第4話
「灼焼煉火、弐式――日輪!!」
振り下ろした瞬間。
世界が、昼に変わった。
直線に伸びた太陽が、夜空に描かれる。
雲を裂けなくてもいい。
雲の下に、太陽を“作る”。
その一撃は。
巨大な獣を――叩きつけた。
地面へ。
頭から。
低く、短い咆哮が響く。
毛が、焼ける。
赤く染まる。
――通った。
そう思った、次の瞬間。
光が、消え始めた。
「……は?」
日輪が、崩れる。
円にならない。
半分で止まる。
太陽が、ただの直線へ戻っていく。
「どうして首を断ち切れない!!」
叫ぶ。
確かに当たった。
確かに焼いた。
なのに――浅い。
「俺こそが灼熱の魂のはずだろ!!」
伝わってくる。
刀越しに。
メギドレイの“力”が。
重い。
深い。
底がない。
ただ起き上がるだけで、圧が押し返してくる。
「こいつ……!」
一瞬、力が抜ける。
――違う。
頭を下げただけだ。
次の瞬間。
牙が剥き出しになる。
爪が地面に突き刺さる。
血走った黄金の瞳が、俺を捉える。
「ブーストダウン!!」
即座に判断。
刀を縮める。
光を落とす。
その瞬間――
来た。
ブオオンッ!!
空気が裂ける。
頭を振る。
右。
左。
連撃。
嵐。
まともに受ければ、空の果てまで吹き飛ぶ。
「メギドレイッ!!」
避ける。
だが、安心する暇はない。
次の瞬間。
――光が消えた。
「……え?」
世界が、闇に沈む。
何も見えない。
何も分からない。
一瞬、理解が止まる。
でも。
炎だけは、残っていた。
俺の刀。
それだけが、光。
――だから。
目印になってしまった。
気付いた時には。
目の前にあった。
牙。
巨大な。
一つで視界を埋め尽くすほどの。
黒い凶器。
その奥。
闇が蠢いている。
底なしの。
喰われる。
そう理解した瞬間。
光が戻る。
――だが。
それは、敵の光だ。
逃げ場はない。
上下から牙が迫る。
黄金の瞳が、こちらを見下ろす。
俺の炎は、もう。
消えかけの灯火だった。
それでも。
絶望なんて、今さらだ。
俺は、もうとっくに終わっている。
この体も。
この名前も。
全部、借り物だ。
恩人から奪ってしまったものだ。
だから――
「殺してやる」
迷いはない。
「ソウルブースト――壱式・旭光!!」
突く。
最速。
最短。
一直線。
朝日みたいに。
闇を貫く。
――衝撃。
重い。
止まる。
喉まで届かない。
手首が軋む。
折れそうだ。
それでも。
伸ばす。
伸ばし続ける。
火花が散る。
闇を、一瞬照らす。
そして。
体が、弾かれる。
背中から。
空へ。
「化け物がっ!!」
叫ぶ。
だが。
同時に響く。
咆哮。
衝突音。
メギドレイも――無傷じゃない。
血を撒く。
声が歪む。
それでも。
圧倒的に、強い。
なら。
次で終わらせる。
「灼焼煉火、弐式……!」
目を閉じる。
イメージする。
完全な太陽。
今度こそ。
円を描く光を。
炎が変わる。
青が引く。
赤が増える。
熱が上がる。
そして――
白。
まぶたの裏が、白に染まる。
「……やった」
一瞬、確信する。
これだ。
これが、答えだ。
でも。
目を開けた瞬間。
それは消えた。
炎はいつも通り。
赤と青。
白なんて、どこにもない。
「……どうして」
言いかけて。
止まる。
気付く。
視線が、そっちに引っ張られる。
――地上。
白い光。
神々しい。
異質。
そして。
メギドレイも、見ている。
次の瞬間。
牙が刀に食い込む。
振り回される。
抵抗できない。
手を離す。
体が、空へ流れる。
そのまま。
ただ見ているしかない。
メギドレイが。
白へ向かっていくのを。
「……なんでだよ」
呟く。
あれは何だ。
誰だ。
分からない。
でも。
確信だけはある。
あれが――
次の標的。
白と青がぶつかる。
衝撃が、空を裂く。
寒さと熱が、同時に押し寄せる。
そして。
「……受け止めた?」
信じられない光景。
メギドレイの攻撃を。
正面から。
止めている。
人類の敵を。
最強を。
「……嘘だろ」
震える。
理解が追いつかない。
だが。
現実は、そこにある。
拮抗。
一進一退。
もし今、入れば。
仕留められるかもしれない。
でも。
それで。
復讐になるのか?
違う。
そんなものじゃない。
俺がやらなきゃ意味がない。
「……もういい」
いっそ。
このまま消えたい。
全部、終わらせたい。
そう思った、その時。
白い光が――弾かれた。
「……え?」
吹き飛ぶ。
ありえない方向へ。
そして。
理解が追いつく前に、叫んでいた。
「えっ、負けた!?」




