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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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26本目

「TPメール?」

「あ、ごめんなさい」と水戸は咳払いをした。「過去宛(トゥ・パスト)メールを略して、アタシが勝手にそう呼んでいるんです。現在の、ふつうのメールと区別するために」

「……言っていることが、よくわからな」

「多々木さん」

「っ、」

 食い気味に名を呼ばれて、探偵はビクッとなった。


「とうてい信じられないかもしれませんが、アタシの知人である青木は、未来のあなたからTPメールを受け取ったんです」

「マジっすか」

 水戸の目は真剣そのものだった。ことの真偽はさておき、彼女が多々木の個人アカウントである「チャンエー院ホウマ」をしっていることだけは、まちがいない。


「ちなみに、そのTPメールはどんな内容だったの?」

「……すこしややこしい話ですが、聞いていただけますか」

「聞きたい、ぜひ」


 請われて水戸は、知人である青木岳人という青年のことを探偵に話した。

 青木がもともと居た2017年を【世界線1】とし、この2016年を【世界線2】と仮定したうえで話をすすめた。


「すると青木青年は、世界線1と2を行ったりきたりしている、てわけ?」

「そうみたいです。そして彼は、どういうわけか世界線1で命を落としてしまう運命にあるらしい。それを回避するよう、あなたが、世界線1からこの世界線2へTPメールを送ってくれたんですが……」

「で、けっきょくきみは、青木くんとはぐれちゃったと」

「はい。こうなると予想していたわけじゃないんですが、念のため、チャンエー院ホウマさんのアドレスをアタシのスマホに登録しておいた。それで今日、連絡した次第です」


「過去へ送るメールねえ」探偵はごま塩アタマを撫でつつ言った。「だが、ちょっと気に入らない」

「どの辺が?」

「うん。TPメールは、理論上、同一世界線上にしか送れないはずなんだ。それが送られたことによって過去改変が起きる、つまり世界が分岐する」


「世界線の移動……」

「そういうこと。分岐した先の世界をしることなぞ、神にしかできない御業(みわざ)だとは思わないか」

「……作者がダフッたんじゃないでしょうか」

「え、なに?」

 水戸の声があまりに小さくて探偵には聴き取れなかった。


「いえ、なんでもありません。……それじゃ、お聞きするまでもありませんが、多々木さんはTPメールの送信方法をご存じないですよね」

 水戸はちょっと残念そうだった。だが探偵は意外な返答を寄越した。

「しらない、いまはね。でもそんな不思議な御業をやらかしそうな御仁(ごじん)なら、心当たりがないでもない」

「本当ですか!」


 思わずソファから立ち上がる水戸に、まあまあ落ち着いて、と多々木は苦笑しながら言った。

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