第108話 逃げ道を作れ!
広間の中央を駆けるソニックファングウルフを目で追いながら、陸は眉を寄せた。
「……だったら」
全部塞ごうとするから、形ができる前に逃げられる。だったら最初から、逃げられる場所を一つだけ残せばいい。
「……こっちも戦い方、変えるか」
ソニックファングウルフが右側の柱列へ寄りかける。
「ハイレンジャー! 左を潰せ!」
ハイレンジャーが一本の矢を高く放つ。上空で大量の魔力の矢へ一気に分裂した。矢の雨がソニックファングウルフの左側へ降り注ぎ、黒灰色の身体がすぐに右へ走る。
「よし、それでいい! ダークウルフ、前!」
本体が右前方へ回り込み、分身は少し後ろから距離を詰める。本体を見たソニックファングウルフはさらに右へ切り返した。分身の横には、まだ広く道が空いている。
迷わずそこへ飛び込んだ。
「ハイウィザード! 奥を塞げ!」
ハイウィザードが杖を向ける。赤い光が石床を走り、その先で炎の壁が立ち上がる。ソニックファングウルフは直前で足を止め、すぐに横へ向きを変えた。
左へ戻れば矢が降っている。中央へ戻ろうとすればダークウルフの本体が迫る。残っているのは、分身の横だけだ。
黒灰色の身体が低く沈み、そこへ一気に飛び込む。
「そうだ!」
分身は止めようとしない。ぎりぎりまで道を空けたまま通し、ソニックファングウルフをさらに広間の端へ走らせる。
抜けた先にはアサルトホーンラビットがいた。
敵はすぐにラビットの正面を避け、中央へ戻ろうとする。
「そっちはダメだ! ラピッドショット!」
矢が続けて飛ぶ。一本目が足元へ突き立ち、二本目が中央へ戻る進路を横切った。ソニックファングウルフは身体を捻り、今度は奥へ続く柱列の方へ走る。
その先にはダークウルフの本体。ぶつかる前に外へ切り返せば、アサルトホーンラビットが角を向けて迫った。
それでも一ヶ所だけ、壁際へ抜ける細い道を残してある。
ソニックファングウルフは迷わずそこを選んだ。
「よし!」
石壁と柱列の間を黒灰色の身体が駆ける。陸たちは後ろから追うのではなく、中央へ戻ろうとする側だけを潰していく。
ダークウルフが前へ出れば、ソニックファングウルフは右側の壁沿いに奥へ走る。ラビットが近づけば、またその先へ逃げる。そうして逃げ道を選ぶたび、黒灰色の身体は広間の右奥へ押し込まれていった。
やがて、ソニックファングウルフの先に広間の奥の壁が迫る。
気づけば、広い中央はもう遠い。
背後には奥の石壁。片側には右側の壁、反対側には柱列。中央へ戻る側にはダークウルフとアサルトホーンラビットがいる。
それでも前には、分身しかいない。
ソニックファングウルフがそこへ飛び込む。
さっきまで何度も包囲から抜ける時に見ていた、薄い場所だった。
黒灰色の輪郭がぶれ、一気に距離を詰める。
分身の横を抜ける直前、陸は叫んだ。
「シャドウスイッチ!」
一瞬、黒い影が揺れる。
次の瞬間、そこにいた分身とダークウルフの本体が入れ替わった。
「ギャッ!?」
目の前に現れた本体へ、ソニックファングウルフが咄嗟に牙を向ける。ダークウルフも正面からぶつかり、牙と牙が噛み合った。
ソニックファングウルフはすぐに横へ逃れようとする。
だが、もう逃げ先はない。
後ろは奥の石壁。片側には右側の壁、反対側には柱列。中央へ戻る道には分身が回り込んでいる。
そして正面には、アサルトホーンラビット。
「追い込んだ!」
ラビットが角を低くする。
「ホーンブースト!」
青白い魔力が角へ集まり、長い角がさらに鋭く伸びた。
ソニックファングウルフが低く唸る。もう逃げようとはしない。傷だらけの身体を沈め、真正面のアサルトホーンラビットを睨んだ。
「来る!」
黒灰色の輪郭がぶれた。
最後の力を振り絞るように石床を蹴り、ソニックファングウルフが真正面から飛び込んでくる。ここを突破すれば、まだ逃げられる。
アサルトホーンラビットも退かない。長い角を正面へ向け、強く石床を蹴った。
「レイザーチャージ!」
二体が一直線にぶつかる。
ソニックファングウルフの牙がラビットの肩を掠めた。同時に、青白く光る角が黒灰色の胸元へ突き刺さる。
ドンッ!
勢いのままソニックファングウルフの身体が持ち上がり、後ろへ弾き飛ばされた。奥の石壁へ激しくぶつかり、そのまま石床へ崩れ落ちる。
黒灰色の身体が一度だけ震えた。
それきり、動かなかった。
「……やった!」
アサルトホーンラビットは肩を傷つけながらも、その場でしっかり立っていた。
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