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第146話 引っ越し!

 黒い球体の話も、今後の協力についてもひとまずまとまった。球体については改めて調査方法を相談することになり、陸はテーブルの上に並べていた二つを所持アイテムへ戻す。


 それから、さっき高瀬に言われたことを思い返した。


「住むところ用意してもらえるのは助かるんですけど、今の家、ポイントでかなりいじってるんですよね」


「住宅の変更ですか?」


「はい。部屋広げたり、ゲームルーム作ったり。風呂も変えてます」


 高瀬は少し考えてから答えた。


「それでしたら、元の状態へ戻せるはずです」


「戻せるんですか?」


「同じように住宅を変更された方が、転居の際に原状復帰した例があります。使用したポイントも、内容によっては一部戻ったそうです」


「ポイントも?」


 そこは聞き逃せなかった。


「ただ、どの程度戻るかは一定ではないようです。こちらでも詳しい仕組みまでは分かっていません」


「少しでも戻るなら全然いいです」


 どうせ引っ越すなら、今の家をそのままにしておくよりずっといい。


 新しい住居については、陸たちが帰宅して荷物をまとめている間に対策庁側で準備を進めることになった。今の管理会社との連絡も、事情を伏せたまま必要な範囲で対応してくれるらしい。


「準備が整い次第、ご連絡します」


「分かりました」


 思っていたより話が早い。高瀬との面談を終え、陸とエリナはそのまま帰宅した。


 家に入ると、広いリビングがいつも通り目の前に広がっている。奥には寝室やゲームルームへ続く廊下があり、キッチンも風呂も、最初に住み始めた頃とはまるで違う。


「これ、全部戻るのか……」


 少し惜しい。それでも、次の家へ移るなら片づけないわけにもいかない。


 陸はまず、自分たちの持ち物から所持アイテムへ入れていった。服や日用品、パソコン、ゲーム機。エリナの物もまとめて収納していく。普通なら段ボールを用意して何時間もかかりそうな作業が、触れて収納するだけでどんどん終わっていった。


「引っ越しでこれ使えるの、めちゃくちゃ楽だな」


「いっぱいなくなった!」


「まだ家の方が残ってるからな」


 住宅一括アップグレードに含まれていた家具や主要家電は触らず、そのままにしておく。持っていく物を確認し終えたところで、陸はポイントショップを開いた。


 高瀬に教えられた原状復帰を探して住宅カテゴリーを見ていくと、下の方に見慣れない項目があった。


━━━━━━━━━━━━━━

【住宅原状復帰】


現在の住宅に適用されている

住宅アップグレードを解除し、

変更前の状態へ戻します。


住宅に付属する設備・家具は

原状復帰に合わせて変更されます。


適用内容に応じて

ポイントの一部が返還される場合があります。

━━━━━━━━━━━━━━


「ほんとにあった!」


 高瀬から聞いていなければ、わざわざ探すこともなかっただろう。陸はそのまま確認画面を開く。


━━━━━━━━━━━━━━

住宅を原状復帰しますか?


【はい】

【いいえ】

━━━━━━━━━━━━━━


「よし。戻すか」


「もどす?」


「この家、昔の状態にする」


 陸が【はい】を押した。


 直後、足元から青白い光が広がった。


「おっ!」


 床を走った光が壁へ伸び、天井まで一気に広がっていく。


 奥へ続いていた廊下が光に包まれ、その先にあった扉が一つずつ見えなくなる。広かったリビングもゆっくり縮まり、キッチンの設備や壁の位置まで次々と変わっていった。


 ゲームルームも、ホームシアターも、トレーニングルームも消えていく。


「わっ!」


 エリナが忙しそうに辺りを見回している。


 さらに浴室側からも青白い光が漏れた。前に広げた風呂まで含めて、住宅に適用していた変更がまとめて戻っているらしい。


 やがて光が薄れ、低く響いていた音も止まった。


「……うわ、懐かしい」


 陸は思わず部屋の中を見回した。


 広いリビングも、奥へ続く廊下もない。最初に住み始めた頃の、一人暮らし用の部屋へ戻っていた。


 エリナはしばらく黙っていたが、やがて陸を見上げた。


「ここ、リクのおうち?」


「そう。最初はこんな感じだった」


「ちいさい!」


「今までのと比べたらな」


 エリナはまだ信じられないように部屋を見回している。


 陸にとっては見慣れていたはずの部屋なのに、久しぶりに見ると妙に狭く感じた。


 その時、目の前に表示が現れた。


━━━━━━━━━━━━━━

住宅の原状復帰が完了しました。


購入時ポイントの一部が

返還されました。

━━━━━━━━━━━━━━


「お、ポイントも戻った!」


 使った分が全部返ってくるわけではない。それでも、ポイントが戻ってくるだけで普通に嬉しい。


「よし、これならいいな」


 表示を閉じたところで、スマホが震えた。特異事象対策庁からで、新しい住居の準備が整ったらしい。


「もうできたのか。早っ」


 陸は最後に小さくなった部屋を見回す。持っていく物はすでに所持アイテムの中だ。


「エリナ、行くぞ」


「どこ?」


「新しい家」


 陸はエリナと一緒に玄関へ向かった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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