第19話 屋上での死闘
夜明けの風が、バルセロナの屋上を叩きつける。
ヘリのローターが唸る。
バララララララ……!!
白む空。
血に濡れた階段を駆け上がった沖田と坂本の前に――
二つの影。
ロレンソ・ファルコン。
黒いコートを翻し、静かに拳銃を構える。
その隣。
神谷迅。
ICPO捜査官。
だが今、その手には警察バッジではなく、黒い自動拳銃。
沖田の瞳が細まる。
「……やっぱり、あんただったか。」
神谷は冷静な声で答える。
「合理的判断だ。ファルコン家を内部から押さえるには、近づくしかなかった。」
坂本が一歩前に出る。
木刀を組み上げる音。
カチリ。
「ほうか? そりゃ潜入やのうて、裏切り言うがや。」
ロレンソが微笑する。
「彼は賢い男だ。法だけでは世界は変わらないと理解した。」
神谷の目が揺れる。
だがすぐに固くなる。
「法こそ秩序だ。だが秩序を守るには、時に闇も必要だ。」
坂本が吐き捨てる。
「あんた……正義じゃねぇなぁ。」
土佐弁が屋上に響く。
「正義を語るがやったら、表で堂々と立たんかい。裏で銃持つがは、ただの悪党ぜよ。」
ヘリの風圧が四人のコートを翻す。
沖田が刀を抜く。
銀の刃が朝日に光る。
「坂本。理屈は後だ。今は止める。」
神谷が銃口を向ける。
ロレンソはサブマシンガンを構える。
2対2。
屋上決戦。
――始まる。
ロレンソが先に撃つ。
ダダダダダッ!!
沖田が横へ跳ぶ。
弾丸が床を砕く。
坂本が一直線に駆ける。
銃弾を紙一重でかわし――
居合。
キィン!!
ロレンソの銃身が真っ二つ。
だが次の瞬間、神谷が発砲。
パンッ!!
坂本の肩をかすめる。
「ぐっ……!」
沖田が神谷へ詰める。
三段突き。
一の突き弾かれる。
神谷が拳銃を捨て、近接戦闘へ移行。
警察仕込みの格闘術。
肘打ち。
膝。
関節を狙う。
沖田が後退。
「法を守るためだ!」
神谷が叫ぶ。
「違う!」
沖田が返す。
「それはあんたの恐れだ!」
一方――
ロレンソがナイフを抜く。
静かな殺意。
坂本と交錯。
木刀と刃がぶつかる。
ゴンッ!!
ロレンソが低く囁く。
「復讐は正義だ。」
坂本が歯を食いしばる。
「復讐は……ただの怒りぜよ!」
回転。
居合の返し。
ロレンソの頬が裂ける。
血。
怒りの目。
神谷と沖田。
刃と拳。
神谷の蹴りが沖田の脇腹を打つ。
沖田が踏みとどまり、三段突きの三撃目。
喉元寸前で止める。
「撃てるか?」
沖田が問う。
神谷の目が揺れる。
その隙。
坂本が叫ぶ。
「沖田ァ!!」
ロレンソが背後から跳ぶ。
ナイフが振り下ろされる。
沖田が反転。
刃が交差。
キィィィィン!!
朝日が差し込む。
ローター音が響く。
四人の呼吸が荒い。
屋上の端。
あと一歩で奈落。
坂本が神谷を睨む。
「あんたが信じとるもんは法やない。自分の弱さから逃げる言い訳や。」
神谷の拳が震える。
ロレンソが低く笑う。
そして、唇を歪め、スペイン語で吐き捨てる。
「Se acabó el tiempo.」(時間切れだ。)
ヘリの爆音が一段と高まる。
バラララララララ……!!
風が屋上を削る。
ロレンソはさらに一歩、奈落の縁へ下がる。
「Este es mi mundo… y ustedes nunca lo entenderán.」
(ここは俺の世界だ。お前たちには理解できない。)
その目は狂気ではない。
確信だ。
沖田が刀を構え直す。
坂本が血を拭う。
神谷の拳がわずかに揺れる。
ロレンソは最後に微笑む。
「Adiós.」(さらばだ。)
その瞬間。彼は跳ぶ。




