第123話 午後のキャンプ!
次に目を開けた時には、木々の影が長く伸びていた。昼間より空気が少し冷たくなり、タープの外へ差し込む光も橙色に変わっている。
「結構寝たな……」
陸は伸びをしてから、隣のハンモックを見る。エリナはまだ丸まったまま眠っていた。
「エリナ、そろそろ起きる?」
「んー……」
何度か呼ぶと、エリナがゆっくり顔を上げる。
「ごはん?」
「起きて最初がそれか」
陸は思わず笑った。スマホで時間を見ると、晩飯にするにはまだ少し早い。
「飯はもうちょいあとだな。せっかくだし、少し遊ぶか」
「なにする?」
「ちょっと待って」
陸はショップを開き、遊べそうなものを探した。少し見ていると、サッカーボールが目に入る。
「これでいいか」
購入して芝の上へ置くと、エリナがすぐに近づいてきた。
「これなに?」
「サッカーボール。蹴って遊ぶやつ」
陸が軽く蹴ると、ボールが芝の上を転がっていく。
「わっ!」
エリナがすぐに追いかけ、前脚を伸ばして止めた。そのまま押し返してみるものの、ボールは斜めへ転がっていく。
「リク、そっち!」
「はいはい」
陸が走って追いつき、今度はエリナの方へ蹴り返す。
「きた!」
前脚で弾き、また追いかける。何度か繰り返しているうちに、エリナも少しずつ慣れてきた。前脚で軽く蹴ったり、鼻先で押したりして、だんだん陸の方へ返ってくるようになる。
「もういっかい!」
「いいよ」
陸も笑いながら蹴り返した。
きれいに往復する時もあれば、全然違う方向へ転がって二人で追いかける時もある。エリナはボールが来るたびに楽しそうに翼を広げ、返したあとはすぐ次のボールを待った。
「リク、こっち!」
陸が少し離れたところから蹴る。エリナは走って追いつき、今度は鼻先で陸の方へ返した。
「おっ」
「できた!」
そのまま何度かパスが続く。
次に陸が蹴ったボールは、二人のちょうど間くらいへ転がった。
「あっ!」
陸が取りに行こうとした瞬間、エリナがぱたぱたと翼を動かして飛んでくる。
「エリナの!」
先にボールへ追いつき、前脚で止める。
「ははっ」
エリナは嬉しそうに翼を広げると、そのまま陸の方へボールを返した。
そこからまた二人で蹴り合った。陸が蹴ればエリナが追いかけ、エリナが返せば今度は陸が走る。
「もういっかい!」
「おう!」
しばらく遊んでから空を見ると、木々の向こうへ日が傾き始めていた。
「そろそろ飯にするか」
「やった!」
陸はボールを所持アイテムへ戻した。
陸はバーベキュー用のコンロと食材を出し、タープの下へ並べた。肉、魚、野菜、それに海老や貝も少し用意してある。
「どれ食べたい?」
「おにく!」
「オッケー」
鉄板が熱くなったところで肉を乗せる。ジュッ、と音がして香ばしい匂いが広がると、エリナがすぐ近くまで寄ってきた。
「ちょうだい!」
「もうちょい待って」
両面に焼き色がついたところで食べやすくして渡す。
「おいしい!」
「うまいな」
最初の肉を食べたあとは、魚や野菜、海老や貝も次々と焼いていった。二人で気になったものから食べ、また次を焼く。
食べているうちに空はさらに暗くなり、タープの下まで影が広がってきた。陸がランタンをつけると、テーブルの周りだけが柔らかく照らされる。
最後の食材まで食べ終え、片づけを済ませる頃には、辺りはすっかり夜になっていた。
陸はタープの少し外へ焚き火台を置き、薪を組んで火をつける。小さな炎が薪へ移り、やがてぱちぱちと音を立てながら大きくなっていった。
「きれい」
「な」
エリナが焚き火の前へ座る。陸も隣へ椅子を持ってきて腰を下ろした。
赤い炎が揺れ、薪が崩れるたびに小さな火の粉が上がる。しばらく二人とも何もせず、川の音と薪の弾ける音を聞きながら火を眺めていた。
少しして、陸はマシュマロと串を取り出した。
「これもやるか」
「ましゅまろ!」
エリナは前にやった時と同じように、火から少し離したところでマシュマロをゆっくり焼いていく。
「焦がすなよ」
「だいじょうぶ!」
何個か焼いて食べると、エリナは満足そうに焚き火へ戻った。
陸はそこで、もう一つ用意していたものを取り出す。
「次、これやってみる?」
「これなに?」
「花火」
「はなび?」
焚き火から少し離れた場所へ移り、陸は細長い一本を手に取った。
「ちょっと離れてて」
先端へ火をつけると、シュッと音を立てて明るい火花が広がった。エリナがびくっと身体を引く。けれどすぐに翼を開いたまま火花へ顔を向け、白い光の中に混じる色のついた火花をじっと追った。
「きれい!」
「だろ?」
火花が少しずつ弱くなり、最後に小さく光って消える。エリナは陸の手元に残っている花火へ目を向けた。
「エリナもやる!」
陸は一本渡して火をつけた。エリナの前でも細かな火花が広がる。
「わあっ!」
揺れる光を追いながら、エリナが楽しそうに翼を動かす。
「つぎも!」
色の違うもの、火花の出方が違うもの。二人で何本か続けているうちに、エリナは次にどれをやるか自分で選び始めた。
「リク、これ!」
赤っぽい火花が途中から白へ変わると、エリナがすぐに陸を見る。
「かわった!」
「おお、ほんとだ!」
二人で笑いながら、最後まで光を追った。
残っていた手持ち花火まで楽しんだところで、陸はふと左手首へ目を落とした。
「……これ、腕輪でもできるんじゃないか?」
「うでわ?」
陸は周囲を見て、人のいない上空へ手のひらを向ける。威力をかなり抑えると、手のひらの先に小さな火の玉が生まれ、そのまま夜空へ飛んでいった。
「わあっ!」
エリナが顔を上げる。
火の玉は少し上まで昇ったところで、ぱん、と小さく弾けた。赤い火花が枝分かれするように広がり、ほんの一瞬だけ夜空に丸い光を作る。
「すごい!」
「おおっ!」
思っていたよりちゃんと花火らしくなって、陸も思わず声を上げた。火花はすぐに細くなり、そのまま夜の中へ消えていく。
「もういっかい!」
「これは一回だけ」
「はーい」
明るさが消えると、周囲が急に暗く感じた。
使い終わった花火を片づけて焚き火の近くへ戻る途中、陸は何となく顔を上げた。街ではほとんど見えなかった星が、空いっぱいに広がっている。
「エリナ、上見てみ」
エリナも顔を上げる。
「きれい……!」
二人でまだ燃えている焚き火の近くへ並んで座った。木々の間から見える空にも、細かい星がいくつも続いている。しばらく眺めていると、川の音も焚き火の音も少し遠く感じた。
「エリナ」
「ん?」
「キャンプ、楽しかった?」
エリナは空を見たまま大きく頷く。
「たのしかった! 川も、ボールも、ごはんも、はなびもすき!」
「そっか」
「またきたい!」
「俺も。次は違うところ行ってみるか」
「いく!」
陸も空を見上げる。
「来てよかったな」
「うん!」
焚き火が小さくなるまで、二人でもう少しだけ座っていた。
最後に火をきちんと片づけてから、テントへ入る。昼間に敷いておいた厚いマットの上へ横になると、遊び疲れていたのか、エリナはすぐに身体を丸めた。
「おやすみ、リク」
「おやすみ」
外から聞こえる川の音と、風に揺れる木々の音を聞きながら、陸も目を閉じた。
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