表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
30/32

28本目

 アタシは未来へタイムスリップなどしていなかった。ただ、2016年4月1日から2017年3月31日までの記憶を失っていただけなのだ。

 組織(パラグライダース)がアタシの記憶操作を行なったこと(イベントB)は、もはや疑いようがない。やつらがアタシにしたこと、それは……


 恋人・山田一郎についての記憶を消した。

 エージェント水戸かず子を生み出した。

 

 ……である。エージェント水戸かず子の誕生は、おそらく山田一郎がゲル状になって溶けた事件(イベントA)と関係していると思われる。

 すくなくとも、2016年4月1日の時点ではアタシというエージェントは未登録だった。

 記憶操作が組織による元彼女(カノ)への報復なのか、あるいは素人のアタシが何か重大な秘密をしったがための口封じなのかは、わからない。


 とにかく2017年3月31日、ばりばりに洗脳されたアタシはパラグライダーに乗って、陽気な女スパイ気取りでミッションにあたった。

 そう、青木岳人と出会ったあの夜である。

 青木という男は存在し、また存在しなかった。ふたつの可能性があった。だから世界は混乱した。パラドクスが起こった。


 そして青木と出会ったアタシは、彼とともに2016年の山田一郎の部屋へと飛ばされた。正真正銘のタイムスリップだ。

 皮肉にも、そこがアタシの恋人の部屋だったなんてね、てへ。


 青木岳人と山田一郎。彼らの属性がなぜ似てしまったのか、これもアタシにはわからない。きっと世界が混乱したせいだろう。

 卒業アルバムを開いてはならない、などという出鱈目なTPメールがなぜ青木の元に届いたのか。これも説明がつかない。きっと世界が混乱したせいだろう。

 山田花子が卒業アルバムをひらいたのも、それによってアタシの目のまえで青木が消えたのも、なにもかも説明がつかない。

 ぜんぶ世界が混乱していたせいだ。顔がデカいからや。



 アタシはペンを置くと、すっかり冷めてしまったお茶に口をつけた。

 描き上がった世界線チャート(前回参照)を、女性職員の若林芽衣が興味津々といった感じで覗き込んでいる。

 もし請われたらアタシは自分の推論を探偵と芽衣に話すつもりだった。

 ただし、山田一郎の溶解事件およびアタシと組織とのつながりは伏せておきたかったので、それぞれイベントA、Bとしてモヤッとさせた。


 電話を終えた多々木探偵がもどってきた。

 いわく、何とかという占い師に協力を求めたが、ことわられたそうだ。その占い師はいまハワイでヴァカンス中だとか。


「力になれず、申し訳ない」

 謝る探偵にアタシは手を振った。

「いいえ、大丈夫です。なんか……自己解決しちゃいました」

「マジで?」

「はい」言ってアタシはソファから立ち上がった。「謝礼は如何程(いかほど)ですか」

「いいよ、そんなの。何もしていないから、もらえないよ」

「……そうですか」


 これからアタシがどう動くべきかは、もう決まっていた。

 山田一郎に関する記憶は依然もどらないが、とりあえず、彼を生き返らせることがいまのアタシの目標だ。

 過去改変するためにはTPメールの送信方法をゲットしなくちゃいけない。

 今日探偵に会いにきたのはそれが目的で、そしてそれは不発に終わったが、まだ望みはある。


 つぎの2017年に、もしまた青木と出会えたら、ふたたび世界が混乱(ダフ)ってタイムスリップが起きるだろう。

 そのとき、アタシはただしい道筋をおぼえている。偽のTPメールに惑わされず、きっと青木も山田も救い出してやる。


「ありがとうございます」

 アタシは彼らに深くお辞儀して事務所を出た。そのあとで、やっぱりひと言だけ言いたくて、ドアをもう一度あけた。

 きょとんとする探偵と芽衣にアタシは元気よく声をかけた。


「オーキードーキー」



(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ