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3、親友達は大騒ぎ


 「卒業後に国家行政府にスカウトされたから就職しようと思う。だからそれに理解を示してくれて、更に両親が納得できる結婚相手を探すことになった」


 「情報量えぐいな」

 「突然が過ぎますわ!」


 この親友たちにだけは、とヒュッテに許可を得ていたフォルセアは、新部署のことなどは伏せて彼らに報告した、ら、この有様だ。

 (貸切にしておいて良かった)

 図書館の個室で、溜め息の理由を尋ねてきた親友二人がうめいている。

 特に淑女であるはずのフリージアが手のひらでバンバンと机を叩くものだから、とても他人には見せられない。

 「この際契約結婚でもいいと思うんだ。だが、相手がなぁ」

 フォルセアは友人知人は多いが、びっくりするくらい浮いた話のない学生生活を送っているのだ。

 侯爵令嬢の身分があるから将来を請われる事はあるが、ごく少数。

 しかも彼らは大抵が爵位の継承権のない次男三男なので、ルドベキア侯爵に逆らってまでフォルセアを屋敷の外に出す事はしないだろう。

 女性にしては背が高く凛々しい言動のフォルセアは何というか、身分以外ではもてないのだ。運動実技の授業だってそこら辺の男子生徒よりも点数が高い。

 むしろ女生徒にばかり好評なありさま。

 「何が良い案はないかな?」

 「お前、見切り発車もいい加減にしろよ。なんで今日一日でこんなことになってやがるんだ」

 俺より切羽詰まった状況じゃねぇか。

 滅多なことでは動じない傭兵出身のオルソーが呆れた声を上げた。その隣でフリージアはわなわなと震えている。

 「私も放課後にクレアドール女伯に呼び出されるまで知らなかったんだ」

 仕方ないだろう。

 あっけらかんと返すと、フリージアは、まただんだんと机を叩いた。さっきよりも勢いが強い。恋人と親友がのんきなので、彼女が怒るしかないのだ。

 「それにしても、物事には順序があますわ!フォルセア、貴女も説明が足りなさすぎます!」

 もう少しこちらに心の準備をさせてくださいませ!

 「すまない、二人が相手だとついな。甘えてしまう」

 「もう!もう!そんな言葉で許しませんからね!」

 「許すよな」

 「いつも許してくれるよな」

 「もう!貴方たち!」

 フリージアを愛でる会(会員二人)は、ついつい笑顔を浮かべてしまう。

 ひそりこそりとわざとらしく顔寄せ合って言葉を交わせば、フリージアは頬をふくらませる。

 フォルセアとは違う、苛烈な教育を施す両親の下で育てられ、しかもこのアルストロメリア王国で三人しかいない特別な人材、魔道伯爵を兄に持つフリージアは、自他共に厳しくあろうとする。

 だが、気を抜く事ができない家庭環境だったからこそ、つい、親友二人には甘くなってしまうのだ。

 「すまない、勧誘の理由や行政府の事情はまだおおやけには出来ない。内密にするように約束したんだ。二人も絶対に外に漏らさないでくれ」

 「…俺が聞いて大丈夫なやつか?」

 「大丈夫なところだけ話している。いやなに、物騒な話じゃない。まだ確定していない事案だから発表できないだけだ」

 「半端な憶測はいけませんものね。分かりましたわ、お約束いたします」

 「…で、俺たちが聞いて大丈夫なのが、お前が婚活するってことか」

 「身も蓋もありませんわ」

 「それすら、父上たちに聞かれないようにしてくれ。事後報告でゴリ押ししたい」

 「脳筋の思考」

 「貴女は賢いのに、近道を全力疾走して最後の一押しが力尽くなのはどうしてですの?」

 大騒ぎだ。

 本当に貸切にして良かった。

 しかも、フリージアによる防音魔法まで施されているので、この喧騒も部屋の外には悟られない。

 学園内での授業以外の魔法の行使は基本的には不可だが、この程度の魔法ならば暗黙の了解で許されている。

 図書館内で騒がれるよりはましなのだろう。

 「ふざけているように聞こえるかもしれないが、本当に青天の霹靂で、だが、すごく嬉しかったんだ」

 嬉しすぎて、少しうろたえているのだと思う。

 (我ながら、情けないことだ…)

 少し、声音を落としてフォルセアは告げた。フリージアとオルソー、二人には出来るだけ正直でありたかった。

 二人にも、フォルセアが卒業後は自由が効かなくなる事は告げてあった。

 だからフリージアは、頻繁に茶会を開いてフォルセアを招くと意気込んでいたのだ。少しでも、会える機会を増やすために。

 フォルセアを役目以外でも外に出すために。

 「フォルセア」

 フリージアはフォルセアの手を取ると、しっかりと握りしめた。

 「協力いたしますわ。貴女のためですもの」

 「フリージア」

 「俺もだ、まあ、何が出来るのかは分からねぇが」

 オルソーも後頭部を掻く仕草をしながら口の端を上げる。

 「二人ともありがとう」

 フォルセアは頭を下げた。

 くしゃりと笑う。

 …何だか少し泣いてしまいそうになり、堪えるように唇に力を入れた。自分の未来が変わるかもしれないのだ。

 「もう!勉強する気がどこかへ行ってしまいましたわ」

 「すまないな」

 「構いません、何事にも優先順位というものがありますもの…そうだ、そうですわ」

 広げるだけだった参考書を片付けながら、フリージアは二人を見る。

 「わたくしも行政府を目指そうかしら」

 「は?」

 オルソーが間の抜けた声を出す。

 「そうですわ。私も卒業後はお母さまやお兄さまのご指示があるかと思っていましたから何も予定がないのです。行政府を目指したって良いですわよね。フォルセアも、お兄さまもいらっしゃいますもの」

 きらきらとした笑顔で告げる。

 フリージアの兄はベルツ魔道伯爵、現在の行政府魔道局の局長である。

 オルソーは恋人の突然の宣言に、先のフォルセアの爆弾発言よりもうろたえた。

 「おいおい、大丈夫なのか」

 「もちろんです。私はこれでも学園で最優秀の評価をいただいているのですもの。魔道士の資格だって目指しています。もっともっと努力して、来年度のインターンも採用していただきますわ」

 それに。

 フリージアはオルソーの手を取った。

 「オルソーは私のために騎士を目指してくださるでしょう?私だって手に職をつけて、あなたを待ちますわ」

 「フリージア…」

 「うーん、子々孫々語り継ごう」

 「お前は黙ってろ」

 恋人たちは二人の世界にはなりきれない。野暮な第三者がいるのだ、時と場所は考えねばならない。

 オルソーはわざとらしい咳払いをする。

 「分かった。フリージアもフォルセアも応援する。俺は何としても騎士になる」

 「よろしく頼む」

 「頑張りますわ」

 三人で拳を合わせる。これはオルソーが教えた仕草だ。傭兵たちは仲間内でこのようにしてから任務へ向かうらしい。

 今の彼女たちにとっては決意表明だ。

 ちょうどその時、遠くの鐘の音が聞こえる。フリージアの防音魔法は外からの音は通すのだ。彼女は本当に優秀なのである。

 もう、学園が閉まる時間だ。それぞれの寮に戻らなければいけない。

 結局手付かずだった勉強道具を片付けていると、フリージアが呟いた。

 「お兄さまに、相談してみますわ」

 「兄君に?」

 「ベルツ魔道伯か」

 「ええ」

 鞄に筆箱をしまう。

 フリージアは念の為にと机の上に置きっぱなしだった杖も、きちんとケースに収めている。

 「お兄さまは魔道伯爵位を賜って自動的に魔道局の局長になってしまいましたから、採用試験のことは分からないでしょうけれど、採用側の意見は分かるはずですもの」

 今度のお休みに会いに行ってみます。

 名案だとばかりにフリージアは笑みを浮かべる。


 ラングルト・ベルツ魔道伯爵。


 フォルセアにとって、魔道伯爵の叙勲式の時に姿を見た以外は、新聞でその名を目にするだけの存在だ。

 (そうだ、フリージアの兄君だ…)

 フォルセアはその名に、ふと、思考が揺れた。


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