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4、フォルセア、思案する


 魔道伯爵というのは常人ではありえないほどの魔力量がある、というだけでは選ばれない。

 本当に希少で特別な爵位だ。

 魔力量に加え、王国に著しい貢献をした者、それに相応しい成果を挙げた者のみが選ばれる。

 十数年に一人ほどの頻度で選出されるが、何十年もふさわしい者が現れなかったこともある。

 現在の魔道伯爵はわずか三名のみ。

 その最年少が、当時若干十九という年齢で叙勲されたラングルト・ベルツ魔道伯爵だ。

 彼はまだ学生であった十八歳の時に、魔力を宝石に保存する技術を開発し発表した。

 それまでは極大魔法や長時間の魔法行使には、自分の魔力か、魔力の譲渡の特性を持つ魔導庫タンクと呼ばれる希少な人材に頼るしかなかった。

 それを宝石に保存した魔力を後から取り出して使用するという方法を作り出し、魔法世界にとんでもない革新を生んだのだ。

 その功績と、本人の途方もない魔力量と類を見ない魔術理論により、翌年、十九歳という若さで彼は魔道伯爵に叙される。

 ラングルト・ベルツの開発した魔力を保存する宝石は、包魔ほうま石と呼ばれ、非常な高値で流通するようになる。

 だが、様々な問題点も生まれた。

 初期に包魔石を利用して超級魔法をぶっ放し、領地の森林を半壊させた貴族がいたのだ。

 考えうる限りの安全策が急遽必要となった。

 軍事利用への転用を防ぐため他国への輸出は禁止、所持するのも登録制となった。

 そして、大きな病院や水道施設などのインフラ設備には、厳重な管理のもと有事に備えて必ず包魔石が置かれることになった。

 ちなみに、フォルセアが参画を依頼された行政府の新部門も、この包魔石で破壊された森林の復興が難航していることが開設のきっかけになっている。

 また、まだ暫定的にしか決まっていない、ラングルト・ベルツ魔道伯爵の各種研究成果の取り扱いに関してもこの部門で制度化される予定になっている。


 なお、魔道伯爵というのは一代限りの名誉職だ。

 元々、ベルツ家は中堅に位置する伯爵家。先代のベルツ伯、つまりラングルトとフリージアの父親が早世したため、ラングルトが学生のうちに跡を継ぐことになった。

 だが、魔道伯爵の方がはるかに身分が高いため、ラングルトはベルツ魔道伯爵、フリージアはベルツ伯爵令嬢と区分されている。


 情報はあるようで少ない。

 図書館での一件の後、フォルセアは寮に戻り、先に戻っていた侍女のシリスにベルツ魔道伯爵の情報を集めるように頼んだ。

 シリスはルドベキア侯爵家の家令と夫人であるフォルセアたち姉弟の乳母の娘であり、今はフォルセア個人に忠誠を誓う臣下だ。

 彼女はたとえ侯爵家であっても、フォルセアの両親に秘密は漏らさないだろう。

 翌朝にきちんと揃えられていた資料は、ほとんどが新聞や公的に発表されているベルツ魔道伯爵の功績についてばかりだった。

 フォルセアは時折フリージアとの会話にのぼった兄としてのラングルトの姿を思い出す。全てではないが、フリージアの言葉を覚えている。立場上、記憶力はとても良いのだ。

 生真面目で、無口。無愛想とも冷たいとも言われることもあるが、妹であるフリージアには優しさを見せていたようだ。

 両親が非常に厳しかったため、妹の防波堤のようなこともしてくれていたと。

 「もちろん、独身でいらっしゃいます」

 考え込んでいるフォルセアに、シリスが淡々と告げる。

 「魔道伯爵と縁戚になりたい家門は多く、たくさんお声がかかるそうですが、全てお断りなさっているようです」

 「そうなのか?」

 「東寮のご令嬢に勤める侍女から聞きました。かのご令嬢も縁談を申し込み断られたそうです」

 「それは、口が軽いものだ…」

 「聞く分には助かりました」

 主人の秘密を軽々しく話すものではないが、まあそれはフォルセアたちには関係のないことだ。

 一晩で色々と働いてくれたシリスに、フォルセアは笑顔を向ける。

 「急がせてしまったかな、ありがとう」

 「いえ、問題ありません」

 乳姉妹でもある主君に、シリスは目を細める。

 「お嬢様の将来に関わることです。全力でお手伝いいたします」

 「まあ、丸わかりだったろうな」

 フォルセアは気心の知れた姉のような存在に、わずかに耳が熱くなる。さすがに己の考えが筒抜けなのは恥ずかしい。

 そう。候補だ。

 盲点も盲点だった、親友の兄君。

 魔力も権力もあり、嫁いだ令嬢の身分にもあまり頓着しなさそうな。


 例えばツワンベルのデューク公子なども、自身の結婚相手の候補にフォルセアを数えているようだが、フォルセアからすると論外の相手だ。

 ルドベキア侯爵家はフォルセアを守護の行き届かない他国に嫁がせる気は全くないし、フォルセアも国家行政府で働くことができなくなる。

 また、他国の王族に嫁ぐにはフォルセアは価値が高すぎるのだ。

 五大侯爵家は全てアルストロメリア王家の血を継承している。その侯爵令嬢が嫁ぐ際には、何かしらの友好条約の一つでも締結しなければいけないだろう。

 さすがにそのような複雑な事態は、避けたい。国王陛下のお考えなどフォルセアには分からないからだ。

 それに、フォルセアは侯爵家として王家の役割の代行を務めることもあるのだ。おいそれと役目を放棄できない。

 今まで少ないながらもフォルセアに将来を見越した交流を提案した子息たちがいたが、彼らのほとんどが次男三男と、家の跡継ぎにはなれない者たちだ。

 彼らが期待するのはルドベキア侯爵家の後ろ盾。

 むしろ余っている爵位を譲り受けることかも知れない。前述もしたが、その場合、彼らは侯爵家の言うままに、フォルセアを真綿に包むように屋敷に閉じ込めるだろう。

 それに、フォルセアが幼い頃に他の侯爵家から婚約を破棄されていることは、社交界でまあまあ知られている。

 フォルセアと婚約することで、その侯爵家と折り合いが悪くなるかも知れない(実際はそんなことにはならないのだが)、そう危惧する貴族も多いと聞く。


 では、同世代ではなく年長者などはどうか。

 フォルセアの知る男性たちは、大概結婚か婚約をしているし、独り身の男性はいささか醜聞を持っていたりする。

 ヒュッテ・クレアドール女伯も伝手を当たってみると別れ際に言っていたが、フォルセアの入局に結婚と、彼女が関わっていることがフォルセアの両親に知られると、今後、クレアドール家とルドベキア家の間で軋轢が生まれるかもしれない。

 自分の将来の可能性を広げてくれた恩人に、そのようなリスクを負わせることは避けたい。


 (で、ラングルト・ベルツ魔道伯爵だ)


 着替えも朝食も済み、すでに始業時間も過ぎている。何食わぬ顔で授業を受けながら、フォルセアはずっと考える。

 教師からの質問に答えて、ノートに必要事項を記入する。休み時間には友人と会話を楽しむ。

 フリージアたちとはクラスが別なので、親友と会うのは昼食の時だ。

 少ない情報も、多くのクラスメイトたちと話せば形が増えてくる。

 それとなく、会話の端に織り交ぜた質問に、少し離れた友人がやってきて答えてくれることもある。

 噂や思い込みの人物像も面白くはある。それを信じさせてしまった魔道伯爵の人柄や、脚色して受け取ってしまった人物の性格が分かるからだ。

 他人の恋の話なども聞いていて楽しい。

 婚約者や恋人がいる者や、男子も女子も絶賛恋人募集中の者もいるのでとても参考になるし、また一生懸命に相手を想う姿は素敵だと思うし可愛らしい。

 それが、自分にも起こることなのかというと、何ひとつ自信がないのだが。


 おのれの無力を知った十一歳の頃。

 フォルセアはある種の諦めを知ったのだ。

 自分は真っ当な、世の中にあるべき侯爵家の娘にはなれないのだと。

 それは貴族に課された務めを果たせないということだ。

 王家のために、国のために。

 力のない自分はどうすれば良いのか。どうすれば、誰かの役に立てるのか。

 考えて考えて、そして、そばに居てくれたまだ小さな弟の姿を見て、理解したのだ。

 侯爵家の跡継ぎに相応しい弟。魔力の弱い姉を慕い、防御魔法の中継をして守ってくれている、その姿。

 (私はこの子たちを守ろう)

 その頃には二人の妹も生まれていた。フォルセアとは違い、真っ当な魔力量の妹たち。姉として、本当に可愛くて可愛くて仕方がない宝物たち。

 (せめて、何としても、この子たちを守ることを自分の役目にしよう)

 フォルセアの生き方が決まったのはこの時だ。

 体力を付け身体を鍛え、領兵や護衛騎士たちから体の使い方を学んだ。

 武器を持つことは決して許されなかったが、自分で自分を守ることができる、無事である確率を上げるためにと説明して、両親は何とか許してくれた。

 誰かを討つのではなく、自分を守るためだけに、という約束をして。

 もう六年にもなる。学園ではオルソーにも協力してもらいながら、出来るだけ欠かさず鍛錬は今も続いていた。


 そんな生活を続けてきたフォルセアは、恋愛について考える事などなかったのだ。

 親友二人の恋路で満足していた風ですらあるし、自分は卒業後は父の決めた相手と結婚するのだから、誰かを好きになる必要はないとも考えていたし、そう「あるべき」と教えられて来た。

 なので、いざ結婚相手を、と考えた時にどうしても恋をする自分を想像ができない。

 それが相手から自分へ向けられるとも、全く思えない。

 愛のない夫婦は貴族では普通だ。

 結婚は義務である、仕事なのだ。だからせめて良い関係を結べる相手を望む。

 (パートナー…そうか、相棒のように出来れば…)

 愛などなくとも信頼関係を結ぶことなら。

 王家のため、国のために。

 それならば、フォルセアにも出来るような気がした。


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