第122話 川遊びとホットサンド!
所持アイテムから大きなテントを取り出し、陸は地面へ広げた。前に二度使っているので、もう説明を見直さなくても大体の順番は分かる。
「エリナ、そっち押さえてて」
「ここ?」
「そう。そこ踏んどいて」
エリナが布の端へ前脚を乗せる。その間に陸は支柱を通し、反対側へ回って形を整えていった。最初は地面に広がっていた布が、支柱を立てるたびに少しずつ持ち上がっていく。
「おおきくなってきた!」
「もう少しで完成」
最後に全体を整えると、見覚えのある大きなテントが山の中に立った。ダンジョンで使った時とは違い、周りには木々が並び、その向こうから川の音が聞こえている。
「できた!」
「よし。中もやっとくか」
入口を開け、今度は厚いマットを床へ広げる。枕や掛け布団も出して端へまとめておけば、夜になってから準備する必要もない。
エリナは中へ入り、マットの上を前脚で何度か踏んだ。
「ふかふか!」
「前と同じやつだけどな」
そのまま一度寝転がりそうになったエリナを連れて外へ出る。
「まだ寝るには早いって」
「まだ?」
「来たばっかだろ」
陸は笑いながら、今回のために買っておいた道具を取り出した。
まずはテントの前に日陰を作る大きな布――タープを張る。支柱を立て、布を広げ、その下へテーブルと椅子を置いた。飲み物やあとで使う調理道具もまとめておくと、さっきまで何もなかった区画が一気にキャンプらしくなる。
「おお……いいじゃん」
少し離れて見ると、テントとタープ、その下に並ぶ椅子までちゃんと一つの場所になっていた。
「リク、これなに?」
エリナが細長い袋を見ている。
「あ、それ。今回買ってみたやつ」
袋から布とロープを出し、近くの木の間へ取り付ける。中央を軽く押すと、張った布がゆっくり前後へ揺れた。
「乗ってみる?」
「のる!」
エリナが身体を乗せると、布がぐっと沈んだ。驚いたように翼が開いたものの、落ちないと分かるとそのまま身体の力を抜く。
「ゆれる!」
「面白いだろ?」
「うん!」
陸が横からもう一度押すと、ハンモックが大きく揺れる。エリナは翼を少し広げたまま、行ったり来たりする景色を楽しそうに眺めていた。
「これ、すき!」
「買って正解だったな」
しばらく揺られていたが、川へ行こうと声をかけると、エリナはすぐに飛び降りた。
キャンプ場の奥へ歩いていくと、水の音が少しずつ大きくなる。木々の間を抜けた先には透明な水が流れる川があり、上流にも下流にも遊んでいる人の姿はなかった。
「誰もいないな」
ほとんど貸し切りみたいなものだ。
陸は川原で靴を脱ぎ、浅いところへ足を入れた。
「冷たっ!」
日差しは暖かいのに、水は思っていたよりずっと冷たい。
エリナは気にせず四本の脚で川へ入り、少し先から振り返った。
「リク、こっち!」
「冷たくないの?」
「だいじょうぶ!」
「強いなあ」
陸も少しずつ奥へ進む。足首を越えたあたりで冷たさにも慣れてきた。
その時、エリナが前脚で水を跳ね上げた。
「うわっ!」
胸のあたりまで水が飛んでくる。
「リク、ぬれた!」
「やったな!」
陸も両手で水をすくい、そのまま返した。
「きゃっ!」
「お返し!」
エリナが川の中を逃げ、陸も追いかける。少し離れたところからまた水をかけられ、今度はこっちから先に飛ばす。
しばらくすると、どちらが始めたのかも分からなくなっていた。
川原へ戻った頃には、陸の服の裾までかなり濡れている。
「面白かったな」
「たのしい!」
エリナはまだ川へ戻りたそうだったが、陸はその場へ腰を下ろした。足元の石を何となくいじっていると、薄くて平たいものが一つ混じっている。
「これ、水切りできるかも」
「みずきり?」
「見てて」
石を横向きに持ち、低い位置から水面へ投げる。
パッ、パッ、パッ、と石が何度も跳ね、そのまま向こうへ沈んだ。
「おお!」
エリナがすぐに陸の手元を見る。
「それやりたい!」
「じゃあ、こういう平たい石探してみ」
二人で川原を歩き、投げやすそうな石を探す。陸が一つ見つけて渡すと、エリナは前脚で挟むように持った。
「こう?」
「うん。横に飛ばす感じ」
エリナが身体ごと振るようにして投げる。
最初の石は、水面へ当たった瞬間そのまま沈んだ。
「……しずんだ」
「俺も最初はそんな感じだったよ。もう一回やってみる?」
「やる!」
二つ目もほとんど跳ねない。前脚で石を投げるのはやはり難しいらしく、陸のようにはいかなかった。
それでもエリナは諦めず、今度は自分で川原を歩いて石を探す。
「リク、これ!」
「お、それいいかも」
薄い石を前脚で挟み、もう一度身体をひねるように投げる。
石が水面へ当たり、一度だけ跳ねた。
「はねた!」
「おお! エリナ、すごいじゃん!」
「できた!」
翼がぱっと広がる。
「もういっこ探す!」
「俺ももっと跳ねるやつ探そ」
そこからは二人で石を拾っては投げた。陸は何回跳ねるかを試し、エリナは一度でも跳ねるたびに嬉しそうに次の石を探す。
しばらくしてスマホを見ると、思っていた以上に時間が経っていた。
「もう昼か。いっぱい遊んだし、そろそろ昼飯にするか」
「ごはん!」
「よし、戻ろう」
キャンプサイトへ戻ると、張っておいたタープの下はしっかり日陰になっていた。濡れた身体を拭き、少し休んでから、陸はテーブルへ昼飯の道具を並べる。
「今日はこれ使ってみようと思ってたんだよ」
取り出したのはホットサンドメーカーだった。
「これなに?」
「パンとか肉を挟んで焼くやつ。ちょっと見てて」
食パンを一枚置き、その上へチーズと肉を乗せる。さらにパンを重ねて蓋を閉じると、エリナが横から覗き込んだ。
「みえなくなった」
「焼けたら開ける」
火にかけると、少ししてパンの焼ける匂いが漂い始める。
エリナの鼻が動いた。
「いいにおいする!」
「だろ?」
一度ひっくり返して、反対側も焼く。
「もういい?」
「そろそろかな」
蓋を開けると、パンの表面にはきれいな焼き色がついていた。
「おお、いい感じ」
「みせて!」
半分に切ると、中から溶けたチーズが長く伸びる。
「わぁ……!」
「熱いからちょっと待てよ」
エリナは受け取ると、ふーふーと息を吹きかけてからかじった。
「これ、おいしい!」
「うまっ。これいいな」
陸も自分の分を食べる。外側はカリッとしていて、中のチーズと肉はまだ熱い。
一個目を食べ終える頃には、エリナはもう次のパンを見ていた。
「つぎ、おにくもっと入れたい!」
「いいな。やってみるか」
ショップを開き、その場で追加の食材を買う。二個目は肉を増やし、次は卵も入れてみる。途中からはエリナもパンの上へ乗せるものを選び始めた。
「これも!」
「チーズ?」
「いっぱい!」
「閉まるくらいにな」
二人で中身を変えながら何個も焼いているうちに、テーブルの上には使った皿が増えていった。
「食ったなあ……」
「エリナもおなかいっぱい」
満足そうに腹を押さえている。
陸は笑いながら最後の皿を片づけた。
午後の風がタープの下を抜ける。川で遊んで、腹いっぱい食べたせいか、身体から一気に力が抜けてきた。
エリナは迷わずハンモックへ向かい、そのまま身体を乗せた。
「ねる」
「もう寝るの?」
「ちょっとだけ」
陸が軽く押すと、ハンモックがゆっくり揺れる。朝のようにはしゃぐこともなく、エリナはそのまま身体を丸めた。
陸も隣の椅子へ深く座る。
川の音が遠くから聞こえ、頭上では木の葉が揺れている。ダンジョンでキャンプした時は、休んでいても次の階層やスケルトンのことを考えていた。
今日は、ただここにいればいい。
スマホも開かず、陸はしばらく山の景色を眺めた。
いつの間にかエリナの目は閉じている。ハンモックが風でわずかに揺れても起きる気配はない。
「ほんとに寝た」
小さく笑い、陸も背もたれへ身体を預けた。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
面白かった、続きが気になると思っていただけましたら、ブックマークや☆評価、感想で応援していただけると励みになります!




