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第144話 特異事象対策庁!

 翌日。


 陸は朝から、国内外のスタンピードについて調べていた。


 大阪城ダンジョンに潜っていた数日の間にも状況はかなり動いていたらしい。日本では各地で続いていた大規模なモンスターの流出がほとんど収まり、封鎖されたダンジョンへ調査隊が入ったという記事が増えている。海外でも軍や探索者が対応を続けている地域はあるものの、同時多発していたスタンピードの勢いは落ち着き始めていた。


「だいぶ収まってきてるんだな……」


 もちろん、ダンジョン自体が消えたわけではない。内部調査が始まった場所もあれば、まだ危険で近づけない場所もある。


 記事や政府の発表を追っていくうちに、見慣れない組織名が何度も出てきた。


 特異事象対策庁。


 世界更新後に設置された政府機関で、ダンジョンやモンスター、能力に関係する大規模な問題を専門に扱っているらしい。警察や自衛隊、自治体と連携するだけでなく、所属する探索者もダンジョン内部の調査へ入っている。


 公式サイトには、ダンジョン内で発見した未知の物品や現象についての情報提供窓口もあった。


「ここが一番よさそうだな」


 陸は所持アイテムを開く。中には、八王子と大阪城から持ち帰った黒い球体が二つ入っている。


 ネット越しに説明するより、実物を見せた方が早い。それに、どうせ話すなら自分が見た生成部屋のことも直接説明できる。


 その後も他の機関や、各地のダンジョン調査について調べ続けたが、黒い球体らしいものを回収したという情報は見つからなかった。


 気づけば外は暗くなっていた。


「……やっぱり、ここだな」


 翌朝、陸は帽子とマスクをつけ、エリナにも大きめの上着とフードを着せた。


「エリナ、霞が関行くぞ」


「かすみがせき?」


「この黒いの、調べてもらいに行く」


「いく!」


 電車を乗り継いで霞が関へ向かう途中、何度かこちらを気にするような人がいた。


 昨日一日でも映像はさらに広がっていた。SNSには「佐藤陸」という名前まで出始め、大阪城公園でスケルトンを召喚した男と、八王子の洞穴から出てきた人物。そしてランキング一位のJOHNを結びつける投稿も、もう珍しくない。


「ほんとにバレてきたな……」


 それでも、公式にJOHNだと発表されたわけではない。陸はスマホをしまい、乗り換えの案内に従って電車を降りた。


 霞が関へ着くと、周囲には大きな庁舎が並んでいた。


 案内を確認しながら歩き、特異事象対策庁の入る建物へ向かう。入口には警備員が立ち、来訪者用の受付と入館ゲートが設けられている。


 受付で用件を聞かれ、陸は少し迷ってから答えた。


「ダンジョンの中で見つけた物について、相談したいんですけど」


「事前のご予約はございますか?」


「ないです」


 受付の女性は端末へ何か入力しながら、発見場所や物品についていくつか確認してきた。


「場所は二か所です。物は……たぶん、スタンピードに関係してるかもしれません」


「二か所、ですか?」


「はい。同じ物がありました」


 ここで全部話すのも違う気がして、陸はそれ以上は言わなかった。


 十分ほど待つと別の職員がやってきて、上階の小さな応接室へ案内された。そこで改めて、八王子で見た黒い紋様と球体、周囲の光からゴブリンが生まれていたことを簡単に説明する。


「球を横にずらしたら、床の光も消えて、モンスターが出てこなくなりました」


「同じ物を、もう一か所でも?」


「大阪城です」


 職員の表情が変わった。


 しばらくして職員は席を外し、戻ってくると先ほどより広い部屋へ陸たちを案内した。


 大きな窓の向こうに都心の建物が並び、中央には長いテーブルが置かれている。その奥に、一人の女性が立っていた。


 三十代後半くらいだろうか。後ろで低くまとめた黒髪に、濃紺のスーツ。細身で姿勢がよく、整った顔立ちをしている。


「初めまして。特異事象対策庁長官の高瀬香織(たかせかおり)です」


「え、長官?」


 思わず聞き返すと、高瀬が少し笑った。


「突然で驚かせてしまいましたね。私も、朝からこんなお話を聞くとは思っていませんでした」


 その言い方が少しだけ柔らかく、陸の肩から力が抜けた。


 席につくと、エリナも隣の椅子へ上がる。


「先ほどのお話は伺いました。実物を確認してもよろしいですか?」


「はい」


 陸は所持アイテムから、八王子で回収した黒い球体を取り出した。


 真っ黒な球体がテーブルの上へ現れる。


 高瀬の目が大きくなった。


「……これが?」


「八王子にあったやつです」


 高瀬はすぐには言葉を続けず、球体に触れないまま少し離れた位置から見つめている。


「実物を見るのは、初めてです」


 やがてそう言ってから、顔を上げた。


「もう一つも、同じものなんですか?」


「ほぼ同じです」


 陸は大阪城で回収した方も取り出し、隣へ置いた。


 二つの黒い球体が並ぶ。


「……二つとも、持ち帰ったんですか」


 今度は高瀬も、驚きを隠さなかった。


 さっきまでの穏やかな表情は消え、二つの球体を見比べる目が一気に真剣なものへ変わっていた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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