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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
29/32

27本目(★)

 この多々木という中年探偵、のらりくらりとして掴みどころがないが、要所要所で的確な意見をアタシにぶつけてくる。

 過去改変や世界線といった用語(ワード)にも、くわしい。さてはSFクラスタか。

 とくに彼が言った、別世界線へのTPメール送信は不可能という指摘が妙にアタシに突き刺さった。

 まあ多々木(おまえ)が言うなって感じだが……。だって青木が受け取ったTPメールには、探偵自身が別世界線にいると書いてあったのだから。


 あきらかに矛盾している。だが、いま目のまえにいる探偵の指摘のほうがアタシには正しいように思えた。

 つぎの瞬間、まるで雷に打たれたかのような衝撃が走った。うわうわうわっ。

「あ、あのう、紙とペンを貸してもらえますか」

 アタシは若林芽衣という女性職員に頼んだ。すると彼女はすぐにそれを用意してくれた。


 多々木探偵はデスクで誰かに電話をかけている。

 それはTPメールの送信に一歩近づく行為としっていたが、いまのアタシはそんなことも気にならないくらい超ゾーンに入っていた。

 いわゆる、ひとつの、(ひらめ)いたのだ。


 もし、これまで2本だと思っていた世界線が1本だったら。

 もし山田一郎の言ったとおり、彼がアタシの恋人だったら。

 もし、アタシが組織によって洗脳されていたら。

 もし、青木が受け取ったTPメールの文面がまちがっていたら。


挿絵(By みてみん)


 図表(チャート)を描き上げたアタシは、びっくりするほどの手応えを感じていた。これだ、これこそが唯一の真相だと思った。


 この(いびつ)な物語は2017年5月2日、青木岳人が殺されたところから、はじまる。

 彼が誰に、なぜ殺されたかは、この際どうでもいい。アタシには、しりようがないからだ。

 おなじ日に、多々木探偵によって()()世界線上の青木にTPメールが送られる。アタシと青木が見た「卒業アルバム回避」とはべつの文面が載った真のメール、その名もTPメール(真)。


 青木がいつTPメール(真)を受け取ったか、わからないので、かりに2016年4月1日以前とする。

 彼はメールの指示に従い死の危機を回避した。過去改変が起きたことで世界線が変動した。

 世界線の変動は、観測者によって見え方がちがってくる。青木にとってはあたらしい世界への突入だし、アタシにとっては青木が消えた世界……。


 いや、どうなんだろう、青木は本当に消えてしまったのか。あるいは、やはり彼はこの【世界線1】では死ぬ運命なのだろうか。

 青木が消えた(移動した)世界と、消えていない世界。ひとつの世界線のなかに、ふたつの世界が入り混じっている。


 文字どおり世界は混乱した。それがのちにパラドクスを生むことになる。

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