、さらに左右へ廊下が続いていた。壁際には床から天井近くまで届く窓が並び、その向こうに街が広がっている。


 エリナがすぐ窓の方へ走っていく。


「リク! たかい!」


「うわ、すげえ……」


 陸も隣まで行き、外を見る。


 ビルがずっと下に並び、その向こうには東京タワーが見えた。道路を走る車も小さく見える。さっきまでいた一人暮らし用の部屋とは、広さも景色もまるで違う。


「ここに住んでいいんですか?」


「もちろんです。気に入っていただければ、そのままお使いいただけます」


 職員によると、部屋はおよそ三百平方メートル。寝室も複数あり、家具や主要な家電も一通り用意されているという。建物内にはラウンジやトレーニング施設などもあるらしい。


 三百平方メートルと言われてもすぐには想像できなかったが、今までの家より明らかに広いのは分かる。陸はもう一度リビングを見回した。


「これ、普通に借りたらいくらぐらいなんですか?」


「同程度の住戸でしたら、月四百万円前後になると思います」


「……四百万?」


 一瞬、聞き間違えたのかと思った。


「毎月ですか?」


「はい」


「ええっ!?」


 月四百万。年間なら四千八百万だ。


「いや、俺そんなの払えないですよ?」


「佐藤さんに家賃を負担していただく必要はありません。こちらは対策庁側で契約している住居です」


「マジですか……」


 安全確保と、今後の協力案件への対応を考えて用意された住居らしい。管理側との手続きも済んでおり、陸がここを選ぶなら今日から使って構わないという。


 陸は窓の外を見ているエリナへ目を向け、それから広いリビングを見回した。安全で、広くて、家賃もかからない。


「じゃあ、ここにします」


「承知しました」


 職員から鍵や入館方法について必要な説明を受ける。細かい手続きは後日でも構わないらしく、今日のところはそのまま生活を始められるという。


 案内を終えた職員が帰ると、広い部屋に陸とエリナだけが残った。


「……ほんとにここ住むのか」


「ここ、おうち?」


「今日からな」


「おお!」


 エリナは嬉しそうにまた窓の方へ走っていった。


 陸は所持アイテムを開く。服や日用品を出し、パソコンとゲーム機も順番に取り出していく。運ぶ作業がないだけで、引っ越しは驚くほど早い。


 奥の部屋の一つを覗くと、机を置いてもまだかなり余裕がありそうだった。


「ここ、ゲーム部屋にできるな」


 消えたばかりのゲームルームを、今度は自分で作れる。陸はパソコンを抱え、その部屋へ運んだ。


 必要な物を一通り出し終える頃には、窓の外が少しずつ赤く染まり始めていた。陸がリビングへ戻ると、エリナはまだ窓際にいる。


「エリナ、腹減ってない?」


「へった!」


「じゃあ飯にするか」


 せっかく大きなキッチンもある。陸はショップから材料を揃え、ハンバーグを作ることにした。


 肉を焼き始めると、エリナがすぐキッチンまで寄ってくる。


「いいにおい!」


「もうちょい待ってろ」


 焼き上がったハンバーグと付け合わせをテーブルへ並べると、エリナは待ちきれないように席についた。


「いただきます!」


「いただきます」


 新しい家の大きな窓の向こうで、東京の街に少しずつ明かりが増えていった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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