第130話 撮られた!
上空に浮かぶ二機のドローンは、どちらもこちらへ機体を向けていた。
「……これ、撮られてる?」
陸が見上げた直後、一機が少し高度を下げた。
「やばっ!」
反射的に顔を伏せる。こんな山の中まで飛んできているなら、ただの個人のドローンとは考えにくい。
「エリナ、行くぞ!」
「えっ?」
陸は周囲に集まっていたスケルトンたちを次々とストックへ戻した。巨大な白骨も、獣型の白骨も、青白い光に包まれてその場から消えていく。
上空では、ドローンがまだこちらを向いている。
「絶対撮られてるって!」
陸はすぐにホバーバイクへ跨がり、エリナを自分の前へ乗せた。
「しっかりつかまって!」
「う、うん!」
黒と銀の車体。その下に並ぶ四つの円形装置が青白く光る。車輪はなく、車体は地面から低く浮いている。
次の瞬間、ホバーバイクが一気に加速した。
洞穴から離れ、そのまま木々の間へ飛び込む。行きに歩いてきた方向へ進むが、ホバーバイクでは枝や伸びた草が次々と正面へ迫ってくる。
「邪魔!」
陸は左手を前へ出した。
万象の腕輪から風を飛ばし、進路を塞ぐ枝や草をまとめて切り払う。開いた隙間へそのまま車体を滑り込ませ、速度を落とさず林の中を抜けていく。
後ろから、かすかにブーンという音が聞こえた。
「まだ来てる!?」
振り返る余裕はない。
前に垂れた枝を風で切り、木の幹を避けて車体を傾ける。地面の凹凸はほとんど気にならず、ホバーバイクは低く浮いたまま山の中を走り続けた。
「リク、はやい!」
「今日はもっと速くていい!」
陸はさらに速度を上げる。
木々が左右へ流れ、来た時には歩いて越えた斜面も一気に下っていく。途中で何度か後ろを確認したが、いつの間にかドローンの姿は見えなくなっていた。
それでも止まらない。
そのまま林を抜け、キャンプ場の区画が見えてきたところでようやく速度を落とした。
「着いた!」
自分の車の近くまで進み、陸は急いでホバーバイクを止めた。
エリナと一緒に降りて、すぐに車体を所持アイテムへ戻す。
「……追ってきてないよな?」
周囲を見回す。
木々の上にも、キャンプ場の上空にも、さっきのドローンは見えない。羽音も聞こえなかった。
「はぁー……」
陸は大きく息を吐いた。
「全開で逃げてよかった……」
「にげた!」
「逃げた逃げた。あれは逃げるしかないって」
もし顔まではっきり撮られていたら、かなりまずい。
「とりあえず帰ろう」
「おうち?」
「うん。ここにいるのも怖い」
陸は車の鍵を開け、エリナを助手席へ乗せる。自分も運転席へ滑り込むと、すぐにキャンプ場を出た。
帰り道では、さっきのドローンのことが何度も頭に浮かんだ。
「ニュースとかだったら最悪だな……」
「にゅーす?」
「テレビに映るやつ」
「リク、てれびでる?」
「出たくない!」
エリナは少し楽しそうだったが、陸は全然笑えなかった。
それから一時間半ほどかけて家へ戻った。
アパートの駐車場へ車を入れ、二人で部屋へ上がる。玄関を閉めると、陸は靴を脱ぎながらそのままリビングへ向かった。
「テレビ!」
ソファへ座るより先に電源を入れる。
画面では、まだ各地のスタンピードが大きく報じられていた。
「……八王子は?」
少し待つ。
別の地域の映像が続いたあと、画面下に八王子の文字が出た。
「きた!」
山の中に開いた洞穴。入口に立つ巨大なスケルトン。その映像を見た瞬間、陸の身体が固まった。
「うわ……やっぱ映ってる」
映像が切り替わる。
洞穴の奥から探索班のスケルトンが出てくる。そのさらに後ろから、黒と銀のホバーバイク。
陸は思わず両手で顔を覆った。
「これ俺じゃん……」
「リク!」
「分かってる!」
幸い、ドローンからは距離があり、映っている顔も小さい。途中から俯いて逃げたため、正面から長く映されているわけでもなかった。
それでも、見れば見るほど落ち着かない。
「もうちょっと早く気づけばよかった……」
テレビでは、正体不明の人物とスケルトンの関係について話していたが、詳しいことは分かっていないらしい。
「……まあ、今すぐ俺って分かる感じではない、よな」
陸はそう言いながらも、画面から目を離せなかった。
しばらくすると、番組は再び各地のスタンピードへ移った。
作並ではモンスターの流出が減り、山側へ押し戻す動きが進んでいる。地方の山間部でも、警察や自衛隊、探索者たちが協力し、少しずつ状況が落ち着き始めた地域が出ていた。
「お、なんとかなってるところもあるんだ」
陸が少しだけ肩の力を抜く。
だが、次に映った大阪の状況は違った。
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