第140話 コボルトベヒーモス戦!
細い一本道の手前で、陸はホバーバイクを止めた。
「エリナ、降りるぞ」
「うん!」
エリナを先に降ろし、陸も地面へ足をつける。ホバーバイクを所持アイテムへ戻してから通路の奥を見ると、以前と同じ場所に巨大な影が立っていた。
三メートル近い身体。太い肩と腕。武器も盾も持っていない。少し離れた横をゴブリンが走り抜けても、コボルトベヒーモスは動かない。
「まだいるな」
前に見た時は、そのステータスを確認しただけで引き返した。だが今は、すぐ近くにロイヤルナイトが立っている。
「よし。まずは一対一でやってみよう」
陸はスケルトンストックを開き、ゴブリンハイハンター、ダークウルフ、サイクロンガーゴイルを精鋭化して召喚した。淡い金色の光をまとった三体が次々と現れ、サイクロンガーゴイルは大きな翼を広げて通路の上へ浮かび上がる。
「危なくなったら援護して。最初はロイヤルナイトだけでいく」
ロイヤルナイトが長剣を手に、一本道へ入っていった。
数歩進んだところで、コボルトベヒーモスが顔を上げる。
次の瞬間、巨体が消えたように見えた。
「速っ!?」
石床を砕く音と同時に、コボルトベヒーモスがロイヤルナイトの目前まで迫っていた。振り抜かれた拳へ長剣がぶつかり、甲高い音が通路に響く。
ロイヤルナイトが半歩ずれて剣を返す。コボルトベヒーモスが身体をひねってかわし、そのまま反対の拳を振るう。長剣がそれを受けた直後には、二体とも最初にいた場所から何メートルも離れていた。
「うわ……!」
陸が目で追い直した時には、もう次の音が響いている。
ゴブリンハイハンターも弓を構えていたが、矢は放たない。二体の位置が何度も入れ替わり、狙いを定める暇がない。ダークウルフも低く身構えたまま、戦いへ入る隙を探している。
上空のサイクロンガーゴイルだけは二体の動きに合わせて位置を変えていたが、それでも飛び込んではいかなかった。
「Bランク同士ってこんな速いのかよ……!」
それでも何度か打ち合ううちに、少しずつ差が見え始めた。
コボルトベヒーモスの拳が空を切り、ロイヤルナイトの長剣が太い腕を斬る。続けて胴へ刃が入り、巨体が一歩下がった。コボルトベヒーモスもすぐに殴り返すが、ロイヤルナイトは身体をずらしてかわし、もう一度長剣を振るう。
「おおっ! 押してる!」
コボルトベヒーモスがさらに踏み込もうとしたところで、ロイヤルナイトの剣が先に届く。正面からの攻防では、少しずつこちらが上回っていた。
だが、コボルトベヒーモスが突然右拳を引いた。
「ん?」
踏み込むと同時に、その拳がロイヤルナイトへ突き出される。
ロイヤルナイトは長剣を斜めに入れて受けた。
ドンッ!!
重い衝撃が通路へ響き、ロイヤルナイトの身体が一気に押し戻される。靴底が石床を削り、数メートル先でようやく止まった。
「インパクトナックルか! 今のやばっ……!」
コボルトベヒーモスが追って走り出す。その前でロイヤルナイトが石床を強く蹴った。
グランドアクセルで身体が一気に前へ弾け、迫ってきた巨体との距離を逆に潰す。その勢いを乗せた長剣が肩口へ叩き込まれ、コボルトベヒーモスの身体が大きく傾いた。
「よし!」
さらにロイヤルナイトが踏み込み、もう一度長剣を振るう。
その直前、コボルトベヒーモスの全身の筋肉が大きく盛り上がった。腕も肩もさらに太く張り、長剣がぶつかった瞬間、さっきまでとは違う鈍い音がする。
刃は入った。だが浅い。
「硬くなった!? これがアイアンマッスルか!」
コボルトベヒーモスが太い腕で長剣を押し返し、そのまま拳を振るう。ロイヤルナイトは石床を蹴って上へ跳び、何もない空中をさらに蹴った。
エアステップで一段、もう一段と空を蹴る。巨体の頭上を越えるように位置を変え、そのまま横へ距離を取った。
コボルトベヒーモスもすぐに追ったが、ロイヤルナイトは着地しない。空中で身体の向きを変え、離れた位置から長剣を振り抜いた。
刃から青白い光が大きく伸び、そのまま強烈な斬撃となって通路を走る。
グランドフォーススラッシュが、コボルトベヒーモスの胸へ真正面から叩き込まれた。
ズガンッ!
巨体が数歩押し戻される。硬くなった身体にも斜めの傷が走った。
「すげえ! 遠くからでもあれ撃てるの強いな!」
ロイヤルナイトは着地すると、再び長剣を構える。距離は十分にある。
コボルトベヒーモスには、こちらまで攻撃を飛ばしてくる様子がない。
「これなら――」
言い切る前に、コボルトベヒーモスが深く身体を沈めた。
次の瞬間、石床が砕ける。
三メートル近い巨体が、さっきまでとは比べものにならない勢いで一直線に突っ込んできた。
「ギガントラッシュ!?」
ロイヤルナイトが横へ跳び、空中を蹴ろうとする。
だが、間に合わない。
巨大な肩が身体の横へぶつかり、ロイヤルナイトが弾き飛ばされた。石床へ落ち、そのまま何度か転がってから長剣を突き立てて止まる。
「ロイヤルナイト!」
陸が反射的に一歩前へ出る。ゴブリンハイハンターが弓を引き、ダークウルフも飛び出せるよう身体を沈めた。上空ではサイクロンガーゴイルが翼を大きく広げている。
だが、ロイヤルナイトはすぐに長剣を引き抜いて立ち上がった。
「……まだいけるな」
鎧には傷が増えている。それでも剣を構える動きは鈍っていない。
向こうでは、コボルトベヒーモスも再び両腕を下ろし、こちらへ身体を向けていた。胸にはグランドフォーススラッシュでついた傷が残っている。
陸は二体の間合いを見ながら、待機させていた三体へ目を向けた。
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