26本目
「TPメール?」
「あ、ごめんなさい」と水戸は咳払いをした。「過去宛メールを略して、アタシが勝手にそう呼んでいるんです。現在の、ふつうのメールと区別するために」
「……言っていることが、よくわからな」
「多々木さん」
「っ、」
食い気味に名を呼ばれて、探偵はビクッとなった。
「とうてい信じられないかもしれませんが、アタシの知人である青木は、未来のあなたからTPメールを受け取ったんです」
「マジっすか」
水戸の目は真剣そのものだった。ことの真偽はさておき、彼女が多々木の個人アカウントである「チャンエー院ホウマ」をしっていることだけは、まちがいない。
「ちなみに、そのTPメールはどんな内容だったの?」
「……すこしややこしい話ですが、聞いていただけますか」
「聞きたい、ぜひ」
請われて水戸は、知人である青木岳人という青年のことを探偵に話した。
青木がもともと居た2017年を【世界線1】とし、この2016年を【世界線2】と仮定したうえで話をすすめた。
「すると青木青年は、世界線1と2を行ったりきたりしている、てわけ?」
「そうみたいです。そして彼は、どういうわけか世界線1で命を落としてしまう運命にあるらしい。それを回避するよう、あなたが、世界線1からこの世界線2へTPメールを送ってくれたんですが……」
「で、けっきょくきみは、青木くんとはぐれちゃったと」
「はい。こうなると予想していたわけじゃないんですが、念のため、チャンエー院ホウマさんのアドレスをアタシのスマホに登録しておいた。それで今日、連絡した次第です」
「過去へ送るメールねえ」探偵はごま塩アタマを撫でつつ言った。「だが、ちょっと気に入らない」
「どの辺が?」
「うん。TPメールは、理論上、同一世界線上にしか送れないはずなんだ。それが送られたことによって過去改変が起きる、つまり世界が分岐する」
「世界線の移動……」
「そういうこと。分岐した先の世界をしることなぞ、神にしかできない御業だとは思わないか」
「……作者がダフッたんじゃないでしょうか」
「え、なに?」
水戸の声があまりに小さくて探偵には聴き取れなかった。
「いえ、なんでもありません。……それじゃ、お聞きするまでもありませんが、多々木さんはTPメールの送信方法をご存じないですよね」
水戸はちょっと残念そうだった。だが探偵は意外な返答を寄越した。
「しらない、いまはね。でもそんな不思議な御業をやらかしそうな御仁なら、心当たりがないでもない」
「本当ですか!」
思わずソファから立ち上がる水戸に、まあまあ落ち着いて、と多々木は苦笑しながら言った。




