第2話
「返り討ちにしてやる」
言葉にした途端、私の中が一気に黒く染まる。
見た目は、普通の女の子だ。
紅い髪。
少し垂れた眉。
丸い瞳。
セーラー服。
どこにでもいる高校二年生。
――玲音。
でも。
中身は違う。
さっきまで真っ白だった思考は、もうない。
全部――返り討ちだ。
「顕現せよ、灼焼煉火」
言葉と同時に、手に“重み”が生まれる。
赤と黒の塊。
血が固まったみたいなそれが、伸びる。
刃になる。
そして。
――炎が爆ぜた。
ごう、と。
深紅の炎。
私の武器。
振り抜く。
背後を、一閃。
焼き払う。
が。
「……誰も、いない?」
言いかけて。
ぞわり、と背筋が凍る。
違う。
見えてないだけだ。
この青い海は――死角だらけだ。
「くっ!」
跳ぶ。
振り上げる。
炎で迎撃する構え。
でも。
――来ない。
誰も出てこない。
左右。
後ろ。
上。
全部見る。
全部、空。
「どうして……」
本当なら。
「どこにいる」って怒る場面なのに。
違う。
怖い。
敵がいないことが、怖い。
ビルの上に立つ。
見下ろす。
青い傘。
赤い靴下。
まるで。
血の海。
無人島に一人だけ取り残されたみたいな感覚。
「……それでも」
私は止まらない。
捕まる気も。
死ぬ気もない。
仇を討つまでは。
絶対に。
飛ぶ。
次のビルへ。
さらに高く。
さらに遠く。
最後は。
タワーの頂上。
アンテナの先に立つ。
片足で。
炎刀を構える。
「灼焼煉火、弐式」
神経を研ぎ澄ます。
少しでも動けば。
即、斬る。
……でも。
何も来ない。
何もいない。
「どうして……」
勘違い?
違う。
だったらこの景色は何?
青と赤に染まった街。
誰もいないクリスマス。
成立するわけがない。
海を見る。
黒い。
でも街は青い。
逆転している。
綺麗で。
不気味で。
最悪だ。
「……中身、見るしかないか」
プレゼントか。
罠か。
それとも――もっと別の何かか。
炎を消す。
目立つから。
刀だけを持つ。
跳ぶ。
展望回廊へ。
着地。
無音。
誰もいない。
「ここも……無人」
一周する。
誰もいない。
エレベーターも止まっている。
人の気配が、完全に消えている。
「……行きたくないな」
下には行きたくない。
だから上へ。
軽く跳ぶ。
屋根へ。
青い傘と赤い靴下が転がっている。
「さて……」
時間はない。
風で全部落ちる。
でも。
「触りたくないのよね、正直」
気持ち悪い。
でも。
確認するしかない。
駆ける。
覗く。
中を見る。
「……ぬいぐるみ?」
白い毛糸。
長い耳。
ピンクの内側。
「うさぎ……?」
女の子向け。
普通のプレゼント。
でも。
受け取る人がいない。
落ちていく。
誰にも拾われずに。
「……意味わかんない」
次。
次。
次。
走る。
確認する。
薔薇。
絵。
婚姻届。
アクセサリー。
クッキー。
マフラー。
婚姻届。
――全部、普通。
普通すぎる。
「……むむ?」
どれもまともに思えたが、そんな訳がなかった。




