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第145話 協力要請!

 二つの黒い球体を前に、高瀬はしばらく黙っていた。


「八王子と大阪城。どちらも、これと同じような場所にあったんですね?」


「はい。床に黒い模様があって、その真ん中あたりに浮いてました」


 陸は、周囲へ集まった光の粒からモンスターが形作られていたこと、球体を紋様の中心から外すと床の光が消え、生成も止まったことを説明した。


「二か所とも、ですか」


「ほぼ同じでした」


 高瀬の表情がさらに真剣になる。


 特異事象対策庁では、スタンピードが収まり始めた地域から順にダンジョン内部の調査を進めているらしい。ただ、これまで集められた報告の中に、陸が持ってきた黒い球体と一致する物はないという。


「存在そのものを、今ここで初めて知りました」


「じゃあ、他のダンジョンにはなかったんですか?」


「少なくとも、調査した時点では確認されていません」


 陸はテーブルに並んだ二つを見る。


「俺が見つけた時は、どっちもモンスターが出てる最中だったんですよね。……終わったら消えるとか?」


 高瀬はすぐには答えなかった。


「可能性はあります。ですが、今の段階では何とも言えません」


 対策庁が内部へ入れた場所の多くは、外への大量流出が止まった後だったらしい。活動中の生成地点を直接確認した例自体がほとんどない。


 それなら、陸が二か所で見たものが他のダンジョンにもあったのか、あるいは八王子と大阪城だけだったのかも、まだ分からない。


「これ、結構重要なんですね……」


「かなり重要です」


 高瀬は迷わず答えた。


「ただ、もう一つ確認したいことがあります。佐藤さんは、どうやって二か所ともそこまで入ったんですか?」


「あー……」


 その質問が来るのは分かっていた。


 陸は八王子で発生源を探して奥まで進んだこと、大阪城では数日かけて内部を探索したことを説明した。スケルトンラッシュについても、隠しても仕方のない範囲は話していく。


 Cランクのスケルトンを複数持っていること。大阪城ではBランクのコボルトベヒーモスを倒したこと。そして、自分の手元にもBランクのロイヤルナイトがいること。


「Bランクを……倒したんですか?」


 それまで落ち着いていた高瀬が、今度ははっきり聞き返した。


「はい。かなり苦戦しましたけど」


「その個体も、スケルトンに?」


「できました」


 高瀬が一度黙る。


 黒い球体を二つ持ってきた時とは別の意味で、驚いているのが分かった。


「確認してもいいですか」


「はい」


「ランキングネームは、JOHNですか?」


 陸は少しだけ迷った。


 だが、今さらここで否定しても意味はない。顔も実名もネットに出始めているうえ、スケルトンラッシュのことまで話した後だ。


「……そうです」


 高瀬は大きく驚きはしなかった。


「やはり、そうでしたか」


「分かってたんですか?」


「断定はできていませんでした。ただ、大阪城公園の映像と公開されているスキル情報から、可能性は高いと見ていました」


「まあ、あれだけ出したらそうなるか……」


 陸が苦笑すると、高瀬も少しだけ表情を緩めた。


「佐藤さん。こちらからも、一つお願いがあります」


「なんですか?」


「今後、特異事象対策庁の調査に協力していただけませんか」


 陸は少し目を見開く。


「俺が?」


「はい。ダンジョン内部の調査や、高ランクのモンスターが確認された場合の対応などです。常にこちらの指示で動いていただくという意味ではありません。必要な案件ごとにお願いする形を考えています。もちろん、協力いただいた案件には報酬もお支払いします」


「おお」


 報酬も出るらしい。そこは素直に嬉しい。


 政府側と情報を共有できるなら、黒い球体だけでなく、他のダンジョンについて分かることも増えるはずだ。大阪城で大勢がモンスターを止めていた光景も思い出す。


 自分のスケルトンなら、普通の探索者では危険な場所にも入れる。


「俺で役に立つなら、やります」


「ありがとうございます」


 高瀬は明らかにほっとしたように笑った。


「では、細かい連絡方法や依頼の形については、こちらで整理しておきます」


「分かりました」


 話が一段落したところで、高瀬は少し考えるようにしてから続けた。


「それと、もう一つ。こちらは協力とは別の話です」


「はい?」


「現在のお住まいについてです」


 陸は思わず瞬いた。


「俺の家?」


「佐藤陸というお名前が、すでにインターネット上へ出始めています。JOHNとの関連も広まっていますし、このまま特定が進めば、住所までたどり着く可能性があります」


「あー……」


 そこまでは考えていなかった。


 顔と名前が出ている以上、家まで知られる可能性は確かにある。


「対策庁として、安全性の高い住居を用意することもできます」


「住むところまで?」


「今後、協力をお願いする立場ですから。安全面はこちらとしても無視できません」


 高瀬はそう言って、少しだけ笑った。


「もちろん、無理に移っていただく話ではありません。一度、候補を見てから決めていただければ」


 陸は返事をする前に、今の自宅を思い浮かべた。


 ポイントショップで何度も手を入れ、最初に住み始めた頃とはまるで別物になっている部屋。


「……住むところか」


 黒い球体を持ち込むだけのつもりだったのに、話はずいぶん大きくなっていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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