第124話 キャンプ二日目!
目を覚ますと、テントの外がうっすら明るくなっていた。
隣を見ると、エリナはまだ身体を丸めたまま眠っている。陸は起こさないようにそっと身体を起こし、テントの入口を開けて外へ出た。
「おお……」
夜の冷たさが少し残った空気が頬に当たる。川の音は昨日と同じなのに、辺りが静かなせいか朝の方が近く聞こえた。木々の間から差し込む光はまだ弱く、草の先には小さな水滴が残っている。
陸は大きく伸びをして、そのまま息を吸い込んだ。
「気持ちいいな」
街で迎える朝とは全然違う。しばらくそのまま立っていたが、腹も減ってきた。
テントへ戻り、まだ寝ているエリナのそばへしゃがむ。
「エリナ、朝だよ」
「んー……」
「起きる?」
エリナがゆっくり顔を上げた。
「リク、おはよう」
「おはよう」
外へ出ると、エリナもすぐに周りを見回した。木々の間には朝日が入り、川の水がところどころ白く光っている。
二人で簡単に朝食を済ませ、そのまま片づけを始めた。
寝具をまとめ、マットを畳み、テーブルと椅子を片づける。最後にテントとタープも外し、順番に所持アイテムへ戻していく。昨日までいろいろ並んでいた区画は、少しずつ何もない状態へ戻っていった。
「なくなった!」
エリナが周りを見回す。
「きゃんぷ、たのしかった!」
「楽しかったな。また来よう」
「うん!」
最後の荷物まで所持アイテムへ入れ、陸は車の方を向いた。
「じゃあ帰るか」
「かえる!」
その時だった。
少し離れたところに、何かが立っていた。
「……ん?」
緑色の肌。尖った耳。陸よりずっと小さい身体。
一度目を逸らしかけて、すぐにもう一度見る。
「え?」
向こうもこちらを見ていた。
「……ゴブリン?」
「えっ?」
エリナも同じ方向を見る。
「ゴブリンいる!」
「いや、いるな……」
ダンジョンなら何度見たか分からない。けれど、ここは山のキャンプ場だ。さっきまで自分たちが過ごしていた場所に、当たり前みたいにゴブリンが立っている。
陸はすぐに鑑定を使った。
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ゴブリン
ランク:F
Lv.3
HP 20
MP 4
筋力 12
耐久 10
敏捷 11
賢さ 4
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「本当にゴブリンじゃん!」
見間違いでも何でもない。
陸は少しだけ迷った。
外にモンスターが出るようになったとはいえ、目の前のゴブリンがどういう個体なのかまでは分からない。誰かが連れてきた可能性も一瞬考えたが、周りに人の姿はなかった。
その間にも、ゴブリンは陸たちへ身体を向け、低い声を上げながら近づいてくる。
「……まあ、放っとくわけにもいかないか」
陸は左手を向けた。
万象の腕輪に意識を向けた瞬間、ゴブリンの身体を炎が包んだ。
「ギャッ――」
声は一瞬で途切れた。炎は周囲へ広がらず、ゴブリンだけを包んだまま一気に燃え上がる。数秒後には火も消え、その場には黒く焼けた跡だけが残った。
「でも、あいつどっから来たんだ?」
外にモンスターが出ていること自体は知っていた。世界更新の日にも、SNSでは山沿いの道路にゴブリンがいたという動画が流れていたし、その後も各地で目撃情報は増えている。
それでも、キャンプ場のすぐそばで実際に見ると話は別だった。
「ちょっと見に行くか」
「うん!」
車はそのままにして、ゴブリンがいた方向へ歩き始める。
木々の間を進んでいくと、ところどころ伸びた草や枝が邪魔になる。陸は万象の腕輪で風を飛ばし、行く手を塞ぐところだけ切りながら進んだ。
数分歩いたところで、また緑色の姿が見えた。
「またいた」
今度は二体だった。
陸はすぐには倒さず、ポケットからスマホを取り出す。
「一応、撮っとくか」
二体のゴブリンが木々の間を歩いているところを、そのまま写真に収めた。
「なんで?」
「なんとなく。一応、残しとこうかなって」
スマホを下ろしたところで、一体のゴブリンがこちらに気づいた。もう一体も続いて身体を向ける。
陸が左手を向けると、二体はほとんど同時に炎へ包まれた。
火が消れたあと、陸はさっき撮った写真をもう一度確認する。
「……ほんとにいるんだよな」
そのまま何となくSNSを開いてみると、画面にはモンスターの話題がいくつも並んでいた。
『スタンピード発生』
「……スタンピード?」
気になって投稿を開く。
今日の朝から、世界各地の複数のダンジョンで大量のモンスターが外へ出る現象が確認されているらしい。日本国内でも何か所かで同じ報告が出ていて、すでに避難を呼びかけている地域もある。
さらに画面を送る。
『山からゴブリンがどんどん下りてきてる』
『近所の人がスキルで何体か倒してる。でもまだ来る』
『町の方まで入ってきた。けが人も出てるらしい』
「え……」
投稿についている位置情報を確認して、陸は眉を寄せた。
ここからすぐ近くの町だった。
「これ、この山じゃないか?」
「このやま?」
「たぶん。俺たちが見つけたゴブリンも、これと同じかもしれない」
エリナもスマホの画面を覗き込む。
「いっぱい出てるの?」
「みたいだな。だったら、どっかに出てくる場所があるはずだ」
陸はスマホをしまった。
「探そう。もう町まで行ってるなら、早く止めた方がいい」
「うん!」
二人は歩く速度を上げた。
そこから先は、ゴブリンを見つける間隔が明らかに短くなった。少し進めば一体、その先では二体。さらに奥へ進むと、今度は四体がまとまって歩いている。
陸は出てきたゴブリンを炎で倒しながら進んでいく。
「……こっちだな」
別の方向へ逸れると姿が減り、戻って先へ進めばまた出てくる。何度か繰り返すうちに、どこから来ているのかもかなり絞れてきた。
「リク、またいる!」
「ほんとだ!」
さらに数体を倒し、斜面を上がって木々の間を抜ける。
その先で、山肌の一部が大きく裂けたように開いていた。
「あった!」
自然にできた洞穴にも見えるが、入口は人が何人も並んで通れるほど大きい。奥は暗く、どこまで続いているのか見えない。
そして、その暗闇の中から。
一体。
また一体。
ゴブリンが外へ出てきた。
「ここだ」
その後ろにも、緑色の影がいくつも見える。
エリナが翼を広げた。
「いっぱいいる!」
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